« アストロキャストとかアンケートの結果とか | トップページ | ボボボーボ・ボーボボ#58 »

陰陽大戦記#32

「この愚かしくも強き者たちの巻」

秋のはずなのに真夏のビーチ.その一角で天流は,海の家の手伝いに追われていた.またも行き倒れ人の世話になっていたテルの手紙に呼ばれ,ここにやってきた天流一同とボート部.テルの話によればこの浜には巨大な船の妖怪が出て,世話になった海の家の夫婦を騙して喰ってしまったというのだ.妖怪に詳しいコゲンタはその正体を邪宝船と見抜き,幻に惑わされる人間の欲深さに腹を立てる.テルは必死に弁解するものの,翌日浜辺が全て砂金に化けると,欲に駆られた人々がそこに群れ集った.
あまりに人が多すぎて,少人数の天流では誰もその幻から救い出すことができないから,かくなる上は妖怪の到来を待ち構え,それを倒して幻を消すしかない.テルはナズナに対する恋慕と妙な妄想を心の力として,やがてやってくる妖怪に全力で立ち向かう.

熱く濃い物語以上に,その間抜けで素っ頓狂なノリも見所であったはずの「陰陽」.最近はいろいろありすぎて物語の魅力ばかりが前に立ってしまってましたが,今回は完璧なノリ重視のバカ回だ! 絵コンテの大暴れは守るべき一線を振り切った物凄さなんですが,それ以上に本編にそんな話を組み込んでしまった脚本の江夏氏の功績をものすごく讃えたい(笑)! さすがは名のあるハジケリスト…っていうかもうこんなにハジケちゃまるで別作品じゃないですか(苦笑).この大暴走の源となったのはテルで,彼のボケはこの話全体を支配して実に気分良さそう.逆に話を回すためにボケのはずのリクが必死でツッコミをこなし,こちらはどうにも気の毒.

前半は真夏のビーチよりスタート.本作の欠点は「作中と現実の季節がずれていること」くらいしか思いつかないわけですが,本来は秋のはずなのに,恐らくは東北・恐山の鬼門の影響で浜辺に夏が来ているのだという異常性が,現実ではこれから梅雨を迎える視聴者には非常にわかりにくい(苦笑).とはいえ浜茶屋でリクたちが焼きそばとかラーメンとかいちごフラッペの注文にやられているという光景は,十分すぎるほどに異常.片隅に子連れで笑顔のテルがいることによって,「ああ,こいつがやらかしたんだなぁ」とすぐ察することが出来る親切設計です.
テルの手紙に呼ばれたはずなのに,天流だけでなくなぜかボート部までもがこの浜に同行.どうやらボート部の合宿の一環らしいんですが,もちろんモモもリナも,ボート部の練習にも浜茶屋の手伝いにもやる気まったくなし.部活や闘神で台無しになった夏休みを取り戻すべく,水着姿でリクを海へと誘うものの….とりあえず品物を待っている客がそれを許すはずもなく(苦笑),ついでに朴念仁がモモの心を理解するわけもなく,「行っておいでよ」と心良く送り出そうとするリク.物凄く人間は出来てるんですが,モモにとっては困った話.さらに実はリクが調理に参加すると,お客さんに多大な迷惑がかかるんじゃないか(笑)? ちなみにここにいる一同の中で一番人間ができていないのは間違いなく先生.生徒が声を揃えて訴えても勝手にカキ氷を楽しんでいる始末.
いくら資金的には恵まれてないとはいえ,もちろん天流がアルバイトをやりにこんなところに来たわけがありません.仲間のテルを助けるためにやって来たところが,当人からの事情聴取によってどうやら闘神以前の問題をテルがまたも抱えていたことが判明.行き倒れて救われて恩返しをするというワンセットがテルの言う修行なんでしょうか? 徹底して年長になればなるほど頼りにならない主役側.「また!」と年少の関係者一同に叱られても仕方ないかと思います.
テルはいつもの調子で恩返しに勤しんでいた3日前,助けてくれた浜茶屋の夫婦とともに仕入れに行く最中に金の砂場に遭遇.気持ちよく理性を吹っ飛ばした親方夫婦は結局巨大な妖怪に呑まれ,普段から異常現象慣れしていたテルは難を避け,この事件を宗家に伝えたのでありました.確かに砂浜が金になるなんて中学生でもわかるくらいにありえないんですけども,リナちゃん,オカルト大辞典には「錬金術」の項目はありませんでしたか(笑)?
海からやってきて親方夫婦を喰ってしまった,巨大な船の姿をした妖怪.それを即座に邪宝船だと見抜くコゲンタはさすが本業だけあって詳しい.しかし,その邪宝船の機能にかこつけて人間の欲についてやたら批判するのはどうだろう.確かに人間の金銭欲は底なしですが,お前の戦闘欲だっていい勝負じゃないか(笑).「なんでこんなにがめつくできているのか」と自分のことは棚に上げて人間の性を批判するコゲンタに対し,人間は欲があって当然で悪いのは利用するほうだと主張するテルと,それに賛同するナズナ.さすがは今回の主役らしく,この2人の作画は特に素晴らしい.とりあえず両親に置き去りにされた罪のない乳児のためにも,天流は邪宝船と戦うことに決定.

