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モノノ怪#2

愚かな救いはひとりきり

この宿には身重の女を殺しにきた男をねじり殺した何かがいる.薬売りは女に殺された男の素性を尋ね,女は自分と腹の子を殺すためによこされた殺し屋なのだと語りはじめた.若旦那との許されぬ関係の末に子のできた自分を殺すために大旦那と奥様が男を差し向け,女は産むために逃げた.後先を考えない女の行動は冷淡な老女将から見れば甘すぎる.
しかし部屋にいる何者かが求めているのは,産みたい女だけではない.出ようとした老女将も番頭もこの部屋からは出られなくなり,女だけが何者かの手で別のところへと運ばれる.四角い大きな水盤の中央に,人一人が横たわれるくらいの台のある部屋.隣の部屋では見知らぬ男と女が一つ布団の中.ここは一体どこなのか.

緻密で美しい映像に作り手の気合と矜持を感じる「モノノ怪」.あまりにもカラフルでざっと見るだけでも目眩がしそうな勢いですが,そんな色彩の下地になるテクスチャがひとつ所に留まらずじんわりと動いていたり,ものの大小に拘わらず2Dと3Dを巧みに使い分けていたりと,ベースがすごくしっかりしているところも大きな見所.アナログでは無理.デジタルでないと作れない作品と言えるかも.
とことん華麗に飾られた画面の中で,所々思わせぶりなモチーフがさらりと使われてます.ダルマは凄くわかりやすい方で,襖絵などとして描かれる犬や鶏にも暗喩は含まれているはず.多産・暗算の象徴とか,産むだけで搾取されるばかりとか,逆に魔を払う夜明けとか….明喩と暗喩に満ちた画面は全てを押し流していきますが,その中で流されがちな重要なカットが1つ.薬売りはちゃんと退魔の剣を抜いて変性しています!

前半.因果と縁によってこの宿の中で形をとった童子のモノノ怪.その姿は身重の女にしか見えないものの,殺しにきた男を捻り殺すくらいだから存在しないわけがない.「この宿屋には,何かが,ある」と卓上の薬売り…相変わらず行儀が悪いまま.「何か思い当たることが,ありませんか」と薬売りは聞くけれど,老女将たちは露骨に目を逸らす.
身重の若い女曰く,殺された男は殺し屋の直助.彼女と腹の子を殺すため,大旦那と奥方が放った者…何故,誰が,どうしてと薬売りは短い質問で女を喋らせ,それがリズムになっていきます.若旦那との許されぬ関係によってできた子.家も一度は許してくれたはずなのに態度が変わり,若旦那とも結婚の約束をしたはずだった.…女の甘い予測は全て覆されて今.
常識で当然測れる展開を無視して,希望だけで暗い未来を選んだ女.この子を産みたいだけと言うばかりの若い小娘を,老女将は甘すぎると呆れるばかり…「産みたいだけ! それだけなんです!」と馬鹿の一つ覚えで叫ぶ女に応えるように轟音! モノノケだろうとアヤカシだろうと屋敷から出て行けばいいと老女将はこの部屋から逃げようとするけれど…廊下は,どこ,行ったの?
開いた襖の向こうは無限にこの部屋が鏡映しのようにつながっていて,出口はない.轟音と振動の中,無限遠へと広がっていく屋根裏の行き止まりの部屋.繋がる部屋は轟音とともに赤く色代えされた部屋にすげ変わり,薬売りの符は赤く染まる.番頭と老女将の目線のない首元と背後にはびっしりと童子たち.この状況にあってもこの2人は童子たちには気づいていないのだ.
女の側にも緑の童子.こちらは互いに真っすぐ見つめて見つめられ,「おっかあ」と呼ぶ.…その瞬間,女だけを置き去りにぐうんと動き出す無数の座敷.女だけを置き去りにして全てがからくり部屋のごとくに流れ,薬売りまでもがそこに巻き込まれて流され女から遠ざけられ…女はあまりの展開に気絶.このあたりの描写は一気に起こって視聴者も目眩を起こしそうだ.
すぐ後,水音と嫌な臭いで目覚めた女.ここはさっきとは違う部屋.大きな水盤に水が張られて,中央の台にも水盤の底にも無数の染み.傍に薬売りの天秤がいるのは少し安心できるかも.けれど自分の腹の上にはあの薄気味悪い黄色いダルマ…童子が.女が悲鳴を上げて別室に駆け込んでもそこは同じ部屋.水盤も台もダルマも天秤も同じ.
女が隣の部屋を開いて覗くと,中には顔のわからぬ男と女が同衾し睦言を繰るところ.女はごめんなさいと扉を閉めるけれど,快楽に笑う2人の布団の裾からは赤い布がぱたり,ぱたりと伸びて行く…部屋の隅にいるダルマのもとへ.それは青い童子で,にこりと笑う.まだ女は何も知らない.部屋の中央にある台の意味も,この部屋が一体どこなのかも.

