陰陽大戦記#42
「糸引く者を操る糸の巻」
コゲンタとランゲツの戦いがまさにはじまろうとしたその時,ヤクモが天流の社の鬼門から現れてそのまま倒れた.鬼門より噴き出した青白い光の妖怪どもは天神町だけでなく日本中に満ちていく.あのとき大鬼門は封じられて危機は終わったはずなのに,人々は石化し日常が壊れていく.父母を石にされたモモはリクに助けを求め,リクはコゲンタとともに旅立つことを決めた.この事態に己の責任を感じ,今こそその力を使うべきだと考えた天流宗家は,仲間たちに再会を約束し,神操機の導きのままにただ一人伏魔殿へ向かう.
大鬼門封印までのあらゆる事態の裏で進行していた闇がついに表に現れた「陰陽」.これまでの全てはこの最悪の舞台を導くために神流が仕込んでいたもの.その神流の中心人物であるマサオミ=ガシンの過去が一気に明らかになった上に,大変便利な(笑)極神操機の力によって宗家たちが現世を救うために旅立つという怒涛の回です.最近ずっと怒涛だったのでいい加減怒涛慣れしてきたせいかもしれませんが,今回はあまりに詰め込みすぎて少々微妙.かなり重要な回なので内容量からすれば前半だけで1話使うのが適正だと思うんですが,それを前半だけに詰め込むのはいくらなんでも無理ありすぎだ(苦笑).
もちろんこの1話で全てが描かれたわけではなく,今後描写が重ね書きされていくんでしょうが,もしそうならば今回はあまりに描きすぎではないかと.…今の時点でここまで時間を節約するのはなぜだろう.たっぷり残った時間を使って,作り手はこの物語を一体どこまで持って行くつもりなのか?
前半.花散る庭で桜の花びらで遊び,風流に和歌など詠んでみる雅なウツホ.櫻花時者難不過見人之恋盛常今之将散.それほど時は経ってないけど,見る人が恋焦がれる今まさに桜は散るのだ…って感じか? 元ネタがあったりするんだろうか.まあともかくそんなウツホのいたずらした櫻の花は妖怪に変わり,鬼門を通じて人間界へと飛び出していきます.「色即是空」と呟く彼,何を考えてるんだかよくわかりません.
鬼門から飛び出す青白い妖怪たちはヤクモを保護したばかりのリクたちの周囲や天神町,東京のミカヅチビルという闘神士ゆかりの土地は言うに及ばず,日本のあらゆる領域に即座に広がっていったようです.大切なものが襲われ,次々に石化していくというとんでもない事態.本作の開始当初からずっと不安だった日常の崩壊がついに現実に.もちろん飛鳥神社にも妖怪は襲来.もはや破滅は避けられぬと言う父は独自の情報を持っているようです.つくづく,その継承を済ませずに飛び出したユーマの短慮が悔やまれます.
それはある少年の物語の断片.美しい花園で姉の笛を聞いていた少年,ガシン.しかし幸せは月とともに陰り,彼は姉や仲間達とともに花畑の中心に追い詰められる.ガシンたちを丸く取り囲み,紫色に発光する矢の符で攻撃をかけてくる闘神士たちに,姉は闘神機を駆使し,青龍のキバチヨを使って対抗.…彼女の名はウスベニ.ガシンの仲間のタイザンは闘神士を式神で倒すことを指示するものの,ウスベニは式神を名落宮に落とすことを拒否.それゆえに消えてしまうキバチヨ.意識を失い倒れる姉.地の紫,天と地の封印のなかに沈み込んでいく仲間達を前に無力なガシンができたのは,タイザンとともに壊れた闘神機を持って逃げ出すことだけ.
…ここまで暗黙のうちに示されてきたガシンの物語が凄い勢いで明らかに! 大事件が起きた当時には幼くて,事情がよくわからないうちに大切なものを全て失ってしまったガシンもまた,一人の被害者でありました.なぜウスベニたちが封印されなければならなかったのかは不明のままですが,どうにも気になるのはタイザンの行動.ウスベニに式神を名落宮に落とす非道を要求したり,闘神機を持ちながらも戦闘に参加しなかったり.このグループに悲劇を運んできた元凶ってもしかしてこいつ?
