陰陽大戦記#52
「君に届くまでの巻」
ウツホによってこの世に存在する全ての式神は消された.しかし3人の闘神士は,見えなくなった式神をこの星を巡る全てから感じ取ることができる.人に傷つけられたこの星.けれど自然の一部である式神は,まだ人を見捨ててはいない.
人は式神とともにあり式神は力を揮う.人には…力はない.それに気がついたウツホは,千二百年抱き続けた本当の願いを思い出す.その色鮮やかな思いは全ての無を塗りつぶし,節季は蘇り時は流れ出す.不自然に断ち切られた絆も再び結びなおされ,ウツホは,この世界に別れを告げる.
極神操機の力で崩壊する伏魔殿から脱出する闘神士たち.現世には大切に思う人たちと,叶えたい願いが待っている.些細で愚かで強い願い.それが彼らをこの終わりへと導いたのだ.
1年間本当にハイペースで,時々突っ走り時には息切れしながらもついにここへたどり着いた「陰陽」.激しく楽しい絆と心の物語は,これまでの軌跡に相応しい見事な終幕を迎えます.物語としての完璧な終わりではないけれど,心を添わせてきた者が注ぎ込んだ時間に誠実に報いてくれる,出来る限り精一杯の最終回! …現実は厳しくて,もうとっくの前に見捨てられているのかもしれないけれど,それでもなお彼らは共にあるのだと恥ずかしげもなく語ることこそ,未来への願いを込めた大人らしい結末ってもの.何はともあれここまでいいものを作り上げてくれた人たちに,精一杯の気持ちを伝えたい.本当にありがとう.お疲れ様でした!
前半は最終章・ウツホ編クライマックス.前回ラストで式神をウツホに消されたリク・ユーマ・マサオミ.しかし式神を消されれば記憶を失うという原則をあっさりと乗り越える.ウツホにすら介入できないほど深い絆を持つ極神操機持ちだからこそ可能な奇跡.…式神はこの星がある限り消えない.たとえ語り合い誓い合う人を失ったとしても,常に存在し太極を守り続ける.その姿が見えなくても,風や日差し,雨,寒さとして,全てのそして己の式神を感じることができる.
「そして,節季は巡っていくんだ」
式神を失った闘神士が未だにその縁を結んだままでいる反則を,ウツホは許すことができない.自らの手で再生させた世界に己の意に逆らうことがあるだなんて,想像もしていなかったに違いない,今,世界は取り返しのつかない道を歩み,人の排除でしか自然の再生はありえないと信じていたのだけれど…ウツホの背後には,彼が消したはずの式神たちが待っている.人を救い人を苦しめる自然の一部である式神.彼らは時に信頼できる人にその力を貸して,願いを叶える役割を果す.彼らの存在の根本に人は必要なく,この星…太極は式神を見捨ててはいない.
「そして式神は,人間を見捨ててはいない」
千二百年前に式神たちがウツホに従ったのも,式神たちとウツホが同じ誓いを共有していたから.ウツホは式神たちの力を束ねて意味をつけただけであって,人である彼自身に力はない.人には力などなく,人が回復させたいと願うことに自然が応えてくれただけ.…周りの皆に喜んでもらえればいい.式神が傍にいてくれればいい.そんな些細な願いでつくられたウツホの過去は,この世界の中でわずかな居場所が欲しかったリクととても近しく,だからこそ,リクは木像の小屋の持ち主が誰なのかに気づきます.
そして式神たちにも,一度は付き従ったウツホの願いは良くわかる.時には力に惑わされて忘れそうなこともあるけれど,誰もが結んだ絆は失いたくない.それがたとえ絆を勝手に切るようなウツホであっても,結ばれた絆は失い難い.…終盤,常に歌われてきた本作のテーマがついにウツホの中でも響きだします.
