陰陽大戦記#23
「僕は僕のことを知らないの巻」
ボート部の練習中から少し様子がおかしいリク.最近変な夢ばかり見ているのだ.京都に行って以来良く見る夢に出てくる女の人が誰なのかわからない…そんな会話の最中に吹き抜ける突風と,遥か頭上を飛んでいく謎の光.地流のミカヅチビルで建造中の大鬼門が誤って開き,そこから妖怪たちが飛び出したのだ.
ナズナの主導で天流の社に妖怪を呼び寄せて倒す「妖怪祓い」を行うことになるリクたち.リクはその光景に不思議な既視感を感じている.実際の戦いはソーマとフサノシンが大活躍で無事に終了したものの,元凶を封じなければまたこのような事態が起きるとも限らない.大鬼門という危険な装置をつくった地流に対して怒るリクの前に,またも地流のユーマが現れた.
太刀花リク激動の夏休みもいよいよ終盤.ついに過去と現在が繋がる段階に来たはずがむしろ最近の過去がぷっつり切れてしまう危機に陥っていく「陰陽」.とはいえシリーズ中盤での大事件とそれに伴うパワーアップはキッズ向けアニメではお約束.龍神丸もマッハジャスティスもちゃんと中盤で大変なことになってますからね(笑).でも実際にそこへ持ち込むやり方が素晴らしいから,わかっていても驚くし,面白い.ごく普通の中学生だったはずのリクはこれまでの経験で強い闘神士に変わり.その変化はきっと彼の中に封じられたものを揺り動かし…けれどリクは,未だに自分の中にそれがあることを知りません.
前半は夢のなかより.御簾の向こうで話す男女を見ている幼いヨウメイ.宗家の血を継ぐヨウメイの才能を思い知った男と,そんなヨウメイに戦いなどさせたくない母.一度は逃げたらしい彼女たちは連れ戻され,望まずに宗家を継がされる…以前とは違い声までしっかり入った悲しい夢にやられたリクは,目覚めたあともそれを引きずって調子を崩しています.京都のときは夢のムードしか覚えてないようでしたが,今は登場人物まで把握しているようです.で,そんな調子でもやっぱりボート練習はせねばならず,秋の大会で勝つ気満々のリュージにつきあいながらボートを漕がされる主役.息が合わないとうまく進まないダブルスカルも,夏休みの合宿の成果でちゃんと走るようになってますね.
しかしリクの不調は止まらず,モモからタオルを手渡される様子にすら別人の姿が重なり戸惑うことに.前回がきっかけとなって夢は夜から抜け出し,白昼夢としてリクの目に映りはじめる…というシリアスなシーンのはずなのに,後でリナがボートでぐるぐる回っていて台無しに(笑)! 横はともかく,縦回転は尋常じゃないよなぁ.
モモに自分が見る夢を話すリク.そして夢の登場人物にまで対抗心を燃やすモモ(笑).母親ではないかというモモのコメントは実は大当たりのようですが,肝心の記憶がないリクには判断ができません.十年前の事故.もし今のリクがヨウメイで,しかも進学できる程度にしっかりとした戸籍なら,ヨウメイではない本当のリクが別にいて入れ替わったのか? と,そんな真相はそのうちやってくれるだろうからまあいいとして(笑),中学1年の夏が終了することのほうが今のモモたちにとっては重要.去り行く季節に寂しさを抱くのもつかの間,暴風とともに空に走る光,飛んでいく妖怪の姿が夏休みの終わりを飾ります!
妖怪が飛び出したのは,東京都心の地流のミカヅチビルの大鬼門.誤って開いただけでこれだけ飛び出すのだから,本格的に開かれたらどれだけのものが中から出てくることやら.狼狽する部下たちに比べミカヅチは余裕で,舞によって強大な赤い影を降ろし,その場の余計なものを吹き飛ばすわけですが,本当に恐ろしいのは実はここから先.事件のことをこともなげにもみ消せるミカヅチの社会的な地位が怖い(苦笑)! 組織の収入源と合わせ,地流の謎は深まるばかり.でも,こんな組織と当たったら,闘神士としてではなく,社会的に抹殺されかねないのが怖いよなぁ.
天神町ではナズナが天流の社で妖怪祓いを実施.妖怪を招く符を焚き上げて社に呼びよせ,それを式神でやっつけるという手法です.妖怪との戦いが空中戦中心でフサノシンが大活躍する一方,リクは妖怪祓いの様子からまたも見たことがないはずの過去の光景を目にして狼狽.予期せぬ光景が蘇るたび,驚くより怯えているように見えるのは,リク自身が思い出したくないからなのか.そんなリクが前線に出ることがなかったためか妖怪祓いは無事に終了するわけですが,最後に妖怪よりもずっと厄介な男がこの社に到来.流派章が六となったユーマが,十分な修行を積んだ上に花を気遣う心の余裕まで身につけた上で参上.これまでは格下の相手を踏み潰す気合で押し切ってきた彼ですが,今回のユーマは対等の相手としてリクに向かってきます.
