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桜蘭高校ホスト部#20

「結局ふたりで寂しいだけでの巻」

中等部時代の光と馨は現在よりもずっと性質が悪くて,2人きりの世界に閉じこもったまま,人の心をおもちゃにして遊ぶような悪魔たちだった.彼らが幼い頃からこだわってきたのは「どっちが光くんでしょうかゲーム」.もちろんあまりに似すぎた双子を見分けることが出来る者は,今まで一人もいなかった.
そんな2人きりの世界に踏み込んできたのが,中等部時代の環.能天気な笑顔で双子をホスト部へと勧誘する彼に,双子はいつものゲームを仕掛ける.なんとか見分けようとつきまとう環は二人にとっては目新しいおかしなおもちゃ.けれどそれにも,飽きがくる.

一応少女マンガ原作なのに明後日の方向へはっちゃけることが圧倒的に多い「ホスト部」だけど,今回はきちんとシリアス! 双子のうちでもまともな馨を語り手として,これまでに彼らが越えて来た高いハードルについて描きます.ハニー先輩の勧誘話で一応描かれていた通り,環は現状を認めることに大変に肯定的.無理や背伸びをしない自然体をそのまま受け入れるべきという信条が,双子たちが堂々巡りの矛盾の中から救われることへと繋がっていきます.
時折面白を挟みながらも回想交じりに描かれる世界は実に叙情的で美しく…さすが絵コンテに京田監督が入っているだけのことはあるなぁ(笑)! 作画監督の本橋氏の美麗な仕事や演出の中村氏の女性らしい繊細な雰囲気と相まって,素材である原作が緊密に再構成され,凄まじい昇華を遂げてます.原作にあった笑いはほとんど削り取られていますが,削って磨いた末に完成したのがこんな美しいものでは文句も言えない(苦笑)情感描写に関してはこれまで放映されてきた中でも屈指の回です!

