陰陽大戦記#26
「この力は笑顔のためにの巻」
過去の記憶を取り戻し天流宗家として現代に戻ってきたリクは,翌日地流宗家のもとに向かう.同行するのはソーマとマサオミ.ただしマサオミはいつものバイクで単独で移動する.新幹線での移動中,地流宗家のミカヅチのことをソーマから聞くリク.苦労人のミカヅチの経歴は先物取引の会社に入ったことで花開いたが,その影には式神の力があったという噂.しかし戦うことしかできないはずの式神に,気象をコントロールすることなどできるのか.
重要な因縁が明らかになることで流されてきた昨日が終わり,リク自らが道を切り開く今日がついにはじまった「陰陽」.戻ってきた記憶は悲しいものですが,これまでのリクにはなかった宗家としての責任感と行動力を彼に与えます.おかげで本当に主役らしくなったリクは実に頼もしいんですけども,その一方でのんきだったり間抜けだったりするほうのリクらしさもしっかり健在なのは情けないような,うれしいような(苦笑).見事なボケっぷりの天流宗家を支える周囲の人間の苦労は,今後も変わりなく続いていきそうです.そんなリクの周囲の信頼の輪から外れかかっているのがマサオミ.本作中でも最も事情を知っているに違いない彼は,リクを使って何を狙っているのか.
前半は短くたっぷりと設定を語ります.冒頭は,ミカヅチビルの屋上で千年の大願が成就する日が来たと告げるミカヅチと,岩と化した父に報われる日が来たと告げるユーマ.地流の2人が目指すものは,ユーマは同じだと思っているでしょうが実際は別なんだろうなぁ.そしてミヅキ.ここまでの献身がはじめて報われるわけですが,それは悲しい物語のはじまりでもありました.
名落宮から戻ってきた翌日,リクは前日の決意の通り,マサオミ・ソーマとともに東京の地流宗家の元へ話しに行くことに.何かがあったときのためにナズナさんを留守居役に任命するリク.本当の宗家に頼まれては,ナズナも断りきれない様子.そしてマサオミはバイクで東京まで.前もバイクで京都まで行って驚かれてましたが,その理由が「鉄の塊が動くのが信じられない」というおかしな理由であることが判明.「牛車のほうがマシ」って彼はやはりリクと同時代の人なのか.バイクも鉄の塊だと思うんだけどそのあたりはどうなのか(笑).
旅立つ直前,新聞を取りに来たモモと顔を合わせたリク.一昨日からの出来事のおかげで,今までの幼馴染と変わってしまったことを敏感に感じ取っているモモはどうしても他人行儀.それでもリクは「話さないといけないことがある」と言い出します.本人の中でも整理がついていない荒唐無稽な御伽噺について,話せるときが来たら話すと,自分から言い出してくれるリク.リクの側から言葉を差し出したのは,モモに理解してもらいたいから.そのことからリクが自分を完全に置き去りにするつもりはないのだと気がついたモモは,幼馴染として,リクの危険な旅を止めずに,見送ります.このあたり,いつもは一方的だった気遣いが互いからされていて,リクに恋の自覚はないとしても(笑)いい感じです.ボート部の練習のときも肝心なことについて嘘をついてリュージたちに告げないのは,きっとリクは仲間に心配をかけたくないと思っているはずだと,モモなりに考えてのことなんでしょうね.リナのおかげでまたも変な回転をしているボートを背景に,リクがどうしているのかをモモが心配していた頃,リクは新幹線で東京に向かっています.
新幹線の社内で地流宗家のミカヅチについてソーマに尋ねるリク.己の宿命に真正面から当たる覚悟を決めたリクは,随分自主的に動いているよなぁ.ミカヅチグループの総裁であり地流宗家でもあるミカヅチは,かなりの苦労人でたたき上げの男.先物取引の会社で頭角を表し,ミカヅチ交易からミカヅキ物産へとステップアップした後はM&Aを重ねコングロマリットを形勢,日本を代表する一大グループに…敵組織の創業の歴史をこんな風に語るキッズアニメは珍しい.ちなみにグループ企業紹介時の背景の桜の木は,当然「この木なんの木」のパロディでそんなとこで笑わせてどうするのか(笑).地流が最も恐ろしかったのは巨大な組織を支える資金がどこから出てきているのかだったので,そこが明快に説明されただけ,地流という組織に対する得体の知れない恐怖は薄れたかも.