絶望するしかない幽閉の日々の中,恨みの中でウツホが忘れてしまった願い.もう一度だけみんなに囲まれたい…その願いは彼に千二百年を越えさせる力を与えたけれど,本当は既に叶っていたのかもしれない.式神は誰の傍にもいる.ウツホにそれを感じる心があれば,千二百年の封印の底だって….気づいたウツホの目からは涙がこぼれ,気づきによって願いはウツホの体から解放される.それは光の奔流となって,無に飲み込まれる寸前の世界を一気に塗り替えていく!
式神は「節季」という概念に戻り,無を塗りつぶして凍った世界を蘇らせる.節季は1年の時と自然の巡りを人が区切って名づけたもの.そして節季に先立って区切られたのが四季,四大天.…式神は単なる自然ではなく,人間と自然との係わり合いそのものでもあったから,それを奪われていた現世は時が止まって石化したってことだったのかな.闘神士やボート部が最後まで石化を免れたのは,止まる自然の中からわずかな時の動きを感知できていたからなのかもしれません.
ウツホが一人きりで考えた暴挙は止められて,式神は契約を果すため闘神士の傍らへと戻されていく.3人の闘神士によって全て台無しにされたウツホは,その首魁であるリクになぜ最後の罠にかからなかったのかを静かに尋ねます.
「コゲンタが好きだって言ってくれたんだ.僕の中の,もう一人の僕のことを」
この世界に独り流されてからの日々に育てられた,もう一人のリク.制御できない野蛮な誰かを心に抱えていることにすら気づかなかった頃に比べたら,リクの自己認識は劇的に改善されてきたわけですが,その幼い荒ぶる心を包んでくれたのはコゲンタの底なしの許容.本来は幼い頃に両親から与えられるべき絶対的な受容をコゲンタから与えられたリクは,自身の全てをようやく肯定することに成功していたわけです.
リクほど深くて暗いのは珍しいけれど,誰だって自分の中に嫌いな部分を持っている.けれど嫌いなところも含めた全てが自分であり,嫌いなところだっていいところに変わるかもしれない.…嫌な自分を認めて,許して,折り合いをつけることは,人が自分らしく生きるために必要な最初の一歩.リクが自分で前に進むために必要だった一歩を後押ししてくれたのが,コゲンタの小さな言葉.
リクがたった一人の式神に救われたことを聞くウツホの姿は,既に老いている.マサオミはウツホとともに戻ることを望むものの,ウツホはもう疲れきっている.もう一人のリクであったウツホには,自分の中の嫌な部分を教えてくれる者も,そんな自分を受け入れることを教えてくれる者もいなかった.だから,最後の最後で自分を理解して止めてくれた闘神士たちへの感謝の言葉だけを残し,幼く老いた心は体とともに,朽ちて消えていく.
封印するべきものを失い,中が空になった伏魔殿の底は崩壊を開始.式神が戻されたことで意識と記憶を取り戻した仲間たちとともに,天地の宗家は極神操機の力で脱出.唯一残ったマサオミは,これまでの罪滅ぼしということでヤクモや神流討伐隊の回収に向かいます.組織としては解消できていない問題は多々残っているけれど,宿敵同士だった極神操機持ちたちもいろいろあったおかげですっかり和解.互いに迷惑をかけあってきましたからね.
回収に行ったマサオミはヤクモたちの前に道を開いて誘導.しかしウツホの衣を抱えたマサオミは,責任を取りたいのかここに残る気で一杯.ウツホの封印からはじまって,千二百年の長きに渡って迷走を続けた神流の歴史をここで閉じるのは滅びの美学でかっこいいわけですが…ここまで皆に散々迷惑をかけてくれた今のマサオミには,かっこいい道を歩む権利はまったく与えられません.
キバチヨとの契約が満了できないくらい,マサオミにはやるべきことが残っている.それを鋭く指摘したヤクモの言葉は迷惑だけどありがたいもの.3人の主役たちに先行して頑張って時に空回ってきたヤクモの仕事のうちでも,一番タイミングが良かったのはこの一言かもしれないな.
