陰陽大戦記#41
「終わるにはまだ早すぎるの巻」
天地の宗家が大鬼門を閉じたことによって,狂っていた節季は元に戻り,妖怪も姿を消した.天神町にも静かな日々が戻ってきたのだが,リクはそれで全てが終わったとは思えずにいる.あの日以来姿を消したマサオミ…神流のガシン.コゲンタはマサオミが裏切ったと言うけれど,リクには信じられない.平穏ではあるけれど消えない不安の中で,ソーマが飛鳥神社の家族の元に戻っただけでなく,ナズナも新太白神社へと帰るという.
凄まじいテンションで大鬼門を閉じ,新章の幕を開いた「陰陽」.前回までが本当に物凄かったので今回はコメディ中心の緩い雰囲気で終わっていくのかな…と思ったらなんだよあの後半(笑).前回までの式神戦とは別の意味で無意味に熱い戦いが夕焼けの下で展開.事態の収束は見せかけで,何も終わっていないのではないか…というリクの不安が見事に適中する新章導入部となっております.ちなみに新章を迎えて,アバンの内容,オープニングとエンディングにまで手が加えているところが凄いんですが,一番凄かったのが冒頭警告の吉田戦車ボート部であることは疑いようもありません(苦笑).
千二百年前,人々と式神を巻き込んだ戦乱,絶望の世を救ったのがウツホ.しかし彼の存在は大人の都合で隠されて悪魔と呼ばれた…「大人」は天流と地流? 巻き込まれたのは神流? このナレーションが正しいならばウツホもまた被害者の可能性があるんですが,結局悪いのは誰?
前半は久々に平穏.大鬼門を閉じたことで季節は巡り,秋から冬へ.紅葉の舞った前回からは少し時間が経過しているようです.リクの家の前ではコゲンタが掃き掃除し,その後ではリクは神操機を見て何かを考え中.…罪の意識から本人がやりたがったに違いないものの,実体化した式神は普通の人の目にも映るので,郵便や新聞配達がいきなり来ないことを祈るばかりです(笑).意識はなかったとはいえ過去とんでもないことをやらかしていたことを知ったコゲンタはリクのご機嫌取りに本当に必死で痛々しい…(苦笑).
しかしリクが気にしているのは彼の過去ではなく,本当に事態が収束したのかどうか.目に見える危機は消えたように思えるけれど,あれ以来不在のマサオミのことが気になってます.彼は自分を騙して月の勾玉を奪って行った神流のガシン…のはずなんですが,思い返してみるとここまで助けてくれた恩人にしか思えない.ホルダーや流派章や大量の弁当(笑)をくれた,いい人ではないかと思えてしまうわけです.本来は地流闘神士とのハイレベルな闘神とかコゲンタがいなくなったときに力を尽くしてくれたこととか,思い出すべきところは他にあるはずなんですが…途中から全部弁当になってるのが愉快でたまりません(苦笑).神流については嘘をつかれたけど,参観日には来てくれた.騙されたけれど悪い人には思えない.では,なぜ自分を騙したんだろう…リクは深く静かに悩みます.
いろいろ考えているリクに対し,既に自分のことで一杯一杯のコゲンタはマサオミたちについては単純な意見しか持ち合わせていません.騙して裏切った悪党!というのがコゲンタのマサオミたちに対する印象なんでしょうが,24話でリクとコゲンタの契約が切れそうになったときに尽力してくれた彼には大恩があることまでは知らないようです.さらにリクがマサオミを敵に思えない最も大きな要因は,33話で暴走した自分の正気を取り戻してくれた一件だと思うんですが,あのときもコゲンタは大降神で記憶がないもんなぁ….マサオミが悪い奴でないことを匂わせる場面にはリクだけが居合わせてきたので,ここで意見が食い違うのは当然かな.
そんなわけでマサオミを信じるリクと信じられないコゲンタは仲違い.しかし今のリクは,もはや無知で気が弱い以前の彼ではない.「じゃあさ!」と言い返すリクの厳しすぎる口撃.騙されて幼い自分や家族を襲ったことと,本当のことを言えずにいたことを同列に並べてしまうリクの凄い理論が展開(笑).確かに,過去の行為だけでその人が悪い奴と一概に決めることはできないと言いたいってことはわかる.でも,悪いことにもランクはあるわけですがそこは華麗にスルーですか(苦笑).非常に重要なことをわざと無視した上で,「どうしてコゲンタは過去のことでいちいちおどおどしてるの! 気にしてないって言ってるのに!」って…余計罪の意識にさいなまれるって.「昔のことは,本当に気にしないで」ってにっこりされるのも完璧に逆効果.天然なのかな.それとも,ちょっとは狙っていじめてみているのかな(苦笑).
そんなリクのコゲンタいじめが炸裂している最中にやってきたのがボート部一同.彼らはリクを巻き込んで,いきなり太刀花家の庭先で自主トレ開始.結構迷惑だと思います.妖怪からこの町を守った功労者たちが次に目指すのは世界!とぶち上げるリュージ君.…いやもう部長は現在日本のことだけで一杯一杯なんですが(苦笑).
大鬼門を閉じ,両親に再会したソーマはそのまま家族で飛鳥神社に戻ったようで,リクのアパートにはまだソーマの荷物が一杯.それを全部出して,飛鳥神社に送ろうとしいるナズナとホリン.ソーマが買い集めた健康増進器具の数々に呆れてます.確かに太刀花家に変なものがあるなってシーンはありましたが,ソーマが集めてたんですね.