気がかりなのは「式神の力を使って世界的に気象をコントロールしている」という噂.冒頭の描写を見るとミカヅチは星を読めるらしいので,異常気象の発生を占いによって事前に知れば,操るのと同様のことができるんじゃないかな.ただし式神は戦うことしかできないという前提は,使役されるとはいえ節季を司る神なんだから少々疑わしい.
後半は大きく2つに.まずはミカヅチとの初対面.ミカヅチグループの本社ビルにやってきたソーマとおのぼりさん.地流組織がミカヅチ技研として偽装されているあたりは,高コスト体質でもおかしくない研究会社なところが妙にちゃんとしていてうれしい(笑).おのぼりさんことリクはいろいろなものに真正面から向かってしまい,これにやきもきさせられるソーマ.正しい会社訪問としては,まず,訪問先に事前に電話連絡などでアポイントメントを取り,客先に対し失礼でない格好で出かけるというのが基本的なところ.そこがからっきしできてない天流宗家は,受付に「うちはアパートメントを経営しています」と真正面からボケる始末.…確かにしっかりしたし行動力もついたんだけど,基本的な性格は全然変わってないんだなリク(苦笑).というわけで警備の者たちに囲まれるわけですが,例の秘書が迎えにきて,そのままリクひとりが地流の中枢に案内されることになります.「外で待ってて」とソーマに言い残したリクには,気負いも動揺もない様子.敵の本拠地に主役がやってきてそのまま案内されるって展開も,この手の作品にしては非常に珍しい.
ミカヅチの部屋ではじまるのは,大人と子どものトップ会談.星見するらしいミカヅチは「天と地が千年ぶりに交差すると告げていた」と語り,リクは天流宗家の証拠として月の勾玉を見せます.京都の夢で出てきた小さなヨウメイが,あの木のうろに隠した月の勾玉です.リクが天流宗家としてここに来たのは,天流が千年前に侵してきたという罪について知った上で,謝罪すること! …組織の長としてはそういうことはちゃんと裏を取ってからやるのが正しいので,リクの行動は馬鹿なんですけども(苦笑)そのバカぶりが凄く良い.「悪いことをしたら謝る」って,当たり前だけどしがらみのある組織対組織ではそう簡単にはできないことを,あっさりやってのける常識のなさや正しい倫理観は,リーダーとして素晴らしい才能だと思います.もちろん,横に有能な補佐をつけとかないとだめでしょうが(笑).
ミカヅチの語る伏魔殿縁起は,ヤクモの話の続きであり,裏.鬼門を封じた天流と妖怪退治をしていた地流.しかし天流は地流を騙し,勝手に鬼門を開いて中の資源を使っていた.地流は千年前に天流を襲って大鬼門を破壊.宗家が消え,今は天流の分家筋だけが残り,真実は地流にのみ伝承されていると語るミカヅチ.伏魔殿に封印された「ウツホ」の存在すら天流の作り話で,真のウツホは自然を操作し,対極に通じ四季を操る四大天のこと.これを「ウツホ」と偽って,天流は己のエゴのために利用してきた.伏魔殿すら天流が四大天と闘神石でつくった理想郷.その理想郷のために,多くの地流闘神士が妖怪に襲われ,殺されてきた…というのが地流に伝わる伝承.
騙されて利用されてそれゆえに今天流を討伐し大鬼門を己のものとしようとしている地流.その行動の源は天流に対する深い恨み.けれど,この伝承は本当に真実なのか.天流と地流が憎みあうことで利益を得るのは,実は天流でも地流でもない.例えば天流側にマサオミがいるように,地流の側にも蛇がいるのではないのか?