そして翌日.砂浜は見渡す限りの砂金となり,そこに群がる人間は全員,海遊びはどうでもよく砂金掘りに夢中.浜茶屋の一同は事情を知っているため参加しないんですが,先生だけは話が別.どれだけ必死でリクが説明しても聞く耳などなし! 「幻なんです!」と必死で止める生徒に対し「成績下げるわよ」って脅迫,滅茶苦茶だ(苦笑).結局気迫のジャイアントスイングでリクを吹っ飛ばした上に,砂金の中へにルパンダイブを敢行する先生…「陰陽」ってこんな作品だったっけ(笑)?
人間の欲深さに呆れ放題のコゲンタ.妖怪に喰われに来たとしか思えない愚かな人の群れを批判していたら,その中に知った顔発見.…なんとマサオミさんが人ごみの中で必死でナンパ中.金に目がくらんだ女の子に目がくらんだマイペースバカは一応正気ではあるようですが,とりあえずみっともないし恥ずかしいので必死で止めようとするリク.先生といいマサオミさんといい,この異常な環境で自分よりも激しいハジケっぷりを見せる大人たちに対し,リッくんはもはやツッコミに回るしかありません.同じナンパ仲間として接してくるのん気なマサオミに対し,思わず連れてひきずってどこまで知っているのか全部話せこっちは必死なんだから!と詰問するしかない気の毒な宗家.ツッコミに回ったらボケとしては自動的に負けですよ(苦笑).もちろんわかってやってるマサオミはトボケにトボケ,子どもの両親のために必死なリクを見事におちょくってます.
さて,今回の主役はテルとナズナ.初対面からナズナに片思いしてきたテルは,珍しくナズナに考え方を認められる好機を得ます.でも「金は汗水たらして稼ぐもの…」っていつだって行き倒れるテルが言ってもやっぱり説得力が(苦笑).ナズナに自分の言葉を認めてもらったテルの妄想はなぜか加速.いくら子どもを背負っているからってナズナさんとの間の子どもに見立てるなんて,不遜にも程がありますよ!…って最初はちゃんと空回り.けれど,対妖怪戦が展開される後半では,このテルさん脳内妄想劇場が妖怪や式神以上にハジケていくわけです.

