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アストロ球団#9

「新たなる憎しみへのいざないの巻」

人命という余りに大きなものを代償としながらもついにロッテに勝ち,巨人軍への挑戦権を手に入れたはずのアストロ球団.しかし彼らの前途を阻むのは,同じボールの痣を持つ第8の超人だった.試合中に球二を殺した悔恨から屋久島に隠遁したカミソリの竜を挑発したり,巨人戦に備えて特訓する超人たちの前に立って球団旗を燃やして宣戦布告したり.彼の名は峠球四郎.莫大な財力を後盾として持ち,肉体と精神を鍛え上げてあらゆる分野で天才的な能力を発揮する恐ろしき超人だ.

物語を熱くさせるためならば人死程度は平気で選ぶ恐ろしき「アストロ」.感動を呼び起こすためにとりあえず殺してみる,というのは最近流行のドラマや映画でもポピュラーな手法なので今更どうってこともないかもしれませんが,死因が不治の病やら事故ではなく,野球の試合なあたりが本作ならでは.今回はついに始まる対ビクトリー球団戦のプロローグ.これまでも試合の合間にちょくちょく割り込み奇行を披露していた球四郎の凄さがじわじわと披露されていきます.

前半は旗を燃やす.たった6人で挑んだロッテ戦,そもそも大幅に足りなかった戦力は初代球二の命で贖うこととなってしまい,人生最大の賭けに挑んだ常人は見事に墓石へと化けたのでありました.本人はそれなりの覚悟で命を賭けたはずだけど,この結末を見てしまうと,いくら憧れの超人どもに勢ぞろいで墓参りされてもあの沢村と同列に扱われても,ちっともうれしくありません.特にシュウロに関しては,彼の不在が球二を殺したようなものなのでもっと反省してもらわないと球二も浮かばれない気がする.
ドームを望む場所に墓石を立てられて,死してもなお自分を殺したアストロ球団を見守らねばならなくなった球二.根本的に自分たちがやったことを理解していない球一たちが,ここならいつだって俺たちが見えるだろうと満足してんのがやりきれねえ…(苦笑).アストロ球団はこの先次々と苦難に襲われるわけですが,これも初代球二の呪いと考えれば納得できそうな気もします.
そんな球二の墓にそっと添えてあった,なんか安そうな仏像を見つけた2代目球二.申し訳ない成仏してくれの気持ちで刻まれた仏像を供えたのは,球二を殺してしまったカミソリの竜こと球六.直接手を下した竜のほうがより罪は重くて当然だけど,ろくに反省も謹慎もしていないアストロ球団もどうだろう(苦笑).
人を殺してしまったのだから強い罪の意識を感じて苦しむことは当然のこと.それこそが贖罪の第一歩.しかし,そんな苦しみすらも野球に結びつけて強制的に昇華できなければ,真の意味での超人とは言えないのかもしれません.1973年3月12日は,アストロ球団の初勝利の日であり,同時に多大な業を背負った日でもあるのです.
さて,アストロ球団に比べるとまだまともな神経を持ち合わせていた竜は,上に向かって生えていた爆発髪を寝かせて屋久島の小屋に篭り仏像を彫って暮らしております.霧の中,悔恨と贖罪の日々を暮らす竜のもとを訪れたのは…野放図なあの男.尊大で生意気で何もかもをバカにした態度のこの男.それは仏像や人の死であっても例外ではなく,死んだ奴は戻らんと厳しい真実を竜にぶつけます.どこの誰とも名乗らぬままで,お前のやっているのはただの自己満足だと痛すぎる真実を狙い撃ち.…もちろん竜だってこれが自分を慰めるだけのものに過ぎないと知っているんだろうけれど,罪の重さを知っているからこそ何もできずにいることは理解してあげたい.
無頼漢は島に篭った竜をバカにすることに余念がない.特に「でくの坊」呼ばわりは竜の中に眠っていた激しい負けん気に赤い火をつけ,愉快犯は小さな火にがんがん風を浴びせかけて大きな炎に変える.折角彫った仏像をなぎ払う男に怒る竜と,その怒りこそ力だと言い切る男.確かに野球に対する憎しみと怒りが竜に人殺しの力を与えたけれど,その力は決して正しいものではないから,野球をやめた….もちろんこれがただのごまかしであることを,手慰みにバットなんか作ってしまっている竜自身がきっと一番知っている.