前半.常陸院の双子は幼い頃からまるでそっくり.誰も彼らを見分けることができないまま中等部の2年まで来てしまいました.その世界は自分たちとそれ以外の全てに分かれていて,しかも一緒にいる相手は自身の影のようにそっくりで…2人ではあるけれど実質ひとりぼっちみたいな閉じた世界です.
この双子,顔もいいし頭もいいし普通なら絶対人気者になったに違いないんですが,生来の性格としてわがままで移り気で底意地が悪い.どれくらい悪いかというと自分にラブレターをくれた女の子を罠にかけて泣かせるほどの悪魔ぶり.光なのに「馨の方」と嘘をつき,馨として彼女を誘惑した上,彼女が乗り換えた瞬間に真相を暴露して切り捨てる.他人の恋心なんか区別されない自分たちの苦しみに比べれば軽いものだと自分たち勝手にも程がある.…しかも一緒にされた瞬間に一瞬失望を見せるだなんて,彼ら自身も自分たちが一体何をしたいのかよくわかってないんじゃあるまいか.
女の子の心を踏みにじり,髪型も似合わないセンスを磨けと難癖つけて追い討ちをかけ,「次はもっと面白い告白してね!」とラブレターを破り捨てる性悪の双子.そしてあまりにもひどい仕打ちに泣き崩れる女の子に優しくハンカチを差し出すのが,まだ中等部であった頃の環.もちろんまだホスト部は誕生していませんが,この頃からすっかり王子キャラは板についていたようです.
自習の教室の黒板には白チョークで「自分の未来の役割を考えよ」とか書いてありますが,つまらないことはさっさと消去という方針のみでやりたいこともやるべきことも見つかっていない双子はダレてます.刺々しくて怖い彼らの周囲には陰口と打算しかなく,好きで欲しいものなんか影も形もないのです.
そんな二人にも,自分たち以外のものを欲しくなった経験はありました.でも唯一好きになったのが金庫目当てで潜入して来たお姉さんってのが,これまた歪んでいるよなぁ…(苦笑).10年前からそっくりで毒舌でいたずら好きで残酷だった2人を無理に可愛がることも愛想笑いすることもなく,恐らくはごく普通に接してくれたお姉さんが2人はすっかりお気に入り.…愛想笑いが日常となる環境は,恵まれているゆえの不幸って奴か.
双子に気に入られることではなく,家の金庫を狙ってたお姉さん.犯行現場を見つけた双子は暗証番号と引き換えに彼女にゲームを仕掛けます.「どっちが光くんでしょうかゲーム!」…見分けられるまでは彼女を自分たちに縛り付けることができるはずのこのゲームだけれど…2人はまだ幼くて浅墓で.大人であり犯罪者であったお姉さんは,ゲームから逃げて貯金箱を割りました.
双子にとってお姉さんは特別.けれどお姉さんにとっては双子なんかどうでもよかった.双子がどうでもいい相手を傷つけてきたように,お姉さんもゲームを放棄しあっさり白旗振るだけでなく,去り際に呪いをかけていきます.「もしかしたらあんたらを本当に見分ける奴なんて,一生現れないかもね」…はじめて好きになった人に未来を絶望させる言葉を植えつけられた上で,双子はねじれて成長していきました.…この部分は原作ではもっと軽いエピソードだけれど,よりシリアス目に描かれてますね.
2人きりで伸び伸びとひねて育った10年後.呪いのようなトラウマのおかげで他人不信バリアを張りまくって荒れる双子に鈍い奴…というか無謀なバカが近づいてきました.暇そうだねとやってきた,後のホスト部部長で愛すべきバカの須王環.「一緒に部を立ち上げよう!」と爽やかに本題を切り出します.話題になる自分にうっとりし,白昼堂々もだえて夢想するナルバカは当時から相当うざく,しかも「俺には及ばんが見所があるぞ!」と話を聞かずに話を進めるという芸風も2年前には完成してたのか….4月から楽しい部活動をやろうと全力で勧誘する環に対し,双子は「うるさいな,どっか行ってよ!」
仲間面して自分たちに近づく奴は大嫌いな双子.そもそもつまらない他人には興味もないし,環のナルっぷりときたらもう迷惑以外の何者でもなく,彼が自分たちを誘う理由も家柄強化の打算にしか思えず.そこで双子が提案するのがおなじみの「どっちが光くんでしょうかゲーム!」1ヶ月以内に理由つきで2人を見分ければ勝ち,できなければ負け.超高難度かつ無敗のゲームなら負けるか諦めるかの選択肢しかないだろうと双子はせせら笑うけど,この程度の障害でくじけるような奴のことをバカとは呼びません(笑).バカはゲームに乗った上でなおかつ「だが俺は予言するぞ! 4月にお前たちは,高等部第3音楽室の扉を…きっと開く!」
ひねくれた双子と純真バカな環のゲーム.環にとっては期間内に見分けるゲームなんだけど,それは同時に双子にとっては,バカなナルにつきまとわれる我慢勝負となりました.下級生のクラスにずけずけと踏み込んで思いっきり間違えた上に,「俺は発見したぞ!」と本当にどうでもいいことをうれしそうに発見する上級生はうざい.…低音パートを担当しているのは光だよな(笑).さらには勝手に双子の予定まで決めやがるもんだから,ついには環を置き去りにしてしまう双子.
…ここで双子抜きの環と鏡夜だけのシーンが挟み込まれます.馨のモノローグが外れて話中の統一感が一瞬失われますが,描かれるものが今回だけでなく面白楽しい本作全体からしても外れていて,しかも大変重要なシーンなので大正解.これがあるからこそラストとか次回以降に効いてくる面もあるので,大変に上手いです….
置き去りにされた環は3年の教室へと帰還.普通の奴なら当然なんだけど,環が地味にへこんでるのがとても珍しい.いつもはもっと思いっきりべっこりいってるもんな.鏡夜は別に双子にこだわりはないけれど,環は「あの2人に興味があるんだ!」とひどく御執心.常陸院の双子は環が言うところの「俺たちの仲間」らしくて…どうやら環は彼なりの考え方があった上でホスト部員を選んでいたようです.彼は同時期に無理をしていたハニー先輩を勧誘しているはずですが,見分けて欲しくない癖に見分けるゲームを仕掛けてくる双子についてもやっぱり無理を感じているのか.…傍らで,環の言葉を完全に受け流す人間失格の鏡夜がいいなぁ(笑).
環は絶対くじけない.勝手に帰られる前に自ら常陸院家に押しかけ,やっぱり間違った上に間違ったアドバイスをぶつけ失礼な提案をするこの上級生は,朝から地獄のようにうざい.「兄弟愛を売りにしたらどうだろう!」とか「ちょっと危ないシンメトリー兄弟愛,常陸院ブラザーズ!」とか「これでどうだ!」とか言われても(苦笑)! …そして,イカれた提案を嬉々として押し付ける当時の環もおかしいですが,それを結局は受け入れちゃった後の双子もどうかと思うのです(笑).
やることなすことバカ満開,置き去りにすれば「待てい!」とか言い出す環はこれまで双子の傍にいた人間と質が違いすぎ.面白いものが好きだから,そのダメ方向の魅力には心惹かれる.王子顔の癖に殿様喋りでそのうちござるとか言い出しそうな「バカ殿だ!」.…空想の中のバカ殿環が異様に似合っていて素晴らしいなぁ(苦笑).…けれど双子は矛盾していて,近寄られるほど惹かれるほど離れたくなって…「でもさ,そろそろ,飽きたよね」