何の力も持たないまま,あてどなく伏魔殿の中でさまよった日々の果て,ついに天地の力によって氷の中に封印されてしまったガシン.…それから時は過ぎて,解呪してくれたのが例のお2人.あの四季の伏魔殿で,ガシンは2人から現在の青い神操機を託されます.天流にはもはや必要のない力を「我々が犯してきた罪を正すため」「この美しい景色を守るため」に使うという約束のもとに譲り受けます.天流から(たぶんヨウメイを連れて)逃避行中の2人から直接教えを受けたってことは,ガシンは幼いヨウメイにも会っているのかな.
降り方はあの2人から習ったのか,闘神機と神操機を手にしたガシンは名落宮へ降りてキバチヨと再会.願うのは取り戻すこと.「姉上を,封印された仲間達を.あのときのおだやかな日々を!」ウスベニの式神を引き継いだ彼は,封印を解くために他の神流と計画して現代の天流の内部に潜入.情報によって2つの組織を操り,互いに争わせて両組織の宗家の力を磨き,ついに月食の夜に2つの力でウツホの封印を解くことに成功した…というのがこれまでのあらすじ.
神操機を託してくれた恩人の願いや自分を慕う天流宗家の心など,ガシンは己の願いを叶えるためにそれ以外の全てを裏切りながらここまで邁進してきたわけですが,再びあの花園に立つ彼の願いは未だ叶わず.繭となった神操機の扱いも,なぜ姉たちが戻ってこないのかもわからない彼の元にやってきたのがタイザン.彼は封印を解くことよりも,ウツホの国づくりをあからさまに優先させてます.…ここまでお人よしを散々利用してきたガシン.でも,あなたも誰かに利用されてはいませんか?
現世はウツホの妖怪によって大混乱.太刀花家には社から撤退してきた一同だけでなく,両親を石化されてしまったモモも避難中.普段なら弱っているヤクモのことを心配してみたり,状況について説明しろとナズナあたりに噛み付いたりと活躍してくれるはずのモモですが,今日は膝を抱えて泣いている.まさか両親が犠牲になるとは想像もしてなかったんでしょう.リクに抱きつき「パパとママを助けて」と叫ぶモモと,それを抱き止めるリク.幼馴染に泣かれるのはやはり辛い.…皆の笑顔のために戦うのだと決めているリクにとっては,今が立ち上がるべき時です.
一人で行くと決めたリク.弱っているヤクモの情報は惜しいけれど,いつまでも彼に頼るわけにはいかないってのは時間がないからまあいいとして,責任は自分にありそうだとまたも自主的に重荷を背負うリクの苦労性ぶりに涙が出そうだ(苦笑).自分の力があれば皆の笑顔を取り戻せるかもしれないから,「今こそコゲンタの力を使うときなんだ」.…ここまで「主役」をやっているリクははじめてではなかろうか? その心からの願いに応えたのか,事態を解決するための行き先を極神操機が示します.
ナズナにはヤクモを頼み.モモや遅れて来たリュージやリナを天神町に残してリクとコゲンタは伏魔殿へ.東京の先生を含めボート部関係者は全員無事なんですが,素質のあるリナはともかくとして他の連中は宗家の気に当てられてたのかも.旅立ちを止めようとするモモに,「君の笑顔,取り戻しに行ってくるね」と告げる晴れやかなリクの出陣.最初の彼からは想像もつかないような見事な主役ぶり! 「全国大会までには戻ってくる」というリクの約束は,どんな形で守られるんだろうか.…エンディングに繋がっていくのかもしれないな.
後半.極神操機の導きに従ってリクたちが降りた伏魔殿は早速不穏.実に便利な極神操機は行く先までも示すという新機能を搭載していたわけですが,移動の最中襲い来る,怖いもの知らずの神流2人! 鎌を装備した玄武のガンゾウ,そして矢を装備した楓のダイカク.近距離・高防御型と遠距離型の2体と同時に戦うことになったコゲンタ.新たな敵の登場に緊迫感高まるシーンのはずなんですが,襲われたリク…の持ったコンビニ袋のアクションぶりとか地味にネギを握り締めてそっと戻す様とか,こんな状況で微妙な笑いを取りに行く根性が素晴らしい(笑).
数の上では明らかに敵有利.しかし闘神士の力量は明らかに宗家が上.多少甲羅が堅かろうと,ぶっ飛ばされて空中で身動きできないところを無数の矢で迎撃されようとも闘神士とのコンビネーションでコゲンタが見事に乗り越えたところで,堂々と姿を現す神流の真打! 「そのホルダー,まだ使ってくれてるのかい」…聞きなれた声のはずなのに,耳に響くのは悪意.岩の上に佇むのは神流のガシン! ウツホに呼び出されたガシンは姉と仲間達の封印を解くことと引き換えに天流宗家討伐に参入.目的のためならば,過去の約束のことなど忘れて神操機の力をウツホのために使う気満々です.
