第12回しりとり竜王戦・予選
剥き出しの言葉同士のどつき合いが奇跡を生む「しりとり竜王戦」.すっかり芸人にとっての大舞台として評価されるようになった「しりとり」も今回で12回目.やってることはただのしりとりなんだけど,面白さのおかげでここまで長い企画になると異様な箔がついちゃうもんだなぁと感慨深い.ちなみに過去の履歴についてはこちらなどをどうぞ.これまで,本当にいろいろなことがあったんですよ.
この「しりとり」界に燦然と輝くのはやはり板尾永世竜王という一等星で,そんな永世竜王とは少し違う色で輝くのが有野名人.板尾と似たような光を放ちつつも力を増しているのが千原弟,という布陣.…なんか一人忘れているような気がするんだけどそれは気のせいってことで!というのも今回のテーマの1つです(笑).あのガワには絶対呪いがかかっていたに違いない.
「しりとり」は勢いに乗って激しくハジケていくことも大切なのですが,それ以上に重要なのは難しいテーマにもじっと耐えて小当たりを出し続けること.得意なネタで大暴れするのは当たり前のことで,どんな苦しい状況に追い込まれても耐え続けるお笑い持久力こそ,実力者とそうでないものを分ける最も大きなポイントです.
今回の出場者は板尾(130R),ほっしゃん。,渡辺(ジャリズム),中田(オリエンタルラジオ),山根(アンガールズ),千原弟(千原兄弟),藤原(ライセンス),有野(よゐこ).今回はいつもなら1人は解説席にいるはずの四天王が戦場に揃い踏み.強すぎる板尾永世竜王を追う有野八段が永世竜王の名に挑む大一番だからかな? 実力者が半分以上という過酷すぎるこの場所で,若手たちは凍えずに耐えることはできるのか.
司会はいとう.判定はいとう・勝俣・MEGUMI.記録は野村アナというおなじみ磐石の布陣です.
Aブロック予選は板尾・ほっしゃん・中田・渡辺.意外としりとり初登場のほっしゃん.頑張ろうと思ったらかみそり負けしましたなどと緊張感のなさをアピールするあたりが逆に緊張の証拠.こんな厳しい舞台はそうはないですからね.それに対していかにも「しりとり」初心者らしいふるまいを見せるのが中田.いい大人に「はやくおうちにかえりたい」と思わせるほどに,この舞台は大きなものになっちゃってるわけです.ここでウケが取れれば今後別の仕事にも繋がっていくかもしれないから頑張れ! そんな初々しい新人どもに対してベテランの渡辺は妙な雰囲気を漂わせています.自分のために優勝とか新人潰しとかいかにもな挑発行為が憎たらしいんだけど…あんまりやりすぎると今度は審査員の心証に影響しそうだから適度なところで慎むべきです(笑),そして板尾竜王.最強らしく「リサ・スティックマイヤー」を回答に入れると予告将棋してみせる余裕ぶり.この場所でこれをやっても背伸びをしている感じがまったく感じられないことこそ,最強が最強たる所以です.
1戦目は「しりとりツバメ返し」.「~だが~」でしりとり.
テーマは「思わず泣けてくる言葉」.「息子だが帰省したら女」からスタート.
相変わらずの速攻をかけるのはもちろん板尾永世竜王.でも「中村俊輔似の一人息子がいるのだが…昨日死んだ」と初手から殺すのは間違ってる(苦笑).じわじわと盛り上がって最終的に殺してしまうから受け入れられるのであって最初から殺してどうする.審査員もさすがに動揺したらしく,ここでいとうが手元のベルのガワを下にいる渡辺のところに落としてしまいました.…まさかこれが呪いのガワだとは(笑).ほっしゃんは「ダッチワイフを買ったのだが,京都製」と初心者らしい迷走.それは顔が京人形ってこと?それても任天堂? 呪いのガワを拾った渡辺は「異星人に会ったのだが,京都弁だった」と前の今ひとつの回答を継承してしかも中途半端.最初から一杯一杯の中田は「タキシードを着ていったのだが,全裸にさせられた」といかにも辛い状況を回答.1順して板尾,「田んぼに稲が実ったのだが,おばあさんがいなくなった」…審査員は稲がもったいない程度の洞察しかしてくれていませんが,彼の前の回答を考えると,このおばあさん,収穫を待たずに死んでるよね(苦笑)? ほっしゃんは「タートルネックを集めているのだが,俺はカメじゃない」と己のキャラを上手に生かした良い回答.こういう回答が出せるテーマは,回答者と相性がいいってこと.さて,呪いのガワを持った渡辺は「いいジャブを入れたのだが…殺してしまった」ととりあえず殺せば泣けてくる戦法.でも思わず泣かせるためのネタなんだから,おちゃめにおどけて見せるのは間違いだ.中田の「滝に3年間打たれたのだが,その帰りにAVを借りた」はしみじみと泣ける.煩悩の消し難さを示すこの良回答を継承した板尾は「滝に3年間打たれたのだが,4年目もそこにいる」とさらにテーマを深める.折角の良回答の印象を上塗りする.若手潰しはここまでやらなければ! ほっしゃんの「ルールブックをよく読んだのだが,グローブ忘れた」は肝心のものがない台無しの悲しさ.長考した渡辺は「タイタニックを見たのだが,沈まない」…それは別の映画じゃないのか? 中田は苦悩の末に「インドア派だが,帰る場所はどこにもない」としみじみとした悲しさで終了.
