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桜蘭高校ホスト部#26

「醒めないで華やかな夢の巻」

公開営業で保護者の皆様に楽しんでいただき,自分たちも最高に楽しむはずだった学園祭.しかし環は祖母が連れて来たエクレールのため,ホスト部に戻ることができなくなってしまった.環をホスト部から引き剥がすためならばあらゆる手段を取るエクレールは,ハルヒの借金を返し環の携帯を水槽に沈める.環自身も,自分の母を須王の家から許してもらうためならば,ただでも部員達に迷惑をかけているホスト部を続けるつもりもない.…けれど仲間たちは皆,このバカなホスト部とバカな環のことが好きだった.この部を続けるためならば,どんな妨害も越えて真っ直ぐに彼へと走っていく!

抜群の品質のままとうとう最後まで走りきり,文句なしに傑作としての評価を手にすることになった「ホスト部」.終わってみれば敷居が高かったのはタイトルだけで,それ以外は全ての面で万人受けする作品というのも深夜帯では滅多にないんじゃないかと思います.
もっと適当に手を抜くことも,あるいはもっと下品に暴走させることも可能だったこの作品を,ゴールデンタイムの放映にすら耐えられる健全な娯楽作品に仕上げてしまったのは,間違いなく生真面目な五十嵐監督神の節制の賜物.作品のオリジナリティを表面的な形式ではなく容赦ないまでの質の高さで示すというのは,そう滅多にできることじゃありません.…原作や原案が既についていて,あとはエピソードに集中すればいいときの五十嵐監督神は本当に最高だ!

