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陰陽大戦記#48

「みんなの笑顔を守る意志の巻」

ヤクモとその式神の命をかけた五行柱のもとに到着した天流・地流の混成隊.そこに襲いかかるのがウツホの指示を受けた神流のショウカク.五行柱を倒すために四大天の力を揮うショウカクから,ソーマやナズナたちは必死で柱を守ろうとするもののこのままでは力が足りない.遅れて地流宗家のユーマも到着するのだが,敵を倒すことしか考えられないユーマはランゲツを降神することができない.自分が何のために戦うのかを見失ったユーマだが,名も知らぬ地流闘神士の言葉をきっかけに己の初心を思い出す.日常を守る,それこそが今極神操機を持つ者が宗家としてやるべきことだ.

最終章も中盤から終盤へ.これまで3人の闘神士を中心として広げられてきた物語が急速に畳まれはじめた「陰陽」.今回いきなり畳まれていくのはユーマの迷い.極神操機を持つ3人の中では最も恵まれた境遇の地流宗家は,他の2人に比べると大変に贅沢な迷走の末にようやく己の原点に戻ることになります.ラスト近くの憑き物が落ちたような清々しい顔は必見.で,残る2人の極神操機の所持者はまだまだ迷走中.山を1つ越えたはずがもっとでかい山が待っていたリクと,誰が仲間で誰が敵なのかわからなくなりかけるガシンがユーマと同様の境地に達するのはいつの日か…って,さすがにそろそろか.

前半.伏魔殿の中に侵入した天流・地流の闘神士たちは,ヤクモという大きな目印を目指して集結中.まずは今回で迷いが消えるユーマは,薄い戦力で必死に五行柱をショウカクから守ろうとするナズナ&ソーマ+神流討伐隊に合流.四大天の力で柱を壊そうとするショウカクに対して天地の混成チームは健闘するものの,さすが四大天の力はごく普通の闘神士には荷が重すぎる.さらにショウカクは五本の柱のどれを狙っても構わないため,極少数の式神では全ての攻撃に対応することが大変難しいわけです.そんな仲間の大ピンチに颯爽と登場するのがユーマのはずなんですが…迷いのために失態を見せることになります.
ウツホの暴挙を止めるため,ヤクモが犠牲になったことを弟から知らされたユーマ.しかし彼はヤクモの行為の意味をよく吟味することもなく,ともかくショウカクやウツホを倒せばすむんだろうとどうしようもない短絡思考.もちろん現在ストライキ中のランゲツが使い手のそんな思考に納得できるはずもなくやっぱり降神拒否.今のユーマの目に燃える炎は,敵どころか自分や仲間までも燃やしてしまう無軌道なもの.明確な方向性を持たないただの力は,敵どころか周囲を燃やす危険なだけの代物であることに間違いなし.
一方己の中に黒い火薬庫を抱えながらも式神とともに歩むのがリク.彼の場合,過去が重い分だけその力も普通ではないわけですが,それを極力まともに使ってきたあたりがさすがは主役.そんな主役たちの前に出現したのが彼の叔父に当たる先代の天流宗家・ライホウ.ここまでの経験で忘れていたはずの過去に限りなく近づいている今のリクには,知らないはずの叔父の顔にも確かに見覚えがありました.さらにたった一瞬とはいえ本当に取り返しのつかない目に遭わされたコゲンタにとってはライホウは仇敵に等しく,親戚に再会したリクとは違って最初から噛みつくつもり満々です.
ウツホが作り出した仮初の存在であるはずのライホウ.しかしリクに近づいて彼の中の闇を揺さぶろうとするその様は,どの程度オリジナルを模しているんだろうか? 自分には宗家の資格などなかったかもしれないという彼は,その責任を周囲の邪さのせいだと主張.宗家という立場が負うべき義務を無責任に放棄しようとする彼の姿は哀れで惨めで,それゆえに今同様の立場に立たされているリクの心を揺るがします.欲にまみれた周囲に高い志は届かず,全てが嫌になったというライホウの心の闇を取り除いてくれると言って現れたのがウツホ…ライホウがウツホに飲み込まれてしまったのは,ウツホもまた,ライホウと同じ気持ちを抱えていたからなのだろうか.
ライホウの裏切りに気づいた天流は伏魔殿の利益を護るために彼を捕えて幽閉.しかし神流にそそのかされた地流が攻め込んだところに元天流宗家は合流し,ろくに契約すらかわざずにコゲンタを振り回し…そして今.「心に闇を抱えて生きる必要はないのです」とリクを混沌へと誘うライホウ.全てを他人に委ね自分は責任から逃げ出す,組織の長が決して選んではならない道へと誘うのです.
同じ天流宗家であるライホウとリクですが,その周囲の人の質はかなり異なっています.ライホウはその力を利用しようとする者に囲まれていたようですが,リクの力を積極的に利用しようとしていたのは,それこそガシンくらいしかいませんでしたからね.そんな気のいい仲間の筆頭であるボート部たちは現世の夜で妖怪と追いかけっこ.演出が演出なんで間違いなくギャグにしか見えないけれど(笑)これは大怪我してもおかしくないような危険な遊戯.先生は大人なんだから心配してもらえないことをすねたりすんなよみっともない.
そして,こけたモモをかばいにいったリナと,リュージの投げた大根のコンビネーションによってなぜか手なづけられる妖怪.元々巫女の素質があったり,力を込めたネギで妖怪退治をした経験があったりとそれなりの素質がある2人の連携によって,なぜか一匹のモッコリーナが誕生! 理屈は不明! 名をつけたら大人しくなるあたりは妖怪も式神とよく似ているようで.式神が人に従う穏やかな自然だとすれば,妖怪は人に逆らう荒ぶる自然の比喩だったりするのかな.そしてこれはウツホと同じ妖怪と仲良くなれる才能じゃないかと思うんですが,本家であるウツホの深刻さに対し,この途方もない軽さはどうしたらいいんだ(苦笑).
現世がいつものように面白かったのに対し,迷いの中,シリアスに正念場を迎えることになる今は無力なユーマ.目の前の弟たちは柱を守るための防戦に必死.なぜまず敵を倒そうとしないのかとユーマは叱責するものの,名もなき地流闘神士は彼らのささやかすぎる目的を語ります.ただこの世界を守りたい.「仲間や大切な人との暮らしが…ただ,それだけです」.その力で組織の未来すら変えてやると息巻いていたユーマにとっては驚くほどに小さな夢のため,ユーマ以外の全員がとんでもない敵に挑んでいたことが明らかに.
笑ったり泣いたりして仲間と過ごす日常は,リクの傍での愉快な日々がソーマに返してくれたもの.雲を掴もうと燃えていたユーマにとっては足元に咲く小さな花のような願いは,かつてのユーマが目指していたもの.もしその役割が天流の陰謀だったとしても,人々を守るために戦うことは地流の本懐.大切な人たちの笑顔を護りたいものは皆同じ.炎は,決して花を燃やすためのものではない! 己の願いの根幹にようやくたどり着いたユーマはランゲツを降神.「こいつらは,オレが護る!」

