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モノノ怪#5

浪下の本心の泥の中には

そらりす丸の甲板には源慧が恐れ続けてきたうつろ舟が引き上げられ,その中からは引っかき音が絶え間なく聞こえる.中にいるのは五十年前に海に流された源慧の妹か.モノノケと化した彼女を丁重に弔い成仏させねばこの海から抜け出すことはできないだろうから,薬売りは符の力でうつろ舟を外から閉じる閂を開く.けれどうつろ舟の中は空洞で妹の姿はない.それではモノノケは一体どこにいるのか.
高名な寺社の僧侶がなぜこの船を五十年にも渡って恐れていたか,理由を滔々と語りだす源慧.近くの島で生まれた源慧とその妹のおよう.親もなく育った二人の間にはいつしか禁断の感情が芽生えたが,源慧は仏門に入ることで妹から逃げ出した.自分たちが決して結ばれぬことを知っていたから,妹が誰かのものになるのを見ていられなかった兄が生まれた島に戻ってきたのは,その五年後のことだった.

脚本家らしい薀蓄全開で饒舌に展開してきた海坊主編も今回で完結の「モノノ怪」.はじまるまでは本作最大の難点とも思われた小中脚本ですが,言葉が多すぎて映像的に地味になりがちの脚本を,じっとしてたってどうしようもなく派手な映像で支えた形で,思った以上にいい着地を見せてくれたんじゃないかと思います…エンディング後のあのシーンを除いては.侍の描写が足りてないので,いきなり過ぎで何がなにやら…(苦笑).
全ての怪異の源は過去に妹萌えをこじらせた老いた僧侶.そういう意味で「海坊主」というサブタイトルはとても納得.時系列の錯綜する前半から,人の心の真実が明かされる後半,そして終幕へと一気に物語は流れていきます.これまでの各話では特に女性にだけ優しく見えた薬売りですが,彼の目的はあくまでモノノケを斬ることなので,憑いた相手が男の場合でもちゃんと救ってくれることが確認できて何よりです(笑).

前半.海座頭の問いかけの結果明らかになった,船迷走の犯人とこの物語を終わらせるために必要な最後の謎.磁石の犯人は僧侶,源慧.彼は五十年もの間恐れ続けたものが沈む場所へと来るために,わざと船の針路を乱して龍の三角にそらりす丸を導いていた.その恐怖とは,天上に開いた巨大な目が引き上げたうつろ舟.その内にあるのは,源慧が秘め誰開くことなくこの日を迎えた過去の業…決して覗いてはならぬパンドラの箱.
一番恐ろしいものとの再会にひたすらに題目を唱える坊主.うつろ舟には五十年前にこの船に入れられ流された,彼の妹が入ってる! もちろん中の人が生きてるはずがない,から怖い.内側からは未だに誰かが引っかいている音がする.船の内部でモノノケと化した妹を丁重に弔うことこそ兄の役目であり坊主の役目.…この海域から脱出するためにも不可欠なので,まずはどんだけ怖くても皆で開けることに決定です.
海を漂い朽ちてモノノケとなりたくはない皆さんはうつろ舟の閂を開くために必死.モノノケの成仏のために来たんじゃないかと問われても返事もしない薬売りは傍観,源慧はひたすらお題目,侍は剣が折れてしまってリタイア,若い坊主もあまりに怖くて船に近づけない….で,加世さんと船主と修験者が三人揃って力を合わせるんですが,五十年の歳月に負けたのか,はたまたアヤカシの力が働いているのか舟の口はびくともしない.
「そうか,では…」と唐突に行動を開始する薬売り.加世たちの背後から問答無用で無数の符を放ってくるから,たとえ紙つぶてだとしても撃たれる方はたまったもんじゃない(苦笑).「いっつもいきなりなんだからぁー!」という加世さんの悲壮な悲鳴が面白いなぁ(笑).銃弾のように撃ちだされた符は白木の封印に貼りついて,そのままぐるりと回して船の口を開く.…引っかき音は止まり,薬売りの天秤は源慧の合掌した手の上に.
源慧の混乱する心を示すかのように,唐突に前後し始める時勢.水槽の中と化したそらりす丸で彼が自分と妹について語り始めるのは本来はもう少し後のこと.…この海の近くの島で生まれた源慧とその妹のおよう.5つ違いの兄妹は父母が早くに亡くなったために二人きりで仲良く育った.「いや,むしろ良すぎたのかもしれない」…島の決まりで15の年に仏門に入った源慧の声は若く,彼の記憶の中のおようは美しい.
仏門に入るために島から離れて精進することになった源慧.厳しい修行に耐え実の妹であるおようのことを忘れようとしたけれど,妹は自分のことを1日も忘れず,兄が立派な僧侶となることを祈り続けていた.海が隔てても繋がっていた兄妹の縁がうらやましく悔しいお付の菖源.…しかし薬売りの持つ退魔の剣はこれら言葉に反応しない.モノノケの形と真と理には応えるこの剣が無言ということは,源慧の言葉はモノノケの真実でないということか.
…先程開いたうつろ舟の中には何もなかった.源慧の言葉が真実ならばここにモノノケの形や真がなければおかしいから,「妹君がモノノケなのでは,ないようだ」と薬売り.それではモノノケは一体どこか.それを探るために出てくるのがいつもの天秤.ただし今回は距離を測るだけでなく,真をたぐりよせてみる.
薬売りの天秤は題目唱えまくりの源慧の手に行った.「話して,いただけますか,50年前のこのうつろ舟と,妹君にまつわることを」…真実は彼の中にあることを確信し,薬売りは語らせることで真実を手繰り寄せようとします.かくして題目のかわりに源慧は語りはじめるわけですが,その声は時折別人のように若い.
五十年前の禁じられた感情.仏の道,人の道に背いて妹と一緒になりたいという獣の思いから,源慧は修行に没頭することで逃げ出した…徳を積むとか煩悩を断ち切るなんてもんじゃない.結ばれなくても傍にいたいという自分の本心が恐ろしい.自分以外の誰かと妹が結ばれることが怖くてたまらない.それを知ったら自分の心がどうなるか…「私は,畏怖していたのだよ」
僧の語りに呼び覚まされて,船に満ち始めるもういないはずの人の気配.菖源は師の告白を泣いて悲しみ,こんな師匠ですまないなと源慧は言う.…そして彼の妹はあのうつろ舟に乗ったのだけれど,なぜ彼女は乗らねばならなくなり,源慧はなぜそのことを恐れているのか.薬売りの天秤は源慧の口近くにありつづけ,まだ隠されている本当を手繰り寄せ続けています.

