焼きたて!!ジャぱん#51
「そうかこっちのリアクションがダメだったのかの巻」
決勝戦第3戦のパンで,息子を救うために死んだ父に再会させるとピエロに約束した和馬.しかし対戦相手であるシャドウは,ピエロを銀河に飛ばし,星になった母に逢わせると約束している.実際の第3戦は戴冠式を目前としたピエロ目当てに満員御礼.群集の中心で2人のパン職人はモナコカップの最終戦に相応しい最高の素材と最高の技術を注ぎ込んだパンを作り上げる.アメリカの歴史の浅さを逆手に取って,世界中の超一流素材を使い最高の技術で仕上げられたシャドウのゴぱんベーグル…関西人の心を乱すほどのリアクションを生み出すパン!
ついに決勝.いろんな意味で危険極まりないリアクションとともに,数奇なピエロの物語がクライマックスへと驀進する「ジャぱん」.ウンチク溢れるパン作りのスピード感もなかなかのもの.立て続けに注目点がピックアップされる様はいかにも料理対決番組らしく,全てが静止画である原作では実現が難しい,実にアニメらしい描き方です.
和馬が純真な主役らしく,勝負以上にピエロのことを親身になって心配しているのに対し,シャドウが母に逢わせると約束したのは間違いなく点数稼ぎのため.美味いパンをつくるという行動そのものは同じでも,作る動機は根本から食い違っていることにも注目しておきたいところです.
前半.自分のリアクションが間接的な原因となって父を失ったピエロのために,彼を天国に送り父に再会させることを約束した和馬.大麻ジャぱんを「おおあさジャぱん」と発音するのは,いくら前回散々フォローを入れたにしても響きがどうしようもなく物騒だからだろうなぁ(苦笑).しかし敵もピエロを喜ばせるものとして母に逢わせるためのパンを作ってくる様子.決勝第1戦が母,第2戦が父,そして第3戦….ピエロを本当に喜ばせるのは,どちらのパンになるのか.
シャドウ…というかその後の霧崎オーナーが狙っているのはピエロの母に対する思い.ピエロがはじめて見た母・メーテルの肖像は,さすがに原作と同じ展開はダメだった(苦笑).でも,大麻は無理やりOKでメーテルはダメって判断基準も,どこか不思議な感じがする.メーテルの愛読書は銀河鉄道の夜.宮沢賢治で銀河鉄道…としておかないと,この先の展開でいろいろと不都合が出ます.宮沢賢治読んでもらいたかったよーと涙に暮れるひとりぼっちのピエロ.彼の人生の大目標は,既に潰えているのです.
そして運命の決勝第3試合! 超満員のグランカジノ! 司会兼審査員は宙を舞う王様ピエロが引き続き担当.…これまで凄いものをいろいろ見せられてきたから,飛ぶ程度ならあまりインパクトもないな.この舞台で激突するのが和馬とシャドウ.テーマは「故郷の味を生かしたパン」.明日の戴冠式で国王になるピエロ.でもやっぱし前科は消えないものなのか…(苦笑).沢山の観客を背負って,試合開始!
早速霧崎オーナー直伝の凄まじい生地さばきを見せるシャドウ.超ベテランの技を100%コピーすることによって,水の割合が普通のパンより少ないベーグル生地を凄まじい手つきで見事にこねる.ちょっと見には何をしているのかよくわからない手さばきこそ,世界一を100%コピーする世界一の技術.
一方派手な動きのない和馬は,植物性の大麻乳を生地に加える.ピエロの解説によって会場では下北沢のレストランが大人気に! …モナコに支店でも出してください(笑).しかしシャドウもピエロですらわからない特選素材・女鶴を持ち出して対抗.ここまで本作最大の見せ場である試食の場で,喰えないわ説明できないわとストレスを溜めてきた黒やんも,王様ピエロを上回る知識を見せつけられたことで少しは鬱憤が晴れたかな? でも,あの遠目で米のブランドまで察することができる黒やんはやはり凄い.金のような光沢を持つ世界最高峰の幻のもち米,余程特徴的な香りなのだろうか.
技と素材の応酬はややシャドウ有利.しかしシャドウが持ち出す素材はどれもワールドワイドでちっとも「故郷の味」じゃないという問題が.移民の国でもあるアメリカには,日本に比べると故郷の味らしいものがまだ生まれていない.…けれどシャドウはアメリカで人気の健康飲料・ライスドリームを使いニューヨークが本場のベーグルを作ることで無理に条件をクリア.ライスドリームは玄米なくしてはありえないし,ベーグルが生まれたのもイスラエルなんですが,条件を厳しくすると双方に利益がないということでOKに.
とはいえシャドウの素材の由来を気にしているのはギャラリーのみ.恐らくピエロを飛ばすことしか考えていない和馬は黙々とパン作りを続け,松代店長も注目する調味料を反撃ののろしとしている一方で,シャドウはベーグルをイギリスの幻の紅茶・クオリティ・シーズンでゆで,さらに揚げるという贅沢で的確すぎる技に出る.
