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機動警察パトレイバー#15

「未来は軽くて掴みどころなしの巻」

東京湾の大堤防の内側に,ザトウクジラが迷い込んだ.思わぬ珍客に人々もマスコミも竹芝桟橋で大フィーバー.世論は揃って救出方向へと流れ,政府も「ザトちゃん」を救うために海上保安庁を中心とした対策本部を設置.その末席にはなぜか第2小隊が座っていた.
対策本部の一員として,やじ馬の整理に当たる第2小隊.眼前の海上では海上保安庁の巡視艇がクジラを堤防の外へと追い立てようとするもあえなく失敗.その様子を見守っていた人一倍心優しいひろみは,クジラを救うための良い方法を思いつく.

10年未来の話のはずが,当時の風俗が随分と色濃く刻まれているのがおかしい「パトレイバー」.80年代の末,冷戦の末期に想像された近未来なので,バビロンプロジェクトのような世界観を作るために意図して設定された歴史以外にも,まだ本作内にはソ連があったり西と東があったりするのが,現在から見るとパラレルワールド風味.
ただし放映当時は平行世界ではなく,当時の現実の延長上にある近未来シミュレーションであったことは忘れてはならないでしょう.実際にその予測はちゃんと当たっているところも多くて,迷い込んだ動物にはフィーバーして「ちゃん」をつけるという習性は未だ維持されているのはご存知の通り(苦笑).空回りが笑える物語を軽妙に描くのは絵コンテ・演出の高松信司.驚くほどのやってることの軽さが素晴らしい.