後半は謎から暗転へ! リクとユーマとナズナとソーマ.前半終了間際から彼らが繰り広げる会話に含まれる情報量の豊かさときたら呆れるほど.天流は千年もの長きに渡り,地流を騙し妖怪退治をさせていたという地流側の「真実」.確かに天流のごく少数が古くから伏魔殿に入っていたことが14話で明らかになっているわけですが,地流に告げずに鬼門に入っていた程度でここまで話がこじれることはなかったはず.今後,天流が伏魔殿で何をしていたのかに全ての謎がかかってくるんだろうな.で,恐らくは神流のマサオミもそれを狙っているんでしょう.ユーマたちの父はこの件により深い知識があったからこそ,「天流と協力しないと大変なことになる」と主張していたんでしょうが,ユーマにはそこまで深い洞察はできないようです.
そしてはじまる奇妙な闘神.天流の白虎使い,天流宗家を倒したいユーマと,ソーマ君のお兄さんとは戦いたくないリク.「どうして皆,僕を天流宗家にしたがるの!」と己がここまで押し付けられてきた立場を否定しようとするリクですが,悲しいことに,彼はただの中学生ではありません.ただの太刀花リクなら,見た覚えのない大降神の記憶がいきなり蘇ってきたりするはずがないのです.
ナズナの判断で今回は一騎打ちになるコゲンタとランゲツ.リクが絶好調のはずで体が随分軽いコゲンタ.しかし実際のリクは額を押さえ,とても快調には見えません.けれど闘神の中でリクの瞳からは光が消え,さらにリクの姿をした別の人間へと変貌します.ユーマの印すら力んで見えるほどに自然で素早いトランス状態のリクの印.離震兌離は前回思い出した破軍孤影斬なんですが,「孤」がやっぱり直ってない(苦笑).つい笑ってしまうので次回までにはぜひ修正をお願いしたいところです.
これまで散々苦しめられてきたランゲツの技をことごとく潰すリクの高速の印.ユーマも負けじと怒涛斬魂剣を邪五行滅衰で相殺するものの,兌坎震離,自慢の爆砕牙点穴を兌坎離震,酔無縛天之舞で緩やかにかわされた上に激しいカウンター攻撃を喰らう始末.明らかに流派章を超えたパフォーマンスを見せる敵闘神士を前に,ランゲツは危険な大技を出すようにユーマに依頼.凶王凶乱破砕陣はコゲンタの百鬼滅衰撃と同じ意味合いの技で,きっとユーマを信頼した段階でランゲツから伝えたんだろうな.一方,なんの脈絡もなくいきなり新技を出したはずなのにその技を「忘れてなんかいない」と呟くリク.トランス状態の彼は反則気味の強さ.ユーマとランゲツが命を削る大技すら,冷静な判断でさらに強い印を切って跳ね返してしまうなんて! 白虎族の守り神に祈りを捧げつつ兌坎坎震と印を切るリク.それを受けて白虎妙王返でランゲツの渾身の一撃を跳ね返すコゲンタ.その結果生まれたこの場一面の炎に,失われていた瞳の光と,ないはずの記憶が蘇ってしまうリク.
全ての技を出し切って空っぽになったユーマの神操機は激しく震え,ついにランゲツが大降神! その様子からすると,式神の伝える大技を含め,持っている全ての技を放つことが大降神の引き金になる可能性が高まってきましたね.そして,目前で猛る巨大な大降神に,リクは自分の知らない自分の記憶をさらに思い出すことに.ようやく本編に繋がったアバンの光景には緊迫した声が乗せられていました.ヨウメイをどこかに送ろうとする母.それを止め,ヨウメイに何かを手渡す男.男は宗家の血を引かず,ヨウメイは引いてるってことは母方の血? しかし男の妨害に負けず母はヨウメイを遠くへと送り….
それは誰かの夢なんかではなく,己の過去で,現実.けれどリクは「…あれは全部夢なんだ…幻なんだ…」と抵抗.受け入れられない過去を否定するので精一杯のリクに,コゲンタの「印を切れ!」という叫びはもはや届かない.どうしても失いたくなかったから,一緒に戦ってきたコゲンタに大降神のランゲツの一撃が迫っても…「僕は何も知らないんだ!」 これまで必死で掴んできた神操機がリクの手から離れ,ランゲツの攻撃を浴びたコゲンタの存在は宙に溶け,真っ白に消えて…倒れるリク!
キッズ向けの年間スケジュールをこなす本作が洒落にならないのは,式神を失った闘神士が記憶を失うという凶悪な設定.本来は相棒を失った主役が必死の努力で再び相棒を取り戻すというのが王道なんですが,その役割を担うはずの主役まで記憶を失ってしまってどうするのか! こんなときに楽しい仲間たちは…あんまり役立ちそうにないから困るんだよなぁ(苦笑).とはいえ失われるのは闘神士リクの記憶で,中学生のリクと幼いヨウメイの記憶は残っていそうだから,そのあたりから自力で突破口を開くのかもしれません.まさしく中盤のクライマックス.絶妙の展開で頁を捲る瞬間さえもどかしい物語の先に待つのは一体何か! 本来のターゲットである子どもたちがこの急展開にちゃんとついて来ているのか多少不安になりつつも,次回に続きます!
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