陰陽大戦記#12
「それこそが恐らくは変貌の理由の巻」
ユーマは青龍を祀る社の前でマサオミに出会うが,「天流の白虎使いが来ている」とマサオミは言って社の中の太極陣の中へと消えてしまう.その天流の白虎使い・リクは新太白神社で朝を迎えた.思い出せない楽しい夢の余韻でぼんやりとしているリクは,ナズナたちとともにもう一度天流遺跡へ向かい,御神木の根元の空洞に手を差し入れて光り輝く勾玉を取り出す.その勾玉の正体も,リクがなぜそこに勾玉があるとわかったのかもわからない,何も知らない3人の天流闘神士たちの前に,地流のユーマが姿を現した.
ここまで驚異的な面白さを見せてきた「陰陽」.素敵な電波でツッコミがいのある(笑)キャラの魅力や,注目点を変えることで,弱い技中心でも十分魅せるというバトル演出の魅力だけでも通常の作品のレベルを軽く超えてうれしいんですけども,それ以上に凄いのは物語の構成力.話の筋本体はごく普通のもので破綻もなく,多少の経験と理解力のある視聴者ならかなり先まで読めますが,あちこちにそっと,それこそ気にしなければ流されてしまいそうな場所に置かれている伏線・因果を忠実に回収していく様子はまさに脅威.余程事前に作品を構成する要素を細かく取り決め,さらに決して壊さないようにコントロールしないとこうはならないはず.これを楽しむには他作で学んだ「お約束」や邪な目線はむしろ邪魔.わざと忘れて真正面から組み合ったとき,これほど手ごたえの来る作品は本当に久しぶりです!
前半は短いですが重要.前回リクたちがなんとかイゾウを退けた頃,ユーマは竹林の中の青龍を祀る社に来ていました.そのユーマの前に姿を現したのは,前回途中でリクを置き去りにしたマサオミ.ユーマと話すマサオミのにこやかな真っ黒さがものすごく,悪魔というのはきっとこんな笑顔に違いない.「きゅんときちゃうなぁ!」や符を使った瞬間移動マジックに誤魔化されて全てを忘れてしまいそうですが(苦笑),リクの情報を流すマサオミは一体誰の味方なのか?
そして夜.マサオミに「里帰りしている」と言われたリクの夢はようやくアバンに繋がります.前回も軽く強調されていたご神木の根元で,ハマってじたばたしている幼いヨウメイ.なんでそんなところに詰まったんだ(笑)? そこに来る母親は麗しく,にこぉと笑うヨウメイも可愛らしい,暖かい夢.
朝になっても夢の余韻にいつも以上にぼーっとしているリクは,暴食のテルに朝食を片づけられてます.おかげでナズナの中ではテルの株価は人としてストップ安に(笑).リクは,夢の楽しさだけを覚えていました.不思議だけどとても楽しい夢は彼の過去の断片だったのか,リクはもう一度遺跡に向かい,朧な記憶に従って御神木の中から勾玉を取り出します.輝くこの勾玉は,あの幼いヨウメイが取ろうとしたものなのか,それとも隠したものなのか.この神秘的なシーンの直後,勾玉を眼にした天流3人組のやりとりがどうにもおかしい.テルはともかく,思わせぶりなナズナまで「わかりません」だもの(笑).もちろん勾玉があることがなにゆえわかったのかというナズナの質問に対し「うーん,なんとなく」と答えるリクのボケっぷりは一段違うわけですが(苦笑).
けれどほのぼのムードもここまで.地流のユーマが遺跡に来て短い前半は終了.
怒涛の後半! まずはマサオミ側.前半で陣の向こうの霧の回廊…伏魔殿?で出会ったフードの男とマサオミ.どうも別の奴とここでデートの待ち合わせをしていたらしいマサオミですが,相手が違うことに気がついて態度を変えます.「ここは貴様らが入っていい場所じゃない」って,地流はどうして入ってはいけないのか? そしてマサオミの待つ相手を倒したのか「お前の待っているものは来ない」と言うフードの男.マサオミはキバチヨを降ろし,天流の青龍使いを名乗ろうとしますが相手に否定されます.なんせ神操機に書いてあるからね(笑).フードを外し,同じく青龍のブリュネを降ろすのは天流のヤクモ! 年こそ違いそうですが,彼はコミックで主役を張っている彼と同一人物なのか?
青龍の戦いは白虎の戦いと同時に展開しているんですが,槍を使い空間を大きく使うのが特徴.持つ神操機の形は違うものの,強い闘神士同士の戦いは大技が入り乱れ激しく,かつ華麗なもの.マサオミが邪気滅殺砲,竜鱗爆雷と技を連発すると,これを印ではなく符を使って封じるヤクモ.しかし戦いの中ではやがてマサオミが優位に立ち始め,ヤクモは撤退,マサオミも深追いせず終了.上級者同士の戦いは実に鮮烈.