アストロ球団には他の球団では実現不能な華があります.超人たちの超プレイや血の華だけでなく,そもそも9人揃っていない戦力差そのものが,日本人の判官びいきの心を直撃してやまないわけです.これだけの差があればどんなアイドル球団であっても戦えば自動的に悪役扱いされてしまうわけで,それゆえに対戦相手としてつきまとわれている当時のヒーロー球団である巨人軍の苦悩は深い.
話をしてもらえないからと他球団のスタッフエリアに侵入しようとするシュウロと,そんなシュウロには近寄りたくもない川上.勝ったから戦ってくれというシュウロと百年早いと断る川上.挑発しても相手は乗らず,シュウロとアストロ球団のラブコールはちっとも川上巨人に届きません.さらに登場したこの章のキーマンである峠会長.彼はもう1つの超人球団の存在を,シュウロに教えます.
さて,人を殺してもロッテに勝ったってのにその挑戦権をちっとももらえていないことなんかまったく知らない超人たちは,例の応援歌を響かせつつ,来るべき巨人戦に備えて特訓の真っ最中.ロッテ戦で体力のなさが露呈した球一はスカイラブの連投100球まで耐えられるようになり,2代目球二のリードもばっちり.気合が入りすぎてちょっと空回っているのが球七で,球八とともに兄弟でノック中.そして一番気の毒なのは,ファンクラブの声援を受けつつ練習に励む球三郎の隣の孤独な球五.対比されて悲しいこの状況は,ある意味精神鍛錬な気がします(苦笑).
そして…ロッテ戦終了後にも襲い来た痣の痛みとともに,8番目の超人がアストロの旗を持ってやってきた! 相変わらずふてぶてしい表情で,ここまでの行動を見る限りアストロ球団と超人たちをバカにしているとしか思えない彼は,神聖な旗をそのまま燃やすという見事すぎる宣戦布告をぶちかます! そりゃもう血の気の多い球七は早速暴力に出るものの攻撃は当たらず,むしろ子ども扱い.行動だけでなくその能力もまた非凡です.
アストロ球団を超人ではなくただの野球馬鹿だと愚弄する彼は,超人とは肉体と精神を鍛え上げた創造的な天才のことだと勝手に持論を展開.確かに超人とはいえ球一たちはあまりにも馬鹿であり,その馬鹿さが原因で余計な血を流しすぎ.ただし馬鹿さゆえに目の前の逆境に迷わず飛び込めるという利点もあることはあるのですが.
闖入者がここで見せる美技は,ロッテに勝って体力もついた球一の鼻を見事にへし折ります.「ワシから見たら,おまんらの超人プレイなんぞ,子供だましに過ぎん」…その投法はあのスカイラブ! 球一が必死で会得した技を再現しちゃった彼こそは,彼の定義で言う専門家以上の超人そのもの.もちろん目の前で必殺球をいきなり奪われた球一は,がっくり膝をついております.

後半はついに正体が明らかに.アストロドームの監督室で超人たちがシュウロに見せられたのは,球一をあっさりコピーしやがったあの男のプロモーションビデオ.お相手は件のカミソリの竜であるわけですが,背景で意味深に燃え盛るかがり火がどうにも謎.イメージシーンというわけではなく,現実に燃え盛っちゃてるからなぁ….
プライドを傷つけられた竜が投げるのは当然のように殺人L字投法.さっきまでの悔恨は一体どこに行ってしまったのだ(苦笑).けれど男はアストロ球団ですら不完全にしか攻略できなかったあの球をトンボ返りで見事に攻略.当時のルールとしてあの反対打席への移動が許されるかどうかも微妙に気掛かりですが,そもそもこの世界の野球は法よりも強いもののようなので,まあいいや(苦笑).これは,球三郎にもできなかったスムーズで美しい攻略ぶり.
ちなみに当の球三郎は時々忘れがちですが失明しているので,モニタは見えず音声と周囲のリアクションを感じるのみ.そんなわずかな情報であっても,男の下段の構えに気づきます.竜の球の弱点は.その極度の回転の代償としてとことん球が遅いこと.一度放り出されたらミットに収まるまでに時間がかかるからこそ,トンボ返りのような奇策が可能となったわけです.竜の蛇のごとき球回転の方向も投げられたあとは一定.そこで打席を変えることにより,バットに到達した際の回転を逆向きに受けるようにしたならば,恐ろしい球は長打へと変わる!
敵の技量は球三郎をも上回る.バッティングセンスもさることながら恐るべきはその読みの深さ.てなわけで明らかになる新たなる敵の正体! 彼の名は峠球四郎.もう1つの超人球団・ビクトリー球団を率いてアストロが巨人軍と闘うための道の途中に立ちふさがる者! アストロ球団に先立って巨人軍への挑戦権を奪った彼らは,あくまでの格上の相手としてアストロ球団の挑戦を受ける所存です.アストロ1こと球一を潰したと公共の電波を使って宣言する球四郎は,完全にアストロを舐めている.
…ただの野球バカでも人殺しでも,ここまでやられて燃えない奴は漢ではない.怒る球一たちに対して,これは敵の筋書き通りだと読んでいるのが球三郎.球四郎の真意がどうあれこれは明らかな挑発行為.勝ち取って得たはずの巨人軍への挑戦権をうやむやにして,さらに非公式戦を実施しようという腹づもりに違いない.とはいえここまで大々的にバカにされて戦いを受けないわけにもいかず,策士にハメられたアストロ球団には,もはやビクトリーを叩き潰すしか道はない.たとえ相手がどれほどの力を持とうとも,ずたずたになる覚悟で邪魔する奴を叩き潰す.それこそがアストロ魂だ!
そして,確固とした哲学を己の内に抱え,その哲学を貫くためならアストロだろうと少年だろうとまったく容赦をしない球四郎.悔しさを忘れるな.憎むことを遠慮するな.全力で憎い敵にぶつかったときこそ,今までよりももっと先に進める…これこそが球四郎の哲学.敵と戦うことで己を高めるため,まず敵の能力を怒りや憎しみで高めようとする求道者球四郎が作り出したビクトリー球団とはいかなるものか.次回に続きます.

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