前半.前夜祭の夕方,部に走った大激震で朝食が喉を通らなくなっても,それでも本祭はやってくる.エクレール嬢にいきなり殿を持っていかれながらも,午後3時の中央棟サロンでは一般公開営業が続けられておりますが…そこに再びやってきたのが雷鳴の如きエクレール嬢.オペラグラスの向こうから鏡夜に嫌みをぶつけてみたりと本日も敵意満載です.しかも彼女の今日の狙いは誰あろうハルヒさん.ホスト部の機密にすら通じている彼女は,環の執心の中心を除いてしまおうとするのです.
青い瞳の美しいエクレール嬢に指名されたハルヒ.演技が苦手な大根役者が,部を壊そうとするエクレールに愛想のよい接客などできるはずもなく,かわいがられてたみたいねと過去形で挑発されたら「焼きもちですか」と対抗.女性同士の鍔迫り合いは火花散り,「環は来ないわよ」とエクレールが宣言したって,ハルヒは怖じ気もなく大きな瞳で射すくめるように彼女を見るばかり.欠片だって納得も諦めもできないのです.
環が作ったホスト部が気に入っている仲間達にとっては,環の解散宣言や不在は到底納得できるものではなく,…けれどここに至ってもクールな鏡夜は,「ホスト部を楽しみに来てくれたお客様に,出来る限りのおもてなしをする.それが今一番大切なことだ」と一同を散らせます.実は今彼自身も相当大変なことになってるんですが,そこは一切表に出さないのがとても彼らしい.
そう.鏡夜のポーカーフェイスは本当に筋金入りで,エクレール嬢との激しい戦いを終えたハルヒに,今の接客で借金が消えたと宣言するときすら平静.彼女の支払いでノルマを達成したから借金なし.「もういつでもホストをやめていいんだぞ」と,よりによってこんなときに突き放す.ハルヒがこの部に席を置く意義は借金.その鎖は今断ち切られたわけですが…いきなり自由に歩けるようになっても,行くべき方向がわからない.
けれど,たとえ戸惑っても混乱しても彼女はやはり藤岡ハルヒで,真っすぐだから誤りを受け入れることはできません.またもやってきた鏡夜の父が「価値のないことで,時間を無駄にするんじゃない」と自分の息子をなじるのを見て,ハルヒは自分を思い出します.本来は勉学のために入ったこの学校.けれどあのくだらない日々は本当に無駄だったのか?
ざっくりとした彼女が考えた娯楽産業に対する1つの考察.それは同時に,作り手のエンターテイメントに対する真摯な意見そのもの.「皆を楽しませることによって,自分たちも豊かな気持ちになります.皆を楽しませることは,そんなに価値のないことなんですか」.…たとえ最初は強制的に引き込まれたのだとしても今はそう信じるに至り,だからこそ迷いもなく「鏡夜先輩は立派だと思います」と堂々とそれを宣言し,あのポーカーフェイスを驚かせるわけです.
さてその頃,娯楽の権化である環を愛する父は,自分の大事な孫に刺客を送り込んだ祖母と語り合っておりました.グラントネールとの姻戚関係は祖母の勝手なごり押しで,しかも「あの子は須王の家に逆らったりできない」と居丈高.けれど父が息子を見る限り,環は須王の家に興味なんかなかった.実際に中等部の頃から,須王の後継者の地位は環の前にある無数の選択肢の1つに過ぎず,何の強制力もなかったはず.
けれど環が今回祖母に従ったのは,エクレール嬢と婚約すれば母親と会わせてやってもいいと言ったから.自身の孫やその母を駒扱いするひどいことをさらりと言って,その上で「お前の人生の不始末を,お前の息子に償わせてるだけです」と間接的に,しかし手酷く息子に当たる祖母.彼女の行動はあまりにも大人気なくて…なぜ彼女はここまで曲がってしまったんだろう.
これまでの午後3時は,環が王でいられた素晴らしい夢の時間.けれど今日の午後3時はエクレール嬢こそが女王.哀れな王にピアノを弾かせて閉じ込めて,「未練が残るでしょ」と仲間と彼を繋ぐ携帯を水に沈める.そこまで徹底した上に事を急ぐのは,彼女を射抜くように見たハルヒに脅威を感じたからに違いない.「恋人じゃありませんが,関係ない人なんかじゃありません」と言い切ったハルヒ.恋人ならばまだ簡単.恋は互いの心が必要だから,環さえ切り離せばいずれは消えてしまう.けれど,片方からの一方的な思いで結ばれる関係を切ることはひどく難しい….
閉じ込める彼女と閉じ込められた彼のところに鏡夜の父がやってきたので,「鏡夜をホスト部に誘ったのは俺です」と早速謝罪し,閉じ込められても切り離されても依然ホスト部部長としての責任を果たす環.その心はちっともホスト部から離れていないので,エクレールは鏡夜の父の弱みを使ってもう一押しを画策します.グラントネールからの買収のの淵にある鳳の医療機器会社.それは鏡夜に譲られるかもしれなかった会社で…ってことは,鏡夜は既に中等部の頃欲しくてたまらなかった,後継者候補としての地位を手に入れていたのか.
物語が大きく動き出すのは午後3時をとうに過ぎた夕方.今日が最後の活動になるかもしれないけれど,ホスト部はパレードの準備に余念なし.中でもハルヒさんは豪華なドレスで…これは女装? それとも本来の姿? でもここまでやっちゃうとさすがにバレるんじゃないかなぁ(苦笑).環がやりたがっていたイベントだからこそ,鏡夜は彼の携帯に連絡するも返事なし.けれど諦めずに須王第二邸に電話をかけたのは素晴らしい判断!
環の味方であるシマさんは,彼が急にフランスに発つことになったことをすぐに教えてくれました.とことんバカで純真で,他人の幸せのために本気で動いてきた環.例に漏れず今回の行動も人を幸せにするための行動のつもりなんですが…これがもし母を幸せにするという理由だけなら,仲間は黙って見送るしかなかったかもしれない.けれどもう1つの理由が大間違い! 桜蘭にいても自分のわがままで仲間に迷惑をかけるだけという環の思い込みに「あのバカが!」と嘆じる鏡夜.奴は純真で心優しく楽しい奴なんですが…本当にバカだったのです.
このままでは環はフランスに行ってしまう.それは終わらないはずだったホスト部の夢の世界の終焉だから,全員が驚き悲しみ憤ります.しかもバカがフランスに行く理由の半分は勘違い.そして残りの半分についても,きっと彼の母はそれを喜ばないだろうと予測が可能.…これまでは皆と一緒にいたからすぐに誤りを直してもらえたものの,今のように一人きり切り離されたらやっぱり間違いまくるバカ.ホスト部に王が必要なのと同じくらい,バカにも賢い仲間は必要なのです.
夕暮れの午後5時半.桜蘭祭が終わるのと同時に旅立つという環.まさに今赤いオープンカーでフランスへと連れ去られる彼の姿が….このまま去られたら全ての夢の終わり.けれど,今ならばまだ追いつけるかもしれない! 「行くぞ!」という声にはっとするハルヒ.ホスト部の一員として,彼女には可愛らしい格好で呆然と座っている暇などないから…終わりへと向かう疾走がはじまります!