初戦はとんでもない大当たりは出ないながらも見所のある戦いとなりました.新人であるほっしゃんも中田もかなりの健闘を見せたと思いますが,呪いのガワを拾ってしまった渡辺が今ひとつ.そもそも悲しいネタをやるときにおどけるなんて,回答以前に間違ってます.
2戦目は「しりとりイマジネーション」.テーマのイメージでしりとり.
テーマは「サンタクロースのそりを引っ張るトナカイの一言」.
「スノーモービル」からスタート.
第1回答者の座を珍しく板尾竜王以外の名人が先取.ほっしゃんは例題を継承して「ルート変更!」.これも彼の妙な愛らしさが生きる相性の良いテーマのようです.続く渡辺も「後確認します!」と流れを継承するんだけど…ほっしゃんと違ってあんまり可愛くないのがな(苦笑).中田は「酢豚を優先的に配っていきます」と余程緊張しているのか凄い方向に迷走.確かに調理品は足が速いけど.板尾の「スノーモービルをこのうちにあげるの?」は例題継承なんだけど不思議と可愛い.そしてあげるくらいならサンタはそりから乗り換えるべきではないのか.ほっしゃんの「農家はもうええでしょ」はたぶんかなりの問題発言で審査員爆笑.差別しないでプレゼントあげてくださいよ! 渡辺の「4ヶ月前に出発はないでしょ!」…たぶん酢豚は腐るよね.そして中田の「夜中出発すると到着は朝になりますがいいんですか!」と妙にキレてる.サンタがまだ行きたくないとかごねているに違いない.板尾のトナカイは「鹿賀丈史さんの家は,今年も留守ですね」とストーキングの片棒を担ぐ.ほっしゃんのトナカイは「ネックレスて…」と関西弁でサンタのやることに文句つけまくり.渡辺のトナカイは「てゆーか,正月どうします?」と馴れ馴れしく.サンタも帰省するのかな? 中田のトナカイは「酢豚のパイナップルが袋に残っていたんですがどうしましょうか」と酢豚にこだわりすぎ.パイナップルくらいは喰っちゃっていいですよもう(苦笑).板尾の「鹿賀丈史さん帰ってきましたよ!」はどこまでも板尾トナカイのイメージで! 鹿賀が特別扱いされているのは,未だにサンタを信じているからだったらイイナ! 最後のほっしゃんトナカイの「よしんば喜んだとしてもですね!」もおかしい.結構いい年行ってるんだろうなぁ….
2戦とも大爆発の連鎖はないものの小当たりが多かった印象.2つ目のテーマのほうがやりやすかったかな.新人とは思えぬ堂々とした打ちっぷりをみせたほっしゃんといつも通りのマイペースな強さを見せた板尾竜王の印象が強く.中田は一杯一杯で渡辺はガワに呪われました(笑).結果.板尾11点,ほっしゃん12点でなんとほっしゃんが永世竜王を上回って勝利! ガワを拾って呪われた渡辺は9点と沈み,中田はこの厳しい相手の中で最後まで頑張っただけでも誉めてやりたい(苦笑).もう酢豚のことは忘れていいぞー.
Bブロック予選は藤原・山根・千原・有野.初登場の藤原はもちろんがちがち.それに比べると2回目の山根は前のときよりもやはり安定しています.激しい緊張を強いる舞台だからこそ場数を踏むことが重要なので,今後もぜひ新人に何度もこの舞台を踏ませていただきたい.でも,負けて見る楽しさはあんまり学ばない方がいいと思う(苦笑).ベテランでも安定した千原は腰のタグのちくちくを気にしてリラックス.有野は柄にもなく緊張していると新人をダシにして無駄にアピール.…でも,あんまり緊張していなくても口で散々言っているとやっぱり緊張してしまうものなので,アガリ症なら余計やめといたほうがいいと思います(笑).
1戦目は「しりとりツバメ返し」.「~だが~」でしりとり.
テーマは「スケールの小さな言葉」.「宝くじを買っただけだが眠れない」からスタート.