世界最高の材料を世界最高の技術でこねて,そこに世界最高の香りと風味をプラスすることで生まれた世界最高のベーグル.その恐ろしさは,河内の関西人のカンがとんでもないリアクションを警告するほどのもの.…第2戦では実にいい働きをしたはずなんだけど,やっぱり河内が頼りになるのはパン職人以外の面なのか(苦笑).さて,霧崎オーナーがシャドウを介してピエロに与えた銀河行きのパンのお味は如何に?
後半は原作を放映できるレベルに必死でアレンジ(笑)! 夜空の下の少年ピエロ.そこにやってくるのは風の又三郎…ではなくキッドの顔したカムパネルラ.作り手に愛されているというよりは,とりあえず出せば笑いが取れるという色モノ芸人扱いなのは本当にいいのか(苦笑)? 何はともあれ出オチなカムパネルラとともに,銀河の果てへと銀河鉄道で旅立つピエロ少年.
そう.銀河鉄道は当然宮沢賢治が作り出し,ピエロの母が大好きだったファンタジックな世界.誰が何と言おうとも,母の名前がメーテルであっても,原作がどうなっていようとも,断じて松本零士先生の世界ではない!はず!車掌さんが凄く微妙だけど(苦笑)! 他のアニメのパクリだったら最悪って,よりによってお前がそれを言うかと視聴者は大変に複雑な気分に.
目的地は石灰袋.空の穴.そこに母がいるのだと車掌のやばさを無理やりごまかすカムパネルラは消え,そのかわりに聞こえてくるのがピエロを呼ぶ優しい母の声.…再会を希ってここまできたピエロと,その母・メーテルとの感動の再会!なんだけど…その母さんの顔が真っ黒な星の表面に無数に浮き上がっているってのは,感動よりもホラーに近い.星になった母さんを文字通りに再現してしまったがゆえの不条理な風景の中,少年ピエロはこれまでの経験を無数の人面石みたいな母に必死に話すことになります.
無数の母はそれぞれにピエロの言葉を求め,ピエロの体は1つきり.いくら念願が叶ったとはいえ,星中の母の顔に同じ事を何度も話さねばならないという凶悪な嫌がらせにはさすがに耐えられなくなったピエロ.しかしピエロに与えられたノルマは5万回.この星には5万人の母がいる! …5万の母さん,5万のメーテル,ゴマンメーテル…ごパンベーグル! おなじみの苦しいダジャレが,著作権にやや衝突しながらも炸裂だ!
現実ではパンを口にしてひたすら固まっていたピエロも,特大のリアクションとともに帰還.5万人もの母親に再会しちゃったことに深く感動するピエロは,シャドウのパンに高い評価を与えます.数々の最上の素材を見事に組み合わせて生まれたベーグルはまさにパーフェクトな出来栄え! 霧崎オーナーの着想と,それを完璧にコピーして見せたシャドウ恐るべし.そりゃ河内だって,即刻スペインパンフに逃避したくなるってもんです(苦笑).
けれど和馬も負けてはいない.シャドウに比べればゆっくりと時間をかけて焼き上げられている和馬のドーナツ.霧崎オーナーはその姿から,恐らくはこの戦いの終わりを予測してしまったのでしょう.仲間の誰にも和馬の本当の凄さを理解できない段階から,正確な予測を出してみせる霧崎オーナーの読みの深さが怖い.この人を出し抜くには,一体何をどうすりゃいいんだ.
和馬がつくっているのはイースト菌を使ったパンドーナツ.シャドウのベーグルの場合は焼けないから茹でてから揚げたわけですが,和馬の場合は生地への油の吸収を抑える,風味を追求するためだけに余計な一手間をかけているという違いがあります.しかも油も大麻油とごま油のブレンドで風味をさらにアップ.けれどこれでもなお,あのシャドウのパンには届かない….
けれど和馬はさらに工夫を加える.焼いて揚げた上にさらにもう1度焼く! 手間もさることながら,繰り返しの加熱を適切にコントロールする技術も相当なものではないだろうか.ピエロを飛ばすことだけしか考えていない和馬がふりかけた,大麻きなこと最後の鍵となる何らかの糖分.既に相当高い完成度を誇るドーナツに,駄目押しの甘さと芳しさを与えるキャラメリゼ!
世界一の食材と腕を兼ね備えたシャドウに対し,普通に考えれば珍しい食材に留まる大麻にこだわった和馬のパンには勝ち目はないはず.しかし,今の和馬の目には敵の姿は映っていない.気の毒なピエロを飛ばすためにあらゆる手を打つことこそが,店長の言う,究極の職人としての完成なのだろうか.食材や技術を越える何かでピエロを遥か彼方へとトリップさせ,まさに全てを変える次回に続きます!
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