後半.双子はいきなり環を切り捨てにかかります.向こうが諦める前にこちらから一方的に終わりを通知して,「理事長の本妻の子じゃないんだってね!」とさらに痛そうな追い討ちをかける.近寄るなという意志を弱みを突いた脅迫へと変化させる2人は悪魔.…母が行方不明という似合わない重い背景を背負っていた環を「結局ひとりで寂しいだけなんだろう?」といたぶって,一人よりも二人のほうがマシと止めを刺す.…無神経すぎる双子の言葉に何も言い返さない環.でもその表情は,打ちひしがれた風ではありません.
これだけやれば終わりだと思っている双子.環の面白さには未練もあるようですが,がっかりさせられるのはゴメンなのでこれでいい.…一緒にいれば自分たちが環に期待してしまうこと,そしてそれが失望に終わることも知っているから,臆病者たちは自分たちで切ることを決めてしまったわけです.お姉さんが残した未来予測は絶対なので,どれほど見分けて欲しくても無理ならば,もういっそ見分けさせたくない.
ふたりなのにひとりの矛盾を抱える光と馨が本当に必要としているのは,2人をそれぞれ別の人間として自然に受け入れてくれる存在のはず.けれど意地っ張りでひねた光にもつい引きずられる馨にもそれを見つける術がなく…だから仕方なくどこまでも2人きり.「傷つかないですむように,とてもとても頑丈な鍵をかけている」.
見分けて欲しくて見分けて欲しくない双子は,今日も好意に罠をかけます.自分たちの苦しみを女の子の心を踏みにじることで軽くしようとしているんだろうけれど,罵倒する言葉に自分たちの苦しみが増幅されるばかり.どっちでもいいのはどっちもいらないってことだとか,言えば言うほど苦しいばかりで….どうすればいいかわからない双子の自家中毒.本当にひどいのは誰でもなくきっと彼ら自身.そして! 「今手紙を破こうとしているのが光!」
自分たちを守るために切り捨てたはずの環がなぜか傍にいて,間違いなく光の方をかっこよく指さす! ただし理由は「勘だ!」なのでダメなんだけど(笑).「今んとこ俺には無理だ!」と負けた環はちっとも悪びれることはなく白旗を挙げますが,そっくりすぎるのはもはや才能なんだから二人で一人な常陸院ブラザーズを極めていけと道を示し,けれど別個の存在だから俺も頑張って二人を見分けられるように努力するからと自分の道も宣言します.…2人を置き去りにはしないのです.
2人で1人でありかつそれぞれ別個の存在.環の言葉が矛盾してるのは間違いないけれど,それでも環は悪びれない.それは普通とは明らかに違うし矛盾しているけれど,それが光と馨なんだから仕方がない.生まれながらに普通でないのが普通になるためにあがくのは空しい努力.だからそのまま全てを飲み込む.「個性って言うんだよ,そういうのは!」
あまりにもそっくりで見分けてもらえないのは不幸ではなく個性.そう考えると双子は「不幸」ではなくなるけれど…生まれてこのかた甘い不幸に慣れてきた二人には,それを失うことは恐ろしい.そっくりな兄弟がいるせいで誰も見分けることができない.自分たちと同じ目でこの世界を見てくれる人などいない.そんなの最初からわかってると諦めを叫ぶ馨に.そして光に.
「…だったら外したとき,なんでいっつも,さみしそうな顔をする?」
思い出すのは幼い頃.例のゲームを仕掛けて勝ったはずなのに,彼女は「泣かないでね」と言いました.泣きそうな2人は勝てば勝つほど悲しくなるばかりの矛盾した不幸の内側にいたから,環は二人の腕を引きます.不幸な勝利を覚悟の上で二人だけの世界を飛び出せば,幸せな敗北を手に入れる万に一つの可能性があるかもしれない.けれど勝負から逃げていては永遠に出会えないから…「一緒にホスト部の扉を開こうじゃないか!」
意外と不幸な王子様は晴れ晴れと「一緒に世界を広げてみよう!」と誘います.勝ち続けるほどに悲しく,2人なのに1人より寂しく,自分たちを守るために自分たちを傷つける矛盾した2人だからこそ,今の自分には無理だけれど一緒に探してみようという環の誤りは大正解.個性としての矛盾を上手に汲み取った,青空みたいに気持ちがよくて感動的な,そんな敗北宣言だったのです.

1ヵ月後の始業式の放課後.勝った双子は罰ゲームへと赴いていました.例のゲームではこの先も勝利を収めまくるに決まってるけれど,そんな不幸な個性を越えてくる奇跡があるかもしれない.…不幸を個性とすりかえる詭弁の世界に,呪いを打ち砕く可能性が眠る扉の向こうに,自ら足を踏み入れます.
そして彼らに1年後何が起きたのかについては皆様もご承知のとおり.バカ殿と怖い眼鏡と甘いもの魔人と極度の無口という,個性的で滅茶苦茶な仲間たちと一緒に夢あるいは悪夢みたいな日々を繰り広げた末,ついには奇跡に出会うことになるわけですが…わがままで移り気で底意地が悪くて矛盾している二人だからこそ,救ってくれた大恩人は全力で虐げてしまうんだろうなぁ(笑).さらに双子を掘り下げる次回に続きます.

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