崩壊を免れて時が戻ってきた現世.ついに石化せずに終わったボート部一同は,精一杯頑張って戻ってきたリクを出迎えます.天流の社から出てきたボート部部長の顔は晴れやか.信じて待っていてくれた仲間に向けた笑顔からは,すっかり気負いが抜けてます.大好きな人の帰還にモモちゃんも抱きついて大泣き.…そんなうれしい光景の中で先生が生まれ変わってるんですけども,まずはスルーしときましょう.
地流関係者たちも地流ビルへと帰還.3人の主役の中では一番恵まれた環境のユーマも父と再会.他の2人に比べればさすがに低いけれど,それでも当人にとっては非常に高い障害を乗り越えて戻ってきたユーマの笑顔からも気負いが抜けているのがうれしい.…このようにしてそれぞれが成すべき事を成し,最終章・ウツホ編は幕を閉じます.
後半は「陰陽大戦記」の終わり.時はしばし経って初春.リクは大会間近のボート部の練習を休んで,天地源流の合同チームで林を歩む.恐らくは当代トップクラスの闘神士5人の前にひょっこり顔を出したのは,あのとき伏魔殿に消えたはずのマサオミ.いつもの軽い調子で…生きていたのはうれしいけど,かっこ悪いなぁ(笑).マサオミが導いたのは伏魔殿の底の花畑.あの崩壊の中でも未だに姿を保っているのは,恐らくマサオミが庇いきったんでしょうね.
昼の満月の下で天地宗家は式神を下ろし,鏡合わせの印を正しく使い,紫に輝く天と地の封印を解消する.2人の宗家は祖先の過ちを雪ぎ,マサオミにはこれまで願ってやまなかった,大切な望みが戻ってくる! …神操機と闘神機で降ろされたキバチヨは,ウスベニにこの舞台を必死で整えた功労者を教えます.本当にいろいろあった末にウスベニより年上になってしまったガシン.千二百年の悲しみの夜はついに明け,嬉し涙を流すその顔は無垢な子どものよう.「苦労したのですね」とねぎらってくれる姉の優しい声や明るい笑い声に悲しみも恨みも吹き飛んで,ついに天地神の間にあったわだかまりは消え,原初の流れへと1つに戻り,新しい日々の扉が開きます.
地流の施設に身を寄せた神流一派…というよりはマサオミの家族.ウスベニはウツホの最後を聞いて,タイザンについてはガシンから笛を渡されます.最終決戦直前にマサオミと激突したタイザンは,四大天の力をその身に埋め込んで戦い敗北して事切れたはずなのに,「いやぁ,それが…」とマサオミがばらす衝撃の事実! 実は生きてたタイザン! かっこ悪(笑)! 傷の割にお元気そうで何よりですが,問題はマサオミが牛丼喰いに連れ出したせいで壊しちゃった精神のほうか.式神を失ったおかげで千二百年の記憶を吹っ飛ばしたタイザンだけど,あの恨みの深さを考えると気持ちよく吹っ飛ばしたほうが幸せかもしれない.ちなみに頭の柔らかな子どもたちには,21世紀の文化は大ウケのようで何よりです.
さて,このある意味今までのシリアスを台無しにするハッピーエンドを導いた大きな要因こそ,ヤクモとナズナが準備した刻渡りの鏡ではないかと思います.漫画版にも登場する時空移動装置は物語の何もかもをひっくり返しかねない反則装置なわけですが,これを使って死にかけのタイザンを回収したんじゃないだろか.
そして今日,鏡を使って出発する神流一門…というか愉快なマサオミと仲間たち.現代に思い切り毒されたマサオミは大量の牛丼とバイクでとともにご出立で,もはや彼はガシンではない(苦笑).こんなことして大丈夫なのかというリクの懸念は,あとでちゃんと大事になりますんでお楽しみに!
戻る直前,マサオミはリクを両親に逢わせるために過去へと誘います.けれど今のリクにはそのつもりはなく,微笑んで首を横に振ります.神操機を借りたまま,何もかもリクに負けながらも仲間とともに旅立つマサオミ.穏やかな日々へと戻る…マサオミが長い時間抱え続けた夢のかけらは,輝く鏡の向こうに待っています.