後半.まずは主役たちのいない現世でなぜか確立されるリナとリュージの妖怪懐柔コンビネーション.リュージの野菜を食わせてリナが命名するとなぜか大人しくなる妖怪たち.キャサリン,ナタリー,ジョセフィーヌ.どうやら稀代の命名名人であったらしいリナの大活躍によって次々にその眷属と化していく妖怪たち…リナとトラジやユーマと小妖怪との交流を見ても妖怪が全て悪というわけではなさそうなんですが,やっぱり人心の欲に強く影響されて荒れたりするんだろうか? 一応の必勝パターンは見つかったものの妖怪は周囲に一杯.最初に野菜が足りなくなりそうな気がするんだが,大丈夫かリュージ?
そんなボート部が帰還を心待ちにしているはずのリクは,ライホウに言葉で心の傷をえぐられている真っ最中.「親に愛されなかった恨みを戦いにぶつけて憂さ晴らしをしているだけ」…リクはもちろん否定したいでしょうが,これこそが彼の中にある黒い動機そのもの.リク自身が持て余し,しかしコゲンタがそれも強さだと言ってくれた強い怒りと悲しみは,幼いヨウメイが抱いてしまった深い願いでもあります.
そして,千年の時が過ぎ,もはや叶うはずもないと思われたヨウメイの願いすらもウツホなら解決してくれるとセールストークを展開するライホウ.月の勾玉を自ら手放すという宗家にあるまじき行いを取り上げて,お前も自分と同じように天流宗家という立場から逃げだしたかったのだと,嫌な笑顔でリクをウツホの側に引きずり込もうとしています.気を抜けばリク自身もそうなってしまうかもしれない無責任で醜い姿で勧誘を続けるライホウだけど…その姿はあまりにうさんくさく(苦笑)かつ自身の悪い面を直視させられるようなものなので,むしろセールス的には逆効果ではあるまいか.
未来のダメな自分のようなものを見せつけられたリクは,結局ウツホになびくことはなく反撃開始.月の勾玉を渡したのはコゲンタの存在を守るためで,何よりもまず式神を最優先するのが正しい宗家の考え方ではないのかと,ライホウの一番弱いところに言葉で切り込んでいきます.確かに人に使われてはいるものの式神たちは自然を司るものですからね.彼らは戦いや利益を生むための道具なんかではなく,もっと大事な存在.…「式神」をそのまま「自然」に置き換えれば,本作の大きなテーマの1つを主役が堂々と語っています.
周囲からの圧力と悲しみに負けて式神を道具としてしか使えなかったライホウに比べ,この世界にひとりぼっちだったリクが式神に寄せる情と信頼は何よりも深い.「式神のおかげで立ち上がれたんです.生きようと思えたんです」.過去と現在に流されるままのリクにしっかり生きろと教えてくれたのは,戦うことしかできないはずのコゲンタ.24話の決意をしっかりと抱えてここまで来たリクは,それを学べなかったライホウに対し宗家の資格はないと言い切ってみせます.
かくして交渉は決裂し,ライホウとの闘神開始.ウツホの息のかかったライホウはもちろん四大天を使うわけですが,それで臆するような天流宗家ではない.たとえ相手のほうが力は上だとわかっていても,敵からも,過去からも未来からも,宗家としての立場からも,リクはもう決して逃げない.「みんなの笑顔を守るために!」大組織の長であるユーマに比べれば,リクが背負っているのはごく小さな「みんな」.祖父や学校の仲間とか同じ闘神士の仲間とか,マサオミとか.足元に咲く小さな花のような「みんな」を守るため,天流宗家はここまでけなげに頑張り,この先も頑張っていくのです.
さて,五行柱のリクの「みんな」の中から実にナチュラルに外されているテルさん(笑)とその頼もしい仲間達ですが,ショウカクの四大天の力にやっぱり苦戦中.ショウカクは5本の柱のどれでも狙い放題なわけですが,ユーマたちは1本でも柱を壊されるわけにはいかず,ようやく原点に戻った地流宗家の力があっても,戦力を集中させる余裕すらありません.そんな劣勢の中でも,ランゲツが気分良さそうに戦っているところがいい.
四大天の攻撃を防ぐために必死で頑張る式神たちですが,ついに名もなき地流闘神士たちの式神2体が犠牲となってしまいます.先のことをユーマに任せ,闘神士なら何より大切にしなければならない式神の存在と引き換えにして,五行柱を守った2人.…みんなの笑顔を守るために本当に大切なものを投げ出した2人は,それなりに満足しながら式神の記憶を飛ばしたに違いない.守るべき笑顔,大義のためには本当に大切なものを手放さなければならない時も来る.そんな現実をちょっと強引ながらも先触れとして示してみせたのがこの2人なのでしょう.今後物語を大団円に導くため,この先残った闘神士や宗家たちは何を手放していくことになるのだろうか.
で,四大天のために2体を犠牲にしてしまった神流討伐隊は,ショウカクに対する怒りに満ちて大降神! これまで大降神してなかった式神までいきなりでかくなってびっくりしましたが(笑)気力の消耗の激しい伏魔殿でも,膨大な気力を持つ極神操機持ちの宗家がいれば気力の補充がきいたりするのかな.五体の式神による五行の究極の守り.もちろん土の力を担当するのはユーマのランゲツ.その極の力で四大天の1つをついに打ち崩す!