前半.怪獣も出ず怪事件も起きず陰謀も巡らされていないごく普通の冬のある日.待つのが仕事な第2小隊はのんびりと朝の勤務をはじめております.深夜映画のゴンダムを見ていてやや寝坊した野明に太田が怒ってみたり,ひろみのクジラ写真を見てみたりと本当にのどか.クジラは冬は繁殖のために岸に近寄ってくるなどの豆知識兼伏線を披露しつつ,絶滅しかかったザトウクジラを一度見てみたい…などとやっているうちに,遊馬が出勤してきます.
最後に来たのに妙に態度がでかい遊馬.太田の小言なんか軽く受け流して早速テレビをつけたなら,東京湾にクジラがいる.今回の状況であるザトウクジラが東京湾の堤防の中に迷い込んできていたのです.…ここで言われる「堤防」は,干拓のために作られているもの.首都圏の用地問題を解決するための東京湾干拓計画.これが名高き「バビロンプロジェクト」なのです.
用心深いザトウクジラのはずなのに,人間満載の騒がしいところにやってきた「この子」.心優しい者ならば,なんとか助けてやりたいと思うのは当然のこと.その程度で国家が動いてられるかとか言うような心の貧しい奴は,日本ならばともかく,クジラ保護の本場であるアメリカでは周囲から総攻撃を食らうに違いない.待つのが仕事の警官として,派手な事件がないからと荒れる太田は警官向いてないなぁ(苦笑)!
日本人には,物見高くて熱しやすく冷めやすく,迷い込んだ動物には「ちゃん」をつけて呼ぶという根深い文化があります(笑).見物客で岸壁が芋洗いになったり可愛そうだと世論が動いて行ったりするのは,本当に今も昔も変わらなくてびっくりだ.そういや現実のあのアザラシって,今はどうしてるんだろう? 素朴な同情の集合はやがて市民活動へと変わり,愛護の本場からは外圧が加わり,デモや抗議行動が連日のように起こってマスコミが張りつきとなる頃には,動かないはずの政府も動かざるを得なくなります.海上保安庁を主観として作られたクジラ救出の対策本部には関係諸省庁を集め…ああ,省庁名が古いなぁ(苦笑).海上保安庁に消防庁に環境庁に水産省に外務省に…なんで特車隊が混じってるんだ?
わざわざ特車二課が呼ばれたのは,岸壁に集まるやじ馬の整理のため.この件については警視庁内でどうでもいい仕事と判断され,第2小隊に回されてきたに違いない.とはいえ屋台まで出て大騒ぎとなっている岸壁を整理するのは地味だけど大切な仕事.観光気分で遊んじゃダメ(笑).…そう.ただの警備も立派な仕事.ダレて海上を見る自分たちの前を颯爽と走って行く海上保安庁の船を「かあっこいい」なんて言ってる場合じゃないのです.言った自分が悲しくなるってのも確かにあるけれど(苦笑)役割は役割なんだから,しっかり割り切っていかなくちゃ.
今回出動する海上保安庁の巡視艇は,はつしお,うずしお,ごましお,しおしお…後2つに名前つけた奴ちょっと来い.様々なものが途方もなく軽かったバブル末期をさらに軽くしたような空想の近未来では,ニュースすらも実に軽薄.コミック版でも見られた事件をクイズにするような扱いは,さすがに現実の未来では見られませんが(苦笑)ニュースもどきのバラエティだと似たようなことしてますね.海上保安庁のクジラ追い出し作戦は,複数艇で目標を追い立てるという至極当たり前で面白味のないもの.とはいえ沢山の船がヘリを従えて作戦行動に勤しむのは,陸上で邪魔者扱いされてる第2小隊よりはずっとかっこいい.
それに比べて第2小隊は実にかっこ悪い.黒山の人だかりから邪魔者扱いされてキレそうになりながらも,納税者だからとぎりぎりを必死で耐える太田.しかし「税金泥棒!」と小船のマルクス号に挑発された段階でもう限界.だって相手は思想犯だし(笑)! …東側があった頃はあの手の連中も相当元気だったけど,今や大国は資本主義に下ってしまって支局を減らすことになったり大変そうですな.
彼なりに必死に我慢していたのがついにキレてしまった太田.リボルバーカノンを抜いただけでも立派に不祥事なんですが,あわててひろみが射線付近で制止するのも無視して顔を真っ赤にして発砲! さすがは太田,不祥事起こさせたら彼の右に出る奴はいない(苦笑).ひろみもマルクス号の乗組員も死ななくてすんでよかったなぁ.
ごく簡単な警備業務すら耐えられない太田のおかげで,監督役の香貫花と制止できなかったひろみも巻き添えを食らって始末書を書かされることに.隊長が3人の顔に始末書貼り付けてくるところがこれまた軽い(笑).明日までの宿題を顔に喰らって前が見えないまま退出する3人が実にシュール.中でもひろみはただ巻き込まれただけなのでほんと可哀想….ひょいと始末書を上げて話をし,終わったら降ろして退出するあたりも愉快だよなぁ.
ちなみに始末書3枚になった例の作戦なんですが,結局クジラは船をかわしてしまって失敗に終わっております.けれど汚れている海で,しかも静かな夜すら人間どもに邪魔されてゆっくり眠ることもできないような状況が続くなら,クジラは早晩のうちに弱って死んでしまいに違いない….心優しいひろみは薄暮の朝から海を見守りながら,もっといい方法を考えていて,汽笛を聞いて名案を思いつく.これまた実にベタなんですが,ひろみちゃんがうれしそうだから,まあいいか.