リクが父母と再会できていないことを案じていたのはヤクモも同じ.しかし今のリクには過去に戻るつもりはない.父母のことを吹っ切った風ではなく,逢うことを怖がっているように見えます.きっとまだ心の整理がついていないリクに「過去に戻りたくなったら,来いよ」とヤクモ.そして最強なのにどうしようもなく情報伝達が出来ていなかったこの先輩は,ナズナと2人で「バイス!」と見送り.リクとコゲンタは天神町へと戻っていきます.
神流についてはこれで問題はほぼ片付いたはずなんですが,リクの中の問題は未だに解決できてないことを感じているのか,コゲンタはまだリクを放っておけない.そしてこの問題を解決する鍵が,信州磐梯郡天神町めぞん太刀花101に届いていました.…行方不明の祖父からの手紙!
翌日,リクはボート部ご一行とともに手紙に誘われ小旅行.「なんでこいつらがついてきてるんだ」「流れで」というコゲンタとリクの会話が実に豪快でよろしい(笑).たどり着いたのは京都のような黒く古びた町並みに,すぐ傍には雪を戴く美しい山並みが連なる街.店に並ぶ手毬に眼を奪われたりしているリクの前に姿を現したのは,逆境の中にリクを放り出した祖父! その懐かしい声と姿に,再会の喜びを爆発させて抱きつくリク.泣きながら,どこ行ってたの,ずっと待ってたんだよと正直な言葉をぶつけるリクに,すまんと謝る祖父.きっと以前のリクならば,ここまで子どもっぽい仕草を見せることはなかったんだろうな.
祖父が案内するのは福寿草の咲く山道を登った先.高台から街を見下ろす美しい光景は,京都の天流遺跡を思い起こさせる.そしてそこに立つ石碑の文字をユミ先生が読み出します.「瓜食めば子ども思ほゆ,栗食めばまして偲はゆ,いづくより来りしものぞ,眼交にもとなかかりて,安寐し寝さぬ」「銀も金も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも」
2つとも山上憶良の詠んだ子を想う歌で,平安の知識人ならそらんじていそうなメジャーなもの.ちなみにユミ先生が先生らしいことをしたので作品も終わり間近です(笑).子どもに対する強い思慕をテーマとした2つの歌を説明されて呆然とするリクに,ユミ先生は教員免許の威力をさらにぶつけます.石碑の最後には…
「この歌を,時空を越えた我が子,ヨウメイに捧ぐ」
…誰が何を思ってこれを刻んだのかを知って,泣き出すリク.父母を苦しめた自分のことを,それでも父母は愛しく想っていてくれた.届くかどうかわからない溢れる思いを歌に乗せ,石に刻んで待ち続けていてくれた….自分が愛されていたことを思い知って「ごめんね」と心の中で謝るリク.心に降っていた雨は流れる涙とともに消え去って,ずっと傍で心配してくれた仲間たちと祖父に,涙に輝く笑顔で感謝の言葉を捧げます.本当にたどり着きたかった両親の心が届く場所に,リクはついにたどり着いたのです.
夜,天流の社の前.まだ少しだけ不安定だったリクの心もついに安定.コゲンタにはリクとの別れの時がやってきます.中盤以降で次々に襲った悲しみや衝撃の事実を,互いを思いやることによって乗り越えてきた2人.どんなに辛い道だって,一人ではなかったからこそ越えてこられたのは間違いない.深い暗闇の先に待っていた夢を一緒に探してくれた大事な式神に「ありがとう,コゲンタ!」とリク.…人の情にうとい式神にとってこれほど大変な闘神士は珍しいはずで,だからこそコゲンタの喜びもきっと格別.リクがバカ素直に感謝するところは1話と何も変わっていないけれど,コゲンタはその言葉をそのままに受け入れる.