ようやく宗家の正道に返り,落ち着いた笑顔でリクに合流することを決めたユーマは弟たちのところから再び離脱.ソーマがヤクモの伝言の断片を伝えてくれたおかげで,3人の極神操機持ちはウツホを「止める」ための手段を模索することになるのでしょう.ムツキがユーマの今の姿を讃えるシーンはちょっと無理やりですが(苦笑)少なくとも一角の霧が完全に晴れたことは喜ばしい.
まだまだ霧の中なのは,仲間の眠る花畑で再会したタイザンとガシン.自分がウツホに騙されていて,しかもウツホはこの世を滅ぼそうとしていると思い知ったガシンは,ここまでの千二百年をともに歩んできた仲間のはずのタイザンの真意を聞くため,一人出向いたのです.天流に潜入するため現代の文化になじみ,今も現代の服装をしているガシンと,同じように地流に潜入しながらも今は古装束のタイザンの心は,たぶんもうすれ違っている.ガシンとタイザンが取り戻したいものは同じはず.けれど意に沿わぬ行動を取るウツホに対しては,「なら,ウツホを殺せばいい」と無慈悲な解決策を持ち出すタイザン.タイザンの「みんな」には,ウツホはいない….
そして霧が晴れたはずなのに,もっと濃い霧に覆われていくリク.怒りと悲しみにまかせて式神を使う過ちはもう繰り返さないと決意した彼は,神操機が示す宗家の道をひた走る.たった1体の式神で四大天1体を切り裂く力は,恐らくは闘神士としては最高峰のものでしょう.けれど,切り裂いた四大天は巨大な桜の木に変わり,その前には見覚えのある2人の人影が.…それはウツホの作り出した,ヨウメイの両親の姿.
悲しい過去はすでに終わっていて,夢だけが未だに千年後のリクの中に残っている.夢がどれだけ楽しくても恋しくても,それは現実ではない.けれどそれでもリクは,しっかり生きていかねばならない…次回に続きます.

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