アストロ球団#1
「漢たちの怨念のはじまりの巻」
昭和29年9月9日に現実となった9つの流星,それは昭和19年に約束されたものであり,平成17年に再び空を舞ったものと同じ魂であった.今は遠くなったあの昭和47年,江夏のふりをしてマウンドに上がった青年が王を仕留めたあの日から,沢村栄治の魂をその身に宿した超人たちが,一試合完全燃焼の理想を求める旅路がはじまったのだ.姿を偽り巨人軍を手玉に取った謎の青年の名は宇野球一.マウンドから去る前に球一は,長島に果たし状を残していた.
以前からずっと待っていたイカした野球物語がついにやってきた! しかも深夜に!というわけで久々の連続ドラマレビューとして「アストロ球団」をお届け,実写ドラマとしては下手な再放送以上に時間帯を冷遇されているあたり,こんなに早くから超人を追放しているのかとつい笑ってしまいます.内容は1時間1話のものを2つに分割して放映しているので,2話まとまったところで一気に書くほうが向いているかもしれない.
初回に当たる1話前半は古田をはじめ現役野球選手の顔ぶれが豪華.そしてシュウロ役の千葉氏の存在感に痺れます.虚構の世界の中でこそ,凄まじい現実感を発揮するあたりが素晴らしい! で,肝心のアストロ戦士たちなんですが…さすがにまだ役には入っていない.この手の突き抜けたドラマの場合,演者がその突き抜けぶりにノるには結構な時間が必要なので仕方がないよね.今はまだまだ台詞を読んでいる感じだけれど,数話先には自分の言葉として言ってくれるようになるんじゃないかな.
2005年9月9日の夜空を走る9つの流星から,あの伝説の物語はテレビで再起動.…全体を原作時間で描くのではなくその上にさらに現在の描写を重ねて見せたってことは,終盤には現代に繋げるための,あるいは現在を描くための完全オリジナル部分が追加されることになりそうだ.で,そんなオリジナル現在の狂言回しを務めるのが古田本人.ご苦労様です.流星の走った翌日に伝説の球場がなぜか地底から発見され,古田はミンダナオ島に飛ぶことに.…野球場が遺跡と化すだなんて,本作ラストには一体何が待っているのだろう(笑).
古田を呼んだのはミンダナオ島のJ・シュウロ.彼こそが伝説のアストロ球団のオーナー兼監督でその上余命いくばくもない.彼が一介のプロ野球選手をこんなところに呼びつけたのは,彼が人生をかけたアストロ球団について知ってもらうため…って,なんで古田なのかは謎.球界の盟主としてふさわしいからなのか,それ以外にも別の理由がちゃんとあるのか.
老いたシュウロが語るアストロ球団創設の軌跡は,彼が幼少の頃に故郷である男に夢と言葉を託された瞬間にはじまったもの.劇的な出会いと夢や義務の継承ってのは少年ものではよくあるパターンですが,託すほうはいいとしても,託されるほうは結構迷惑なのが普通.本作の場合はシュウロの沢村に対する極度の敬愛の念が遺志の引継ぎを促したようです.昭和29年の夜空に飛んだ白い魂の流星.それを受けたものたちこそが,名投手沢村の野球に対する魂を継承するアストロ超人.…そんな夢物語のようなシュウロの日記を追う狂言回し古田.読んでいて発奮したのか素振りとかしています.
そして流星はあの頃の甲子園で,再び燦然と輝く.伝統の阪神巨人戦でマウンドに上がったのは江夏を自称する包帯男.…声も体格も何もかも違うはずなのに,包帯1本で完璧に正体を偽装できるあたりがもう凄く,ついに本作が始まったのかと視聴者の期待を煽ります(笑).そして王が空振りした時点でようやく判明する偽江夏.なんで体格などよりフォームのほうが証拠能力が高いとされるのか.それは本作が野球ドラマだからに決まっているじゃないですか(笑).ともかくあれは江夏ではなくむしろ…沢村にそっくりだと気づかれてしまい,長島との対決の前に中断が入ります.