後半.場所は女以外の全てを流されてしまったさっきの部屋.中の3人の動きを封じるように急激に閉じられる襖.薬売りは「こいつぁ,手ごわい」と悠長なノリで女将を苛つかせておりますが,彼が言った聞こえぬ何事かに応えるように,退魔の剣は3度口を噛み鳴らします.…薬売りが何言ったのかはわからないままですが,あの響きで天秤を操ったんだろうか?
ダルマが消えて天秤のみとなった部屋にいる女.しかし何かがささやいて,唐突に足元に転がる黄色いダルマ.天秤は鳴動し女は脅えて跳びのき,また消えるダルマ…怖がられて慌てて身を隠すように.女はふらふらと廊下を歩み,水盤の部屋では壁から別のダルマ入りの引き出しが伸びる.そして廊下を歩む女の後ろには黄色いダルマ…怖がられないよう,そっとついていく.
薬売りのいる部屋.悠長に口を割らないのは,女将さんの方ですぜ,と揺さぶる薬売り…真実のみに反応するのか,天秤は鳴動します.この座敷は供養のつもりで,せめてもの慰みにと作ったと老女将.この宿は昔,女郎屋で!と言った途端に卓のある部屋は水盤の部屋へと変わる.台の上に女将.そして近くに立つ薬売り.ここはと薬売りが尋ねれば,「始末の間,壁一面ややの墓場なのさ」と過去の部屋に合わせ若返った女将が言う.
鳴り止まる薬売りの退魔の剣.罪の座に座り,若返った老女将は凄みのある美しい顔で悪びれずまっすぐに言うのだ.「人助けだよ…何が悪い」…薬売りの足元にはダルマが転がる.あの頃この部屋で彼女の行った行動は,現実を知った上で計算ずくで行ったもの.けれどその残虐な行動もまた,一人きりで子を産もうとする女と同じ,若さゆえの無謀な暴走ではなかったか….
女は別室で倒れた天秤を見つけ,自分の後ろから自分を呼ぶ声を聞く.「志乃」と呼んで愛してると繰り返すのは愛しき人の声.部屋の中には過去の自分と若旦那…そして黄色いダルマ.顔のわからぬ若旦那に抱かれる自分に,愛してると繰り返す若旦那.それが許されぬ関係でも,夫婦になろう,どんなことがあったって関係ない,お前だけが好きなんだと言葉は甘い…我を忘れ飲み込めば酩酊し死ぬ粗悪な酒のように甘い.
ものを知らず言葉を飲み込んでしまった女,「若旦那様のやや子が,お腹に」と若旦那に教えたならば…幻想は壊れ言葉も止まる.2人の関係を望まぬ女の影.愛する男は一瞬にして自分を殺そうとする男に変わり,「どうせ金持ちなら,誰でもいいんだろう」と心に言葉を突き刺し,女は悲鳴を上げる…その声を聞いてせせら笑って,「馬鹿な娘だよ」と言う女将.壁から生える番頭とぐるで,彼女はそんな愚かな女たちを「救って」きたのだ.
この宿で仕事をしていた愚かな女郎たちは,顔のない男たちにせせら笑われてこの部屋へと追い込まれていった.ひどい言葉に打ちのめされて女が卓上で泣いていると,「おっかあ」と呼ぶ声.…いつの間にか部屋のあちこちに座る見知らぬ女たち.その一人に抱きついた赤い童子.赤い布は女から童子へと繋がっている.…腹の中赤い紐で繋がれて栄養をもらうのだ.それをいーなーとうらやむたくさんの童子たち…まだ産まれぬものたち,そして生きられなかったものたち.
「この人たちにする」と赤い童子は布団のなかの一組の男女を選んだ.仲間たちにおめでとうと祝われありがとうと答え,「僕にもおっかあができたよ」と童子は幸せなばかり.…愚かで何も知らぬ童子は,月日が満ちれば母に会うために泣いて出て行く.しかしその先に待つのは優しい母ではなく,「まったくしょうがないねえ」と厄介なものを殺す女将の冷徹な顔だ.
自分を腹で養ってくれる優しいおっかあも,女将から見れば分をわきまえぬ役立たず.役立たずは借金も返せない.役立たずは飯もまともに食えない.借金のかたに売られた女郎がやや子を抱えておつとめができるわけないだろう! その手でを赤く染め床を染め,生きていくためにはしょうがないと女将は女郎たちの子を殺して物言わぬダルマにした.…その顛末を知った女,恐ろしさを通り越し怒りを覚えはじめます.
この部屋で産まれた沢山のダルマ.水に漬けられ,燃やされ,口を塞いで殺された…それを女郎たちは悲しむしかなかった.今腹に子のいる女は,女郎たちの気持ちもダルマの気持ちもよくわかる.だから彼女にだけダルマも童子も見えたし聞こえた.では子がいなければどうなるか.番頭は助けてやると言いつつ迫ります.女は台の上に乗せられ,そこに待っている女将.「堕ろせば」「座敷童に狙われないだろ」