回答者によって適性が大きく分かれるこのテーマに対し,有野は「イゴール・ボブチャンチンが食事中だったのだが,タマネギをよけていた」と無難な手を打つ.新人の藤原は「大したことではないのだが,昨日泣いた」と早速思い切りずれてるな.大したことないことが何かをちゃんと説明しないと,テーマに合った回答にならない.千原の「たけしさんを見かけたのだが,2キロほど離れていた」は…よく2キロ先の人の顔が見分けられたなぁ(笑).このテーマに最も合致していそうな山根は「タイ人なのだがそれを隠したがる」と初答はややすべる.…なんか犯罪がらみでスケールでかそうな気もするし.有野の「留守中に泥棒に入った話をしたのだが,お母さんにおこられた」と無邪気に黒いけれど,本当にスケールのちっちゃい人間の場合は藤原の「たこ殴りにしてやろうと思うのだが,それは想像のお話」のように行動にも移せないものですよ.千原の「シースルーを着ているのだが,…いろいろ着てる」確かに(笑)!と審査員も共感を寄せる.しかしそれ以上の回答を出した山根の「ルームサービスが届いたのだが,怖くて,部屋を空けられない」.共感を通り越してなら頼むなと審査員を怒らせるなんて,素晴らしい! これに比べると有野の「胃カメラを飲む日だったのだが,怖くていけなかった」はいいんだけど弱い.藤原の「沢山の人に聞いてもらいたいのだが,俺は痔だ」については,沢山の人にわざわざ小さなことを聞いてもらう面白さをねらったのだろうけど,わかりにくい.それに比べれば千原の「だっふんだー!と言いたいのだが,だっふん…ぐらいで止まってしまう」は似たようなことを言っているのだけれどわかりやすい.最後を飾るのは山根の「うんこをしたあと,ウォシュレットしたのだが,すごい,拭く」…ちっちゃい!
これも小当たりが連発する展開となりましたが,中でも山根がいいと勝俣が賞賛.本人のスケールがちっちゃければ,そうでない人よりもちっちゃい言葉やちっちゃい状況をより多く考えつけるわけですね.苦し紛れでない回答を常に思いつくことができるというのは大変に有利なわけです.
2戦目は「しりとりイマジネーション」.テーマのイメージでしりとり.
テーマは「ロッキー10のサブタイトル」.「熟年離婚を乗り越えて」からスタート.
これは誰にとっても平等にやりやすいテーマ.千原の「手に職をつける」から飛ばしてくるぞ! つうか,もう手に職ついてるよね(笑).山根は対応しきれず「ルンメニゲ」と苦し紛れ.有野の「ゲロまみれロッキーの巻」は無邪気なんだけど弱い.そして藤原.「きっと,嫁は,エイドリアンだと思う」…やっぱりパンチが頭に来たか! 実際脳を頻繁に揺らすのは非常に危険なので,頭の怪我というのは本当に気をつけるべきです.千原の「打たれすぎたのか」はそんな前の回答を説明するもの.さっきの回答で崩れた山根は持ち直し,「勝ち負けにこだわらない!」ととんでもない手を打ってきた(笑)! やっぱり10ともなれば勝敗はどうでもよくなるものなのか.でも,それをサブタイトルにするのはどうだろう(苦笑).有野の「異種格闘技・ロッキー対手品師」に関しては,ロッキーが手品のタネにパンチを入れれば勝てると思います.藤原の「心配しないでください」…そんな風に言われるとあなたのことが余計心配になります.千原の「怒りの就職活動」は気の毒でおかしい.世の中殴り合いで解決することはそんなにないですからね.調子のいい山根はその勢いのままに「宇宙へ」! やっぱり宇宙人と闘うのか,それとも隕石でも壊すのか.そんな大スケールの映画を見せられたあとでは,有野の「屁が出ちゃった」はものたりない.藤原の「沢山の息子」は一体どんな事情でそれをサブタイトルに選んだのやら.千原の「こうなったらいつまでも」については10まで来ているので迷惑で,この迷惑ぶりを繊細に捉えた山根の「もう終わり!」は素晴らしい! あまりに長いシリーズは,やはり終わるべきですよ.有野の「リスと闘う」はたぶん1撃でクリアーなのですが動物愛護団体とのセカンドバトルが恐ろしい.最後,藤原の「うまい話に乗る」…生活大丈夫?
ついに出た大当たり! 審査員も視聴者もその愉快さに満足です.ロッキーは不満かもしれませんが….でも勝俣,「怒りのアフガン」はランボーでロッキーじゃないぞ(苦笑).2テーマともに対応ができた山根の風の掴みっぷりが素晴らしかったのと,後半だけなら千原の印象が良かったですね.結果,山根15点,千原9点で決勝進出! 有野と藤原はともに6点とふるいませんでした.全体を通すとちっちゃいという難しいテーマの前半にどこまで対応できたかが勝敗を分けた印象.そんなわけで折角の大一番に挑んだ有野が予選で敗退するという大番狂わせ.きっと,緊張してるとか自分で無駄に盛り上げてたせいだよなぁ…(苦笑).
以上予選で勝ち残ったのはAブロックほっしゃん・板尾,Bブロック山根・千原.この4人で本戦が行われたわけですが,その顛末については次のしりとり記事に続きます.
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