後半.時計は5時45分を過ぎて日没も間近.環に追いつくために鏡夜たちは駐車場の車に寄るわけですが,そこには既にエクレール嬢の手が回っておりました.これまでは鏡夜の手駒としておなじみだった鳳のプライベートポリスが今回は敵に回るわけですがしかし!ホスト部の人材の凄さを舐めちゃいけない(笑).軍すら壊滅させるという埴之塚とそれに付き従う実力者の銛之塚.反則レベルで強いこの二人をプライベートポリス程度が止められるはずがない!
3年生たちが時間を稼いでくれる間に,1年生たちは今日のパレード用の馬車で環を追いかけることに.急激に変わる状況に流されるままのハルヒを連れて,双子は環の残した馬車を駆ります.…「あのバカを頼む」と伝言してハルヒの背中を押した鏡夜.自分は同行せずに任せるあたり,ハルヒさんなら環のことをきっと連れ戻してくれると信頼しているんでしょうね.
大暴れの先輩方を置き去りにして飛び出していく馬車.「ちゃんと手加減しろよ!」と吼えるハニー先輩は大変に男らしく(笑)直後に武装したプライベートポリスをあっさり沈静化する凄い実力と合わせて,武門の名家である埴之塚の後継者に相応しい.一時はその立場と自分のキャラのギャップに苦しんだ彼ですが,自然体の日々の中で彼なりの男らしさが見えてきたようです.…「桜蘭ホスト部をなめるなよ,お前ら」と爽やかな鏡夜.この部を一番誇りに思っているのは,この部を知り尽くしている彼かもしれません.
環を追って日没の桜蘭を疾走する馬車.光は殿を取り戻すため,無茶を承知で飛ばします! 彼らにとって,殿は二人きりで孤独な世界の扉を開いてくれた大恩人.あのとき殿が意地悪で排他的な双子にとことん喰らいついてくれたからこそ,今の楽しい日々があるのです.もしホスト部がなかったら,自分たち以外の人間と触れ合うこともなかったし,二人を見分ける奇跡に出会うこともなかったはずで…「そのホスト部が,こんないきなり終わっちゃうなんて! 僕は絶対嫌だ!」…今やそれぞれ別の道を歩き始めた双子にとって,ホスト部は当初の役目を終えつつあるわけですが,それとこれとは話が別!
けれど逸る気持ちは行き過ぎて,馬を跳ねさせ御者を馬車から落としてしまう.夜の夢を走る馬車は魔法が解ければかぼちゃに戻る.かぼちゃ畑の真ん中で夢は破れかけで泥だらけ.けれど即席の御者が動けなくなってしまっては,もはや夢は追うこともできないのか? 「僕達,本当にこんな風に終わっちゃうのか? 殿…」…かけがえのない大切なものを見失ってもはや戻らない.そんな悲しみをハルヒはとてもよく知っている.
食事が喉を通らなくなるくらい,大切なものを失うことは辛い.今朝父に心配されたときから,喪失の苦しみにハルヒの体は正直に反応していました.母を失うのに似た痛みに静かにもがく娘のことを,父はこう言って励まします.世の中には,頑張ってもどうにもならないことは一杯あるけれど…「だからこそ,頑張らなきゃいけないときは,躊躇ったりしちゃだめなのよ」…頑張ってどうにかなるのなら,自分が何者だろうと頑張らねばならない時がある!
そもそも本作の主人公は,豪華な衣装を身に纏って状況に流されるようなヤワな奴じゃない.何でもできる腕とどこにでも行ける足を持つ真っ直ぐに自立した人間.己のやるべきことに気づいたハルヒは,吹いて来た風の中,厳しい顔で長髪のカツラを取り,動きにくいドレスも脱ぎ捨てます.短い髪の,飾り気のないシンプルなペチコートを着た,細い体の少女は馬車の手綱を握る.それがどれほど怖くても,求めて走らねばならない時が来た!
流れ出すエンディングテーマの「疾走」.その曲の勢いに乗って,双子を置き去りにして一人馬車を駆り爆走するハルヒ! ショートカットを駆け抜ける彼女の前には夕暮れの海と道.海岸沿いの道を走る車の中には,この状況でもなお「会ったばかりの男と婚約するだなんて,本当に平気なのか」とエクレール嬢を心配する凄いバカの姿が! ハルヒの馬車はさらにスピードを上げ,道へと飛び出しなおも追う.背後から凛々しく迫る彼女は何も恐れない.環に馬車を止めろと言われてももう止まらない! 「先輩,戻ってきてください!」
走る道は橋の上へ.美しい夕景や同乗者の存在などそっちのけにしてオープンカーと馬車の間で交わされるバカと彼女の会話.託されて走ってきた彼女が伝える仲間の気持ちは…「みんな先輩に行ってほしくないんです!」「けど,皆ホスト部で,迷惑してるって…」「先輩はほんとにバカです! 大馬鹿です! こんなに長く付き合っていて,冗談か本気かもわからないんですか!」
…バカは本当にバカだから,言われなければ気づかない.けれど彼を動かしてきた動機の半分が存在しないことは間違いないことがここでわかって,置いてきたはずの夢が急激に環を引き戻しはじめます.しかもハルヒまで「自分も,ホスト部が好きです!」と叫んで手を差し伸べる.…環が作ったホスト部は彼の分身のようなもの.それを好きと言われる誘惑にぐらつかない奴などいない.車には母の幸せがあり馬車には仲間との喜びがあって,引きずられる環は馬車へと手を伸ばし…その手をすがる目で止めるエクレール.その選択が一人の女性を不幸にすると彼女は強く信じていて…