パソコンを見て,思い出して動きが止まってしまうナズナ.完璧に乙女の仕事をやっていながらも,新太白神社への帰還はソーマに知らせなくていいと突っぱねてます.ここまでこのアパートで一緒に暮らして戦って,地流が全て悪いわけではないと学んできたはずなのに,それでも天流の因習から離れることはできないようです.地流と交わりを持ってはならないという考え方は,地流の襲撃からはじまったのかな.でも,いつだって悪いのは流派ではなくて,その中にいる一部の人たちだったんじゃないだろうか….
そして地流.天流が悩みを抱えつつも穏やかであったのに対し,ようやく元の姿に戻ったはずの飛鳥家ではいきなり親子喧嘩が! 天流と地流が協力するべきという思想とか,ミカヅチが何を意図して父母をあんな目に遭わせたのかとか,父がユーマに伝えるべきことは山ほどあるはずなんですが,我が強くて喧嘩っ早いのは父親譲りだったようで全てが台無しに(苦笑)!
東京でミカヅチの路線を継ぎ,闘神士としての力を使ってさらに地流の地位向上に励みたいユーマと,これ以上闘神士が表に出るべきではないという父親の意見は見事に対立.もうちょっと言葉で理解を深めればいいんじゃないかと思うんですが,まず拳の会話に頼ってしまうところが殺伐とした似たもの親子ぶり.ついには父に破門され,雪の中,ユーマは裸足で家を飛び出します.…たぶん父が嫌いではないんでしょうが,今のユーマには最も多感な時期に出会って学んだミカヅチの存在が大きすぎて,離れることができません.まさに組に拾われたチンピラが折角戻れた自分の家からもう一度倒れた組長のためにひとり出奔するかのような光景.しかし今のユーマには,守るべきミカヅチ組の仲間だけでなく,いつだってランゲツが傍にいてくれます.一人ではないから,彼も過ちを恐れずに前を向いて歩き出すのです.
後半は非常に珍しい闘神(笑)と暗転.夕方の隠された天流の社にはリクとコゲンタの姿が.真実がどうであれ,ミカヅチに大鬼門をつくらせる原因となった伏魔殿は未だに健在.力を求める人々を誘い,無関係な人々を苦しめる力が未だにそこにあることを,リクは何も終わっていないことの証と考えます.さらに飛鳥神社から出奔ほやほやのユーマも登場! 隠された社の境内で,天流宗家・太刀花リクと地流宗家・飛鳥ユーマの闘神がスタート!
激しい印の切り合いと鍔迫り合い,あるいはリク必死の逃走&説得かと思われたこのバトルなのですがしかし!いきなり両式神とも剣を捨て,素手で組み合い開始.熱気を帯びたハジケる作画で描かれる,夕焼けの中の実に痛そうな肉弾戦! 体格は大幅に違いながらも炸裂するクロスカウンター.無意味に激しい気の高まり! 見れば見るほど車田な世界が展開し,その作り手の遊びっぷりになぜか笑い涙がこぼれます.縦横無尽に両手両足,そして頭までもを使いこなすコゲンタのケンカチャンピオンぶり,さらにそれを恵まれた体格で冷静に打ち倒していくランゲツの剣崎あるいは志那虎ぶりが深刻ではありながらも愉快でたまりません.
この様子を「戦いなんかじゃない」と見ているリク.互いに極めた闘神士であるリクとユーマの心は,式神を通じて深く近づき,感応し…どっかで見たような光景が展開されるわけですが,このシーンで作り手は一体何を説明したいんでしょうか.もしかして,「人より少しうまく闘神ができるんだけどね,そのせいで感覚が少し鋭いのかな」って奴ですか(笑)?
もちろんリクが思った通り,これは戦いなんかじゃない.あわてて見に来たホリンが呆れるようなアホ同士の素手の殴り合い.闘神士の気力で動く式神は,たとえどれほど凄い闘神士に使役されていたとしても使い手が目的を見失うと力を出すことができない.もし片方がいつもの状態なら一方的にやられてしまっただろうから,互いにとって不運であり,同時に運が良かったとも言えるでしょう.闘神士が使役する目的を見つけなければ,闘神開始のゴングすら鳴らない.それまではコゲンタとランゲツはいたずらに車田バトルで気力を消耗するばかり….
先に決めたのはユーマ.後悔の屈辱は彼のプライドが許さない.全てを失うことになろうとも,信じる道を行く! これを聞いたリクも「僕だって,もう」後悔したくない! 互いの長期的な目標があいまいながらもようやく決まり,式神が力を取り戻してこれから…というところで,背後の社に異変が!
社の中から出て,そのまま倒れるヤクモ.前回のあの展開の中,生きていただけで凄い! 伏魔殿の底の底,ウツホの封印の上でガシンと戦っていたヤクモは「悪魔」…ウツホの復活に巻き込まれながらも,ここまでなんとか生きてたどり着いたわけです.貴重な戦力というだけでなく,彼の持つ豊かな情報が失われずに済んだことは喜ばしい.ただしヤクモの情報ですら物語をある一面から眺めたものに過ぎないことは留意しておくべきでしょう.
天神町の空は砕け,中から伏魔殿の空が覗きます.リクが思ったように物語は何も終わってはいない.本当に天神町の日常が崩れ去るのは,これから先なのか.天神町に似た青空の下のどこか.雅な世界で平伏するのはマサオミ,その前に座るのは見覚えのある四人に,御簾の後に立って,笑うウツホ….
ついに物語は千二百年前の核心へ! 出てくる奴はどいつもこいつも被害者であるわけですが,結局悪いのは誰? そして,騙されたのは誰? 実はこの物語世界には問題解決に関して凄いギミックが入っているんですが,それがそろそろ使われてもおかしくない状況になってきました.折り重なり絡まった千二百年前からの因縁を,彼らはどのように解いていくのか.次回に続きます!
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