顔を会わせる覚悟をしていたとしても,実際目にすればどうしたって心は揺らぐ.裏切られても,悪い人だとは信じられないならばなおさらで.コゲンタは戦いに集中しろと言うものの,それが出来れば苦労はしない…って前半の主役ぶりに比べるとリクがやや動揺しすぎかも.岩をも砕くガンゾウの片手大鎧割はダイカクに押さえつけられたコゲンタを狙っている.ここでマサオミの姿に動けないリクに喝を入れる,コゲンタの叫び! 「そいつはもう敵だ!」 厳しさを取り戻したリクはを離震離兌の印を切り,怒涛斬魂剣でガンゾウを斬る.直後に大降神するガンゾウとダイカク.しかし宗家としての力と自覚を得たリクは止まらない.たとえそれが恩人だとしても…「今のあなたに,僕は倒せない」 流派章で極神操機の真価を引き出せば,さっきと同じ離震離兌でも威力が違う! 大降神2体をあっさり切り裂くコゲンタの五行奉神剣.…大降神,本当にお安くなったなぁ(苦笑)!
倒れる神流の仲間の姿から姉のことを思い出して動揺するガシン.揺らぐ激情に応えるかのように光る繭の神操機.これ以上失わないためには,取り戻すためには…「オレはまだ,負けるわけにはいかないんだよ!」 そして3つ目の極神操機が新たにお目見え.呼び出されるのはもちろんキバチヨ! ウツホすら警戒する強大な力を手にしたガシンは過去を取り戻すために戦いを挑み,現在を取り戻すために負けるわけにはいかないリクもそれに対抗.ガシンの思いはキバチヨを介し,コゲンタの白虎妙王返すら打ち砕く.
目的のためならば容赦のないガシンに比べると,いくらコゲンタに無駄だと言われても,リクはどうしてもマサオミのことを切り捨てることができない…無駄と知っていても心は願ってしまい,ゆえに折れそうになる.さっきまであれほどまともな主役を演じていたのにいきなり物凄く弱くなっていてさすがに違和感が(苦笑).短時間で限界まで盛り上げたい気持ちはわかるんだけどね….ガシンも極神操機の真価を発揮.震離震離と印を切り,必殺・霊騒乱燦燦の無数の攻撃がコゲンタを襲う.そこに飛び込んできたのは…ランゲツ!
地上に満ちたウツホの妖怪.もちろん大鬼門のあるミカヅチビル周辺も例外ではなく,先日も妖怪退治で長時間頑張ったばかりのミカヅチセキュリティサービスはまたも大活躍させられるハメに.相当きつい勤務状況だと思いますんで,社長はぜひ特別手当をはずんでやってください.湧き出す妖怪の量は半端ではなく,天神町から来たユーマが加わっても焼け石に水.いくら大鬼門を閉じても,天流を弱体化させても,わけのわからない妖怪が飛んで一般人が石化されるような世界は求めていない.「地流宗家として,世の中を…」 ユーマが世界に対する理想と責任を感じた瞬間に極神操機が輝き,リクと同じようにこの場所に導かれたようですね.
ランゲツの手痛いフォローで地を焼き尽くすビームから救われたコゲンタ.マサオミを前に動けなくなっていたリクに対し,「ぼやっとするな,太刀花リク!」と鋭く檄を飛ばすユーマ! 2人の宗家,2体の宗家の式神が,今ここでともに神流に挑む!
てなわけで怒涛のノリで新タッグ誕生! 次回,いずれ劣らぬ最強の白虎どもを相手にするキバチヨの身も心配ですが,それ以上にユーマたちの身も心配です.リクの仲間にされると,強面のお前らだって確実に面白くされるぞたぶん(苦笑)! …千二百年前の過ちは一体誰が犯したものなのか.そしてその過ちが生み出した歪みは,どのようにして収拾されていくのか.とりあえずガシンはさくっと頭を下げて,天地宗家に仲間の封印を解いてもらうように依頼してみるのはどうだろう(笑)? 立場の違う三者の願いを完璧に叶えることは不可能だとしても,互いに譲り合うことで幸せを最大限に広げることはできるはず.そんな折衝こそが組織の長のやるべきことなのではないかと思いつつ,次回に続きます.
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