後半は「陰陽」史上最強のハジケっぷり! 水平線の向こうから暗雲とともに収穫にきた邪宝船.うようよと砂金を集める人間どもの強欲を求める巨大な船妖怪は,早速人間を食い始めます.…こういう敵の場合は口の中まで幻覚で誘導するのが定石だと思うんですが,そうしてしまうと今回のハジケたノリには確かに合わないな.やっと出てきた敵に対し闘神士たちは降神を開始.ナズナもホリンを降ろそうとしたら,いきなりそれをテルが止めます.恩人を助けるのは確かにテルの仕事.だから子どもをナズナさんに預けるあたりまではわかるんですが,「頼みます,お母さん」はどうだろう(苦笑)! もはや色欲にやられ己の妄想劇場の虜.ここからはじまる凄まじいテルのハジケは,作風や世界観をぶっ飛ばすレベルで場の空気を支配していきます.
勢ぞろいした3人の闘神士と3体の式神.戦闘を前に盛り上がるはずが,相手とのサイズ差をつい指摘してみる奴発生(笑).今回のリクのまともなボケってここくらいかも.けれど妄想に支配され脳内麻薬大放出状態のテルには一切の怯えなし.敵の妖怪よりもむしろ,妙なテンションでくねるテルに狙われているナズナさんのこの先が心配です(苦笑).愛のままにテルは早速巨大な船に向かって印を連打! その力の影響を受けているらしいイソロクも,ハートマークに溢れた大活躍で無駄によく動いているのが素晴らしい.しかし敵もさすがは妖怪.折角傷つけても喰った人間の欲を使って元に戻ってしまい,さらに荒れる海上は飛べないコゲンタには足場が皆無.けれどぶちぎれたテルにはさほどの問題ではないようで(笑)「いつまでも偉い顔してるんじゃねー!」と明らかに人格の違うハジケっぷり.切るのは離離兌震,ビーム連打の合掌爆殺!
たとえ人間の欲の力を利用して復元する妖怪であったとしても,今空気を支配するテルのテンションをくじくことなど不可能.「金の力の前には人間など赤子も同然」といくら必死で食い下がったって役に立ちません.確かにテルが言うとおり,金は汗水垂らして得るもので奪って手に入れるものではないわけですが,人間の労力の結晶であるからこそ金の力は強いわけで,…なんかどっちも正しい気がするんですけども(笑)まあいいや.完璧に自分の世界をつくったテルはもはや常人の手に負える相手ではなく,そのハジケを怯えて見守るしかない2人のヘッポコ丸たち.さらにナズナに攻撃が行ったことによって,テルの闘神士としてのリミッターまでも崩壊! 渦巻く感情と噴出す闘気はイソロクの魂にダイレクトアクセス! ついに大降神発動で完成するのは…なぜ戦車(笑)? いかにもサンライズらしい見事な変形シーンの果てに誕生するイソロク戦車.確かに砂地には向いてそうですが,もし邪宝船が海中に逃げ出したらどうやって追う気だったのか(苦笑).
得体の知れない気合とともにテルが見せつけるのが人間の力.欲も愛も正義すらも,己の力で手に入れることができる生き物こそが人間…金銭に関しては相変わらず説得力がなく,さらに愛についてはどれだけの努力を注ぎ込んでも得られない場合があるはずなんですけども(笑)それはともかく.人の欲望だけを集める邪宝船に比べ人が欲するものはあまりに多く,1種類しか欲しがらない欲望や妖怪に比べ「がめつくて悪かったな!」と言い切るテル.場の勢いだけでなく理論まで喰ってしまったテルの心の力によって,イソロクは巨大な船に止めを刺します.…勝敗が決したことによってテルという名の激しい嵐はようやく止まり,妖怪に喰われていた人間たちも,輝きを失った砂浜に回帰.当のテルは親方たちが戻ってきたことを喜んだ直後に気絶.そりゃあんな滅茶苦茶な大降神をすれば,式神以上に疲れて当然.
夕方,あのハイテンションをまったく覚えていなかったテル.これまで敵闘神士が己の欲望にやたらこだわって攻撃をかけてきたことを考えると,闘神という行為自体に人の欲を露にする効果があったりするんだろうか? 闘神士の欲が強ければ強いほど,式神も強くなりそうだし….ラストは浜辺でお給料の取り合い.せっかく海に来たってのに,一体天流は何やってんだろう(苦笑).

最後までボケる周囲の中,リクがみとれていたのは親方夫婦と赤ん坊.本来はボケとして今年を代表するほどの逸材だったはずなのに,ついに無力なツッコミの位置に置かれてしまった気の毒な宗家.今回妖怪以外で一番負けてしまったのは彼ではないかと思います(苦笑).
力ゆえに周囲に頼られて,真面目に自分以外の人の幸せを守ろうと奮闘している彼.けれど誰もそんな彼に,彼自身の幸せを追求する時間や機会を与えてはくれません.目の前の家族の光景を自分も欲しいのだと,その程度のわがまますら口に出せない.仲間に囲まれているはずなのに,役目に縛られた強くて孤独で愚かなこの子どもを,誰か助けてはくれないだろうか? 次回に続きます.

|

« アストロキャストとかアンケートの結果とか | トップページ | ボボボーボ・ボーボボ#58 »

レビュー◆陰陽大戦記」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 陰陽大戦記#32:

« アストロキャストとかアンケートの結果とか | トップページ | ボボボーボ・ボーボボ#58 »