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ケロロ軍曹#34

「くるくる回って元の道の巻」

(A)桃華と一緒に商店街を通りがかった冬樹は,福引で1等を引き温泉旅行のチケットを3枚+1枚手に入れる.もちろん冬樹たち家族と一緒に温泉旅行に行きたい桃華の差し金だ.ところが運悪く夏美と小雪も通りがかり,残る1枚で小雪が温泉に行くことになってしまう.

(B)ある晩秋の高い空の日.軍曹は夏美のマグカップを割ってしまい,動揺して家を飛び出してしまう.乗り物の故障で公園に落下した軍曹を見つけたのは冬樹.2人はいつもは通らない道の散歩を開始.その先には普段は気にすることのない不思議な光景と,それにまつわる懐かしい思い出が待っていた.

手堅く展開する「ケロロ」は冒険するにしてもハジケる方向ではなく,ギャグ以外のより幅広い方向に手を広げていくあたりがさすがは一般向け.特に今回後半の冒険は対象年齢を大きく引き上げているのが面白い.地味に展開され話の筋すらろくにない話なんですが,雰囲気だけでいいものを見たような気分にさせる(笑)という高等技術が光ります.
前半は桃華VS小雪.財力を考えると史上最強の可能性が高い桃華さんと,その身体能力はあからさまに人間離れしている小雪さん.冒頭から相変わらず桃華さんの金持ちぶりは常軌を逸しているんですが,なんだか見慣れてきてしまって,占いに現実を合わせる程度なら普通に思えてきました(苦笑).福引商店街で桃華さんが無理に冬樹にくじを引かせるあたりで今回の計画が視聴者には露呈.無理やり桃華がくれた1等は露骨に3+1.ここで余裕を持って+2くらいにしていれば…,ちょうど通りがかった夏美と小雪のおかげで+1枚のチケットは小雪さんのところへ行くことが決定.年は小雪のほうが上なんですが,態度を見ていると桃華の方が年上に見えるのなぜだろう(笑).ついでに日向家では軍曹が残る1枚を欲しがるわけですが,夏美さんときたらルービックキューブで気を逸らせる始末.…軍曹ごまかすのってちょろいなぁ(苦笑).
どうしても冬樹と一緒に温泉にいかないと占い通りにならないと,桃華さんはいきなり実力行使.本来は小雪さんを買収するなどの手を使うのがより西澤家らしいんですけども,たぶん小雪さんの家が見つからず実施できなかったに違いない,ボイスチェンジャーを使い,冬樹の電話に小雪の声で電話をかけて旅行を断ったはずが,鞄の相談にやってきた小雪さんのおかげであっさり台無し.「帰れ帰れ」と「嫌だね嫌だね」のオーラの出し合いで,どっちもチケットを譲る気皆無.乙女心は大好きな人と一緒に温泉に行けるチャンスをむざむざ他人に与えるようには出来ていないのです.そこに乱を好むクルルが参上しチケット争奪戦を心理戦から肉弾戦へと転換.回収した奴が温泉に行ける!というルールの明確化によって溢れたのは桃華さんの本性.美少女忍者対美少女パワードスーツというマニアックな対戦が実現するわけですが,裏桃華さん,だんだん人間離れしてきたなぁ(苦笑).
解けないパズルを与えられた軍曹は,それを分解&再構成でなぜかキューブが三角に.おにぎり工場にでも行ったのか(笑)? 夕日の中でバトる乙女2人の間に乱入しチケットを横からかっさらう軍曹を,ロケットビンタで叩き落とした上でモモカインパクトを放つ桃華さん,大好きな人のペット?だというのにまったく容赦なし.チケット(と軍曹)が燃えたのはどうでもいいとして(笑),気になるのはペコポンへのケロン技術の流出.あのパワードスーツの性能を見る限り,既にかなりの技術がタママを通じて西澤家に渡っていそうで,大事にならなきゃいいんですが….
結局燃えたチケット+α分は秋ママさんが大人の財力でかぶってくれてめでたしめでたし.時期的にも,もうすぐ冬のボーナスが出ますしね.視聴者によっては,タイトルに「温泉」とつきながらサービスシーンはここだけというキッズアニメ仕様が非常に哀しいかもしれません(苦笑).

後半は間違いなく子どもを置いていくという意味で冒険話.もちろん客を突き放さない程度のナレーションやドタバタは入れてあるんですが,面白みのコアになる部分は文学的.長期シリーズでなければ入れられない種類の話なので,そこをしみじみと鑑賞してみましょう.
秋の空は高く,軍曹は夏美さんのカップを割ってしまい動揺して家出.そこに冬樹も加わって…というか落下した軍曹を冬樹が助けたところから始まる小さな旅.普段通らない遊歩道は真っ直ぐで,そこを行くことになる中くらいの冬樹と小さな軍曹.半年以上地球で暮らして来たゆえに,知識はともかく,軍曹の考え方は随分とペコポン風に変わっています.
レストランの取り壊し現場を見て,当然のようにモアさんを思い浮かべる軍曹に対し,昔ここに来たときの思い出を懐かしむ冬樹.同じもののはずが見る人によって明らかに違う意味を持つのは,過去の事実がそこにあるから.建物は崩され,そう遠くない将来に冬樹の記憶からも消えてしまうに違いない光景ですが,ここに日向家が来ていたという事実だけは変わりません.もしここに来た頃の軍曹ならば,思い出が消えるからと短絡的に建物の破壊を食い止めようとする話になっていたかもしれませんが,今の軍曹は,見て,理解して,そして通り過ぎます.
赤い円筒ポストをギロロに見立ててみたりしながら続く散歩はなぜか理髪店の中へ.懐かしい思い出に出会ってしまって顔を赤らめる冬樹に対し,冗談で追い討ちをかける軍曹.でもこの言葉はあくまでも冗談.本気でクルルの銃を使おうとは思わない風に軍曹は変わり,ゆえに物語は始まらず散歩は続きます.
地蔵を石化と勘違いする軍曹.自分の興味のあるものには詳しいものの,それ以外は結構無知なまま.しかしそれをきっかけにしてドタバタが始まるほどに分別がないわけではなく,いつもの物語の縁をくるくると回って,けれど落ちない軍曹と冬樹.薬屋のカエルに対する「おめえ,へそないんだな」ってネタは凄まじく古いんですけどね(笑).
何も始まらず,何も終わらない冬樹と軍曹の散策.心を止めれば世界は止まり,心を動かせば世界も動くというサブローのナレーション.くるくると同じ場所で回る2人は動いていないように見えますが,見る側が心を動かし角度を変えれば,「行動を起こさない」という形に軍曹は変化しているわけです.
またいつかここに来ようという冬樹との約束.それが実現するかどうかは別の話.ここに2人がいて約束したという事実だけは確実にこの場所に残ります.何もしなかった2人が唯一やったことはこれから先へと続く約束…ってまあ他にも軍曹はマグカップを壊してるんですが(苦笑).くるくる回る空っぽの物語の中には乾いた青空と陽光で一杯.
暖かい雰囲気を抱えて,きっと通常営業な次回に続きます.

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