一方天流遺跡のリクたちの前にはユーマが登場.前回の戦いで式神を傷つけた2人の仲間に対し「早く下がれ!」と強い言葉を放つリクは完璧にスイッチが入ってます.初めての戦いとは違い,仲間のソーマのためにも戦いを止めようとするわけですがそもそもユーマにそれを聞く耳があればこんなことにはならないわけで.結局ユーマもリクも白虎の式神を降ろし,剣を装備させ闘神を開始.天流遺跡をぶっ壊しながらはじまるコゲンタとランゲツの戦いは直線的で力強く,ナズナはリクが宗家であるかどうかをこの戦いの結果に賭けることにします.
少なくともただの初心者ではなくなったリク.闘神士が戦いを見つめることができるようになったためか窮地にも良い動きを見せ,己を狙う剣すら体術で防ぐコゲンタ.しかし技自体の強さはランゲツにかなうわけがなく,大技を食らったコゲンタはひどいダメージを負ってしまいます.怒涛斬魂剣すら避けられて打つ手のなくなったリクとコゲンタが選べる道は,コゲンタがリクに託した百鬼滅衰撃の印のみ.素晴らしい力を秘めた印ではありますが,外せば逆にコゲンタの命が風前の灯火となる諸刃の剣…これを使わせないことをリクはコゲンタに対する信頼の証としてきましたが,しかし出さなければこれでお別れと言われ,己の言葉を曲げる覚悟を決めます.離坎震震の印で発される百鬼滅衰撃は技だけでなくランゲツすら吹っ飛ばす力を発揮! 式神の信頼に答えて価値ある印を切ったリク.闘神士の能力が式神の力を引き上げるわけですが,眼前の巨大な成果に対し「お前は最高だぜ」と言い残し,倒れるコゲンタ.しかし戦いがここで終わらなかったことが,恐ろしいものを招くことになります.
百鬼滅衰撃の生み出した灼熱の道の向こうで,倒れたはずのランゲツが立ち上がり,動けないコゲンタにとどめを刺すために接近.これを防ぐため,必死で神操機を振るリクの姿と叫びは悲壮.普通に考えれば厄介ごとを運んできた己の式神を,「まださよならしたくないんだよ!」と叫んで呼び起こそうとする様子は百鬼滅衰撃に涙を流し怒ったときの繰り返し.しかし今回はもう一歩先へと進み,極限に追い詰められたリクは,「もう,ひとりぼっちは嫌なんだよ!」と本心を絶叫! …これは,9話で欠けていた大きな要素の一端.コゲンタを失うのが嫌なのは,孤独になるのが嫌だから.リクの心を動かしスイッチを入れる動機の一部が明らかになることによって,溢れる光! コゲンタは異様な脈動をはじめ,その体からは巨大な黒い影が立ち上ります.式神本来の力を開放するという大降神を図らずも発動させてしまったリクの手と神操機は激しく震え.黒い影はランゲツを軽く蹂躙.誰にもコントロールできない異常事態に飛び込んできたのはユーマの知己であるらしいミヅキ.ランゲツを回収して姿を消し,残るは暴走するコゲンタのみ.リクは必死で元に戻るように叫び…その声に応えたのか,ようやく元に戻るコゲンタ.
大降神の姿はアバンで暴れている巨大な式神の姿によく似ています.千年前にこの地を滅ぼしたのは地流の大降神? それにわざとこの地を襲わせたのだとすれば,大降神をコントロールする方法もありそうですが.また,リクが孤独をひどく嫌うのは,両親の存在を途中で失うという生い立ちゆえのこと? コゲンタを失うだけで「ひとりぼっち」って,祖父や友達はちゃんといるはずなんですが….
元に戻ったコゲンタは眠っていて,リクはようやく安心できて,失わずにすんで.「式神も,眠るなんて,おかしいよ」と喜びの涙を流します.流派章は参の位へと上がり.1クールの終盤を彩る相当重要な回もなんとか終了.「孤独が嫌」なんてのはごくありきたりの動機なんですが,大切なのはそれをどう見せるかという過程.今回は,その描写の丁寧さが本当に素晴らしい! で,折角素晴らしいんだから,百鬼滅衰撃の「衰」が「哀」になってるようなので直したほうがいいんじゃないかな.
さて次回は総集編風? でも京都にあの2人の姿があるのはなぜですか(笑).のめりこんで見ていた視聴者に一息つけさせてくれるとありがたい次回に続きます!
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