手を伸ばしてくれていたハルヒはついにバランスを崩し,海へと落ちる.

環を手に入れるため全てを尽くしたわけですが,ハルヒに命までかけられてはもはやエクレールにも止めることはできない.彼女なりに彼とその母のためになると信じたからこそ,エクレールの目からこぼれる涙.環は笑って言い残し,選んだものに向かって飛ぶ! …ハルヒを呼ぶ彼の声はいつもと変わりなく,環を呼ぶ彼女の声は確かに少女のもの.赤い空の中,取り戻しに来た彼女は守るべき娘なんかよりずっと力強くて,けれど抱きしめたいもので…きっと環は,はじめて自分が恋に落ちていたことに気づくのだ.
白い二人は一緒になって海へと落下.そして,ずぶ濡れの1話に戻ります.ハルヒが環を認めたのは,困っていた自分を純粋な善意で助けてくれた1話のあの時なのです.無茶をした彼女を抱いて岸へと近づく環.けれどハルヒはびしょ濡れも気にせずに,「いいじゃないですか.水も滴るいい男って,言うでしょ?」とあの時の言葉をそのまま返す.結局夢は醒めずに続行決定.バカはバカのまま,仲間はいつも一緒で…彼女は誰よりも男前.
ハルヒたちが取り戻してしまったら,エクレールは去るしかありません.彼女がここまでえげつなかったのは,家政婦にピアノを弾いてくれた息子のことを聞かされていたから.確かに彼は話のとおりに優しくて,がんじがらめに縛りつけたエクレールに向かい「ありがとう」と言い残したバカな奴.…それでも彼女の身を案じて笑った環は,最後まで花咲くような最高のもてなしを貫いたのです.

桜蘭祭のラストを飾る夜のダンスパーティ.その裏側では,鳳家の買収問題の顛末が環の父と鏡夜の父の間で語られていました.突如別のファンドマネージャーが登場し鳳の会社を先に買収.その上で経営権を鳳家に譲ると提案してきたため,グラントネールは敵対的買収に失敗し手を引くことに.もちろんファンドマネージャーは彼の息子である鳳鏡夜! …ホスト部で儲けた分を投資で順調に増やしてやがったんですね(笑).
自分の親の会社を買収してしまうほどに優秀な鳳鏡夜と,そんな優秀な鏡夜の心を,一度手にした会社を親に突き返させるように変えてしまった須王環.幼い頃からちらつかされてきたエサをいらないと突き返したのは…「あいつは見つけたんですよ.それ以上に価値のあるものを…恐らくは,環君のおかげで」
ダンスパーティではハルヒさんがペチコート姿のまま,ホスト部の皆を相手にくるくると踊っております.もの凄くバレそうなんですが(笑)そこはフィクション,皆素晴らしい女装だと信じ込んでいるに違いない.環がダンスを求めたところ,なぜか鏡夜がひょいとさらっていって環はすっかりおかんむり.けれどしばらく踊ったあとで,きちんと鏡夜は環に渡します.…そしてはじまる主役二人の麗しいダンス.ホスト部の仲間たちを変えた環を変えたのは唯一ハルヒのみ.だから彼女は誰よりも凄いのです.
エクレールという雷すら越えた藤岡ハルヒ,須王家と鳳家の両家が認め,それぞれ自分の息子の妻にしたいと強く希望するほどの眩い才能.ごく普通のざっくりとした庶民だった彼女は26話の間に日本や世界を揺り動かすほどの存在へと化けたわけですが…この物語はあくまでも幸せで華やかな夢の話.夢の中ならこの程度の常識外れは可愛いものでしょう. …そして,人を喜ばせる華麗なる遊戯,終わらない夢は醒めることなく,どこまでも続いていくのです.

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