「白虎のコゲンタ! ここに契約を,満了する!」
自分がここにいることを許してもらえるように,仲間や式神や皆の役に立って,笑顔になる手伝いができて…できれば両親に謝りたい.そんな目的が果たされたからこその笑顔の別れ.最初は引っ張り,それから横を歩き,最後には後ろから支えてくれたコゲンタはその姿を失って,四季の中へと戻っていく.…人と太極の間,常に人を見守ることのできる場所へ.
同日.地流の社では,ユーマが父と揃いの布衣を身につけて役目に挑もうとしていました.ワイルドだった髪も姿も整えて,ミカヅチに父を封印される以前のユーマに近い姿へ.皆を笑顔という壮大な望みの第一歩を着実に踏み出し,その結果として父に認められたユーマは,少年を卒業し青年の表情に変わっています.そしてその傍らにはやっぱりミヅキさんが.闘神士としての記憶は飛ばしたままでしょうが,人を愛する心はその程度で消えるものではなく,何よりです.ミヅキの愛らしい巫女姿に,ユーマだけでなく堅物のランゲツまで魅了されてるのがおかしい.今のミヅキの魅力は式神や闘神士よりも絶対強いぞ.
どうやらユーマは地流宗家としての役目に専念することになったらしく,ミカヅチグループではソーマが社長の役目を勤めております.確かに神事を司る長が俗世で権力を振るうのはあんまりよろしくないので,その力量のあるソーマに役目を回すのは適切かも.それに,ユーマには人望は物凄くあるかもしれないけれど,平時の経営のセンスはなさそうな気もするし.でも…ちょっとの間にソーマは随分権力にまみれたなぁ(苦笑).
ミカヅチグループではムツキは相変わらず子会社の社長として手腕を振るっている様子.けれど,そんなムツキの最高のパートナーであるテルはまたも修行の旅へと出発.堅実を画に描いたようなムツキと適当すぎるテルが同じ場所にいるのはやっぱし無理だったか(笑).とはいえこの国から全ての問題が消えたわけでもないだろうから,彼が市井を放浪して問題を解決して回るのは,行き倒れにさえならなければ,いいことなのに違いない.
…地流の社では,ユーマとランゲツの契約満了の別れ.あの時ウツホに答えたとおり,世界の全てを笑顔にすることはすぐには無理で,そんな意味ではユーマの夢は今も消えない.けれど皆を笑顔にする可能性を無の来襲から守りきったことが,心からの満足とランゲツとの別れに繋がりました.ランゲツの言うとおり,ユーマの目には涙よりも炎が似合う.仲違いして裸足で飛び出したあの日にだって自分の傍にいたランゲツからついに別れて,青年は自分の足で,自分が目指す栄光の未来へと歩き出します.
長く苦しんでようやく手に入れた笑顔.過去に戻った神流一行は穏やかな日々を過ごしているようですが,この中で唯一千二百年の記憶を継承するマサオミはキバチヨと一緒にウスベニに怒られております(笑).実際マサオミの現在に対する適応ぶりは半端ではなく,服装も言葉遣いも古と現代の折衷状態.あの調子だと,どれだけ怒られてもマサオミがガシンに戻ることはもうないんだろうなぁ(苦笑).過去に持ち込んだバイクや牛丼は現代でオーパーツ扱い.マサオミがバイクの燃料や牛丼の不足に耐えられるとは思えないので,今も現代に頻繁に通っていそうな気がするな.
リクたちが出場した全国中学生ボート大会には,なぜか元地流闘神士たちが出場していてしかもライバル! こんなところでそんな相手と闘わなければならなくなったリクの複雑な胸中が思いやられます.わざわざ揃ってこんなところに出てくるなんて,どう考えても地流の差し金としか思えない(苦笑).式神を失い記憶を無くした彼らの新しい人生のために,大恩ある天流宗家と同じスポーツをやらせてみたんだろうか.で,そんな強敵と闘ったカワウソコンビが手にした審査員特別賞.…仮装も採点のうち? 鳥人間コンテストと似たようなもの(笑)?