座敷童は生まれたかった子どもたち.自分を産んでくれる者を待っている.だから堕ろせば「助かる」…女将や番頭たちが.女将は両手を握り合わせて女の腹へと振り下ろす,衝撃に解けていく髪.袖から落ちていく薬売りの天秤.…やめてぇーーー,もう殺さないでぇぇぇーーー! …女の絶叫が告げる再現のはじまり.ついさっき,子を殺そうとした男は既に捻り殺されている.
唐突に過去から現在へと戻った部屋.しかし女の髪は落ちたまま.天秤は落下を続けている.ふと途切れた緊張を見計らったかのように赤い布が部屋の左右から侵入.女将と番頭は飲み込まれ引き上げられて,真っ赤な布の寄り集まった球体に飲み込まれる.そこには童子の目が浮かんでうねる…赤い布は女将と番頭に無理に千切られた無数の臍の緒,それが二人の悪人を包み.縛り,捻って殺すのだ…ここで天秤が傾き薬売りが唐突に再登場.
ここにいるものの真実の姿は,女将達によって座敷に縛り付けられたものたち.「遊郭の時代に始末された,赤子の思い」…モノノ怪の形と真がわかり残るはこの先を定める理を知るのみで,退魔の剣を抜くために女に願いを聞く薬売り.けれど女はここで流れを乱します.殺されたやや子たちには罪はない…愚かにも後先考えず,同情だけで彼らを救おうとするのです.
このモノノ怪は女の腹を借りて産まれるつもり.あんなに禍々しく,あんなに沢山,ただの女があんな業の塊を無事に産めるわけがない.しかし産まれぬ赤子たちはおっかあおっかあと彼女を呼ぶ.「みんなこの世で,ただ生きたいだけじゃない!」と無理を無視して轟音の化け物に彼女は言うのだ.「おいで…一緒に,生んであげる」…その滅茶苦茶な決心にさすがに驚く薬売り.
女にはモノノ怪も産まれることを乞い願うただの童子たちにしか見えない.彼らを産み落とすことがモノノ怪を産むことと言われてもなお,「私の腹に宿ったものは,みんな私のやや子です」…無知ゆえに取り込まれる危機すら恐れずに彼らの中に立つ彼女.「私は,私のやや子を産む」…それで人の道を外れることすら恐れずに,まるで菩薩のように.「…それだけ」
一体いつから貼られていたのか.既に赤い腹の符を女は自ら一気に剥がし…股から鮮血が流れ出して女は悲鳴.考えなしの彼女の行動は,彼女と彼女の腹に宿っている命に危機をもたらしたのです.腹の中にあるはずの黄色いダルマにはヒビが.愚かな彼女が命を賭けて守って逃げてきた可愛いやや子が,腹を借りようとする突然の客,モノノ怪に押され流れてしまいそうになる!
黄色い童子は自分で決めた.優しいこの人がいいと女を選び赤く繋がった.…女の決断によって繋がりが消えそうな今,壊れそうな黄色いダルマはここまでの感謝を彼女に告げます.体を大変にしてごめんなさい.いつも頑張ってくれてありがとう,たくさんお話してくれてありがとう…人生の重荷,厄介の種,けれどなんてこの童子は,自分の子はいじらしくて愛らしいのか!
「僕,あなたが,いい.あなたが,いい,あなたが…いいです…」…ここまで乞われて子どもに抗える親などいるわけがない.化け物にすら同情する人一倍心の優しいこの女ならなおさらで.「どういたしまして,私こそ,選んでくれて,私のところに来てくれて,ありがとう」…やっぱり彼女は自分の子を選んでしまう.その女の本当の望み…理を聞いて呆然とする童子たち.かちんと口を閉じる退魔の剣.
一度は受け入れるつもりだったけれど,「ごめんなさい.私,あなたたちのおっかぁになれない」…女に拒絶されて消える,結局産まれられないダルマたち.…けれど母の決断に童子は笑う.退魔の剣を抜き放ち化性した薬売りに一刀で切り捨てられつつも,童子たちは喜んで消える.自分たちが果たせなかった望み,この世界に産まれ出るという切なる願いを叶える仲間を祝って消えていく.

結局曰くつきの部屋で生き残ったのは,薬売りと女と彼女の腹の子のみ.あのダルマと同じ黄色い安産祈願の人形が彼女の傍に再び寄り添い,元の姿に戻った薬売りは壁絵の女の腹を撫でている.どれほど強くても男にはこの先も決して理解できない不可思議で尊いものにそっと触れる…童子のように.その後同じように絵の腹を撫でつつも腹を鳴らし,今更空腹に気がつく女…母.「こんなおっかあでいいのかねえ.…早く,会いたいなぁ」
…見返す度に泣けてくるこの脚本は女性でなければ書けないでしょう.高橋郁子凄え! そんでもってまったく違うけど同じ女を競うように演じて,主役を完璧に霞ませた田中理恵と藤田淑子凄え! そして初回なのに女性の力に思い切り押されて見せ場すら一瞬で終わらされてしまった薬売りはよく考えるとかなり気の毒ですが(笑)彼の見せ場は次回からのシリーズにちゃんと準備されてます.次回に続きます.

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