包帯で顔を覆った偽江夏は,バレたと知って笑い出す.もうちょっと気がつかないほうがおかしいという理由ではないはずですが(苦笑).そしてマウンド上で明かされる彼の正体は!「俺はアストロ超人,宇野球一だ!」その上!野球選手の癖に煙幕を張って逃走する球一! …平日深夜帯なのになんだか凄まじくスーパーヒーロータイム.プロ野球の試合を故意に中断させた(下手したら無効試合かもしれない)ってのは威力業務妨害か.
そんな犯罪行為の後押しを行っていたのが球一の後ろ盾である往時のシュウロ.このミッションでの彼の主要な目的はアストロ球団の名を世に広く示し,それに惹かれて残るアストロ戦士8人を集めることだったようですが,実作業に当たった球一はシュウロの言葉が今ひとつピンと来ない.たとえその左腕に沢村の夢の証であるボール型のあざが輝いていようとも,その因縁を伝聞でしか知らぬ球一にとってはどこか他人事のよう.常時熱血するタイプではなく醒めたように見えながらもどこかが狂おしく燃えているように見えるのは,役者の個性ゆえなのだろうか.
そして,常に遺志を実現するべく太陽の如き温度で燃えているように見えるのがシュウロ.彼をここまで駆り立てるのは,遠い過去の記憶.星空の下での彼との別れ….本当は何よりも野球をやりたいのに,戦争なんてくだらないことに巻き込まれてしまった沢村の無念.彼がこの地に来なければ…戦争なんかなければ,9つの光で超人が誕生することも,アストロ球団が生まれることもなかったはず.ボールの痣は沢村の夢,なんて綺麗なものではなく,むしろ怨念に近いものなのでしょう.それゆえにそれを受けた超人たちは,常人にはありえないほどに,己の体を狂おしく燃やしてゆくのです.
そして物心つかない少年に彼の持つ野球技術の全てを教えたと言い切る沢村は,彼にチームを束ねる使命を与えます.目指すは世界最強のベースボールチーム.その志は「一試合完全燃焼」.不世出の大投手の最後の教育を受けてしまったことによって,その後の人生が全て変わってしまったシュウロは,戦後,その人生をかけて沢村の夢を現実とするために尽力することになるのです.…設定とか演者とかツッコみたい部分は多々あるものの,感動的なシーンのはずなのであえてスルーしたいと思います.
舞台は回想から再びあの頃へ.某弱小高校を訪れた長島はサードの球五がごひいき.左肩にボール型の痣がある彼は幼少時からその野球の才能を長島に見初められ,巨人軍の戦力となるべく育てられていたのでありました.誕生日プレゼントは…足腰を鍛えるための鋼鉄のスパイク.スポーツ器具というよりは限りなく「武器」に近い代物.ランニングや個人トレーニングの際に履くのは鉄下駄みたいなもんだから構わないと思うんですが,間違っても試合の際には履かないでいただきたい(笑).
さて,可愛い球五の様子を見にきた長島が抱えていたのが,球一が乱入した試合で置いていった果たし状.正体露見による中断がなければあの場で長島と戦えていたはずの球一ですが,さすがにすぐバレるだろと本人も自覚していたのか,事前にきっちり書き込んだものを落としていったようです.待ち合わせは9月12日の午前5時,多摩川縁.「来なければ敗北を恐れたものとして新聞各社にその旨連絡する」ってこれまた見事な脅迫です.そんなわけわからん誘いなんか無視しておけばいいものを,球一の才能に惹かれてしまった長島は誰に知らせることもなくのこのこと参上.もちろん球一もやってきて,二人の将来を賭けた一戦が誰見ることもない河原で開催されてしまいます! 負けたら球一が巨人に入るのはまあいいとして,勝ったら長島引退ってまた無茶な….
しかし,この私闘を止めたのがシュウロ.放っておくと絶対何かやらかすから球一を監視していたに違いない(笑).そしてシュウロは,長島に対し我々は沢村の遺志を継ぐものだと宣言.彼が戦死して10年.球一たちアストロ戦士は夜空に散った白光球を体内に受けた超人であり,夢はでっかく打倒大リーグ.そして日本のプロ野球の歴史.もちろん巨人軍を含め,現在日本に存在する全ての球団はアストロ球団の敵.…てなわけでどこまでツッコめばいいのか微妙ながらも,将来的なインフレーションを強く期待しつつ!次回に続きます.
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