戦いの中でどんどん倒れていった地流・神流の面々ですが,意外と元気に今も暮らしているようです.前半をその力で引っ張ったミカヅチだって穏やかな顔で健在.ミカヅチセキュリティの新人研修では,ムツキが地流・神流の面々に妖怪について講義中.そこにどう考えても絶対死んでるような面子まで見事に揃ってるのは,例の刻渡りの鏡を使い,ヤクモやマサオミが中心になって流派関係なしの人命救助を進めているんじゃないだろうか.
大変なことが片付いて,自分たちの周囲に目が行くようになった彼らの間では恋も花開いてます.過去ではタイザンとウスベニの恋物語も順調にやり直し中.今のマサオミなら,タイザンが権力を求めて変なことを考え始めても,取り返しのつかないことになる前に止められるでしょう.
同じく大変順調そうなミヅキとユーマの恋に比べ,前途多難なのはソーマとナズナの恋.清廉潔白なナズナさんに社長のパゥワーなんて見せつけたらそりゃ逆効果(苦笑).彼の望みが叶う日はまだ遠そうですが,まだ幼いのにこの先大権力を扱わなければならないソーマにとって,逆らえない人が本気で諌めてくれるのはすごくいいことのような気がするな.
怪異を愛するリナはあのとき従わせた妖怪たちに囲まれてご満悦.ナズナにふられたテルも,そのうち巫女服の似合う可愛い彼女を見つけられるといいけれど…コスプレ会場で見初めるのは何か間違ってる(苦笑).太白神社を再建したヤクモの傍にはイヅナが.今は休息している宗家たちがひたすらに歩き続けて作りだした道の先で,彼らが活躍するのはまさにこれから.3人の極神操機持ちが目指したものはそのまま仲間たちの光となって,宗家たちが彼らの先頭に戻るまで,明日への道を照らし続けてくれるのでしょう.
そして春.1年前と同じように見えて何もかも違う中学2年の春.背が少し伸びたけれど,朝の習慣は同じままなリク.しかし決定的に違うのが,ただの幼馴染だったはずのモモに対する大変面白い態度(笑)! この異様な照れっぷりはまさに去年の春のモモの様子そのもの.1年余分にかかってリクはモモと同じ場所に立てたわけです.照れて駆け出すリクと追いかけるモモの,恥ずかしくてのんきなやりとり.元々は素晴らしいボケだった彼ですが,後半以降はツッコミ役でどうにも痛々しかったけれど,こうやって気持ちよくボケているのを見ると,平和って,いいもんだよね.
節季は巡り,今は何もかもはじまったばかりの春.長い1年に起きた全てのことが血肉となって,新しく生まれた季節.そこには人間たちだけでなく見守る沢山の式神たちの笑顔もあるはず.…人間は今も地上を滅ぼす火を抱えたままだし,自然に対する敬意も薄れる一方だけれど,あのときウツホが訴えた言葉が人間たちの心から薄れることはないはず.壊れかかっている太極を救う義務は,今もなお人の肩にかかっています.
そして闘神士たちが今も抱えるもう1つの大きな義務は,自然と式神を本当に愛していたあの人に,それを救ったことを伝えること.ここまでの全ての穢れを引き受けて消えたあの人に謝罪と感謝の言葉を伝えなければ,物語は終わることができません.
刻渡りの鏡という万能の道具こそあるけれど,うまくやらなければタイムパラドックスで現代の仲間たちが消えかねない.ましてや闘神士の存在の根幹に関わる彼を救うとなれば,今の闘神士たちが総力を結集したってたぶん無理.戦闘で疲弊しきった組織を作り直し,未熟な人々に更なる経験を積ませて不可能を可能に変えるための時間が必要.けれど…その時が来たなら,全員が闇に沈んだままの彼に光を見せるために歩き出すのでしょう.そしてその途中で,別れたままの親子が再会するようなこともあるのかもしれない.
今も天流の社には,宗家の極神操機が置かれ,次の役目を待っているのです.
| 固定リンク
「レビュー◆陰陽大戦記」カテゴリの記事
この記事へのコメントは終了しました。
コメント