大鬼門を開こうとする意思はもはや揺るがず,それまでの時間つぶしにとユーマをけしかける地流宗家.罪についてできるだけ謝罪しつつも,これから先,鬼門を開くことで罪のない人たちが苦しむことは認めず,「もし嘘だったり皆が悲しむことが起きるなら」事を起こすと,条件付の宣戦布告をする天流宗家.
ユーマがリクを許せないのは,リクに恥をかかされてきたから.リクがユーマには負けられないのは,彼のランゲツのために自分の両親が死んだから.2人の私怨による戦いなんですが,ミカヅチとの対話にこれを持ち込まなかったリクは偉い.しかもユーマを前にしても,「恨みで戦うつもりはない」と頑張って理想を貫こうとするリク.「僕はこの力を,みんなの笑顔のために使うんだ!」 …リクが理想を真に受けるような愚かな子どもで,本当によかったなぁ.
ミカヅチビルの中で大鬼門を開放するための儀式が進むのと同時に,屋上ではコゲンタとランゲツの戦いがヒートアップ.リクのかわりに怒るコゲンタと,それを迎え撃つランゲツ.怒涛斬魂剣や孤月拳舞というおなじみの技を食い止められるコゲンタ.ランゲツの爆砕牙点穴は酔無縛天之舞で相殺.コゲンタの破軍孤影斬をランゲツ渾身の凶王凶乱破砕陣が迎え撃ち,それを白虎妙王返で食い止める,という目まぐるしい技の応酬は前の戦いと同じですが,リクの意識がある分前回ほどの圧倒的な強さはないようです.そして,豪雨とともに大降神する2体の白虎族.大降神の発生条件がよくわからなくなる様子を,影で見ているのがマサオミ.彼はやはり…火に油を注いでいる.
大鬼門を開くミカヅチの儀式は最高潮に.ミカヅチだけでなく他の重役も大降神.鬼門より立ち上る赤い光は,四大天の像を輝かせ,その光はビルを縦に貫き,屋上から空へ! それを機に,マサオミは大降神のキバチヨに地流の白虎を葬るように指示.巨大な龍となったキバチヨは天に昇り,雲間からランゲツを襲います.絶対にリクたちの前では見せない残酷な表情を浮かべるマサオミは,リクが記憶を取り戻した今,リクを鍛えるために必要だったユーマの存在がもはや邪魔なようです.必要ないなら放っておいてもいいところをキバチヨで倒そうとするのは,今の地流にこれ以上の力を持たれても困るということなんだろうか….しかし,そんな三つ巴に突っ込んできたのがクラダユウ!
クラダユウは闘神士であるミヅキのため,その身を犠牲にしてキバチヨからランゲツを守り,敗北.一途にユーマを慕ってきたミヅキは,大鬼門のもたらす赤い光の中でその思いを告げ,ユーマは今まさに失われていくものの価値に初めて気づき,叫びます.赤い光に飲み込まれ消えてしまう2人とランゲツ.それを見ていることしかできなかったリクをわざとらしく迎えに来たのがマサオミ.ここにいると「伏魔殿の奥底に引きずりこまれる」とさらっと関係者でないとわからないことを口走る彼は,本当にどこまで知っているのか(苦笑).そしてユーマたちの飲み込まれた伏魔殿の奥底には,やっぱり神流がいるんだろうか….ミカヅチが大鬼門が開いたことで降り出す8月の雪.これは日本だけでなく,世界的な危機のはじまり?
リクが今回,天流宗家として安易に戦いに走らなかったことは誉めたいですが,実は問題はここから先.今後ミカヅチがリクの言った条件を破ったとき,リクは戦うための大義名分を手に入れることになります.そのとき,本来の理想である天流と地流の協力はどのように目指せばいいのだろうか.天流も地流も苦しまない道なんて,この先に果たしてあるんだろうか?
大事になった今回ですが,次回は…なんでそんなことに(笑)! モモとリナは一体何をやらかすつもりなのか.あのバスは一体なんなのか! 確かに「大戦」を行うには天流陣営は非常に貧弱なんですが,まさかとんでもない増強が入るのか? 困惑の(笑)次回に続きます!
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