後半.ひろみの思いついた名案は後藤経由で海上保安庁の上層部まであっさりと到達.実際は凄くベタな手段なので,別の専門家からも似た提案を同時に受けていたに違いない.早速海上保安庁所有の海中作業用レイバー・シービューが導入されて新作戦開始.同種のクジラの声をレイバーのスピーカーで海中に流すことにより,迷子クジラを湾の外へと誘導するという作戦は見事に当たり,クジラはレイバーを追い堤防の外へと帰っていく.…沈む夕焼けの中でのベタなハッピーエンド.でも,この程度のお安い感動で終わるような作品はちっとも面白くないってのは,今も昔も変わりません(苦笑).
折角いい感じに完結した…はずなのに,翌日には連れ出したはずのクジラが戻ってきちゃったために世論が見事に逆向きに.一度愛護の方向に激しく揺れた反動で批判も相当厳しくて,こんなのは税金の無駄遣いだとかトーク番組で両論が論じられたりとか国会でも無駄として取り上げられたりとか.…これが制作された当時には,まさか21世紀に入ってもまだ「朝生」が継続しているとは思っていなかったはずだ絶対に(苦笑).
ついには全然解決してないのに一方的に対策本部も解散.あまりのクジラバッシングの激しさに,「これってやっぱり,安っぽい哀れみに過ぎないのかなぁ」と自分の善意にすら自信がなくなってしまったひろみが可哀想.もちろん素朴な善意に罪なんかないはずだけど,なんで人間はひとまとめにしていいとか悪いとか考えるのかなぁ….
それから7日後,熱しやすく冷めやすい国民性によってすっかり忘れられていたクジラ.けれどあれが岸を離れなかった理由がようやく明らかに.物好きにも東京湾で出産してたんですね.新メンバーの加入によってブームは再燃.もう一度救出作戦が企画されたのは喜ぶべきなんでしょうが…まさかその中心に門外漢の第2小隊が据えられようとは(笑).
オチこぼれの寄せ集めのはみだしもの,金食い虫の無駄飯喰らい.第2小隊の悪名が天下に轟いているからこそ,なんか失敗しそうな計画だって任せることができる…って政府的には本気で助けるつもりはないのか.第2小隊の仕事の種類として,どうでもいい仕事に加えて絶対失敗しそうな仕事もレパートリーに入ったのは,仕事と物語に幅を持たせる役には立ってるけれど,組織としての評価は絶対下がるな.しかし,頼まれて引き受けたならば完遂せねばなりません.世論や体面のためではなく,何よりもクジラのために!
海上保安庁が廃棄した博物館ものの海中用レイバーを特車2課整備班がきっちり整備.通信技術と引き換えにロボット工学と防水技術(笑)が異様に発達したこの近未来だからこそ可能な芸当です.しかもこの作戦に挑むのは,イングラムには搭乗できないことでおなじみのひろみ.大喜びで小さくなってコックピットにおさまり,危険な任務に挑みます.
水上には高速艇,頭上にはヘリ.その光景は数日前の対策本部に比べたら大変ちゃちですが,本人たちは必死なんだから笑っちゃいけません.子どもを生んで気が荒くなった母クジラの方へ音を出しながら接近し,堤防の向こうに誘導しようとするも,気の荒い母クジラはひろみのレイバーに向かってきて大変! あの巨体相手ではボロレイバーなど相手にならない.吹っ飛ばされてさあ大変! …しかしこの世界は本当に防水技術が素晴らしい.あの衝撃を受けながらも漏水なしでスピーカーが壊れただけって,本当にすごいや!
スピーカーを失ってクジラを誘導するための手段を失ったひろみ.これはもう出直しするしかないと諦めようとした彼らの耳に響いてきたのは,本物の声.…沖にもう1頭のクジラがやってきた! 母子を守る雄のエスコート役のクジラが登場して,なし崩しに事態はすっきり解決.2頭と1頭は合流した上,仲良く堤防の外へと戻っていって,第2小隊は見事に置き去り.状況は勝手に解決しちゃって,我らが主役たちは完全に放置されてしまったのでありました(苦笑).
「俺たち一体何やってたんだろう?」というラストの遊馬の嘆きが示す通り,どこまでも軽く軽く空回りして何もできずに終わった今回.でも,クジラは助かったから別にこれでいいんだよな,きっと(笑).特に固定した主役を持たない本作の中でも主役不在という異色な今回.全然報われない話でも不思議と後味がいいのは,これはもう演出の軽さの勝利に違いないとか思いつつ,次回に続きます.

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