後半.修行をはじめて五年が過ぎ,白羽の矢が立ち島へと呼び戻されることになった源慧.元々龍の三角は頻繁に荒れる海で,その夏は島の舟の半分が沈んだ.この荒れる海を鎮めたいと考えた村は,源慧に水底に沈んでもらい,柱となってもらおうとした.…あまりにも残酷な願いだけれど,両親もなく育った源慧たちが村から受けた恩は相当のものであったはず.その村の願いであれば無碍に断ることもできなかったのでしょう.
うつろ舟に乗って海の柱となることは,修行の足らぬ源慧には死ぬことに等しい.しかしこのまま生涯を妹への愛に支配されるくらいなら,死を選ぶ方が楽に思えた.そんな風に語る老いた源慧の背後には女の指,撫でた彼の背から花が散る.源慧の語る過去の言葉は花のように美しく,花は舟の上に浮かぶ巨大な眼にも届く.…けれど花は退魔の剣を動かさない.
源慧を沈めるために作られた見事なうつろ船.話に合わせてそらりす丸の甲板に揚げられてる奴もいきなり新しくなって,武器を失ってすっかりへたれた侍が怯えてます.過去と現在,現実と幻影の間を漂ううつろ舟に吹き始める風.十六の美しい娘となったおようの姿もはっきりとしてきます.…うつろ舟で仏となることが怖くなった当時の源慧,そんな意気地のなさや情けなさを優しさだと言う妹.そんな言葉が相応しくないことは,兄が一番良く知っていたのに.
この海を鎮めるためには柱は必要.でも自分が死ぬのは怖い…そんな兄におようは言った.「兄様のかわりにこのおようがうつろ舟に乗ります」と.…もちろん兄が妹に,しかも愛情すら感じている妹にそんなことをさせられるわけがない.けれど源慧言うところによれば,押し問答の末に彼女は言ったのだ.「兄様とは決して結ばれぬ仲,ならば,他の誰とも結ばれぬうちに,私は御仏の元へ参ります」
こんなところでわかってしまった相思相愛.しかし禁じられた関係なのは変わらず,むしろ罪深さが増すばかり.「兄様が功徳を積んでおられる間,私はずっと…私は兄様の夢ばかりを見ていました….その辛い日々から逃れられるのならば」…兄への思いを明らかとして,それがこの世では実を成すことのない思いだとわかって,そしてうつろ舟で行くと宣言した彼女に源慧は泣いた.…けれどこの顛末,兄妹の美しい愛に退魔の剣は反応しない.
好きで添い遂げられないなら一緒にうつろ舟に入ればよかった.けれど源慧は逃げることしかできなかった.死ぬのが怖いから自害し来世で逢うのも無理.ゆえに富士の山で激しい修行に逃避して,高僧として敬われるようになった…けれど彼は妹の鎮魂をしていたに過ぎなかった.そしてうつろ舟の妹はこの海のモノノケになったのか.「おようさんが可愛そうよ!」と加世さんは同じ女として怒るけど,「違う」口を挟む薬売り.「おようさんの怨念では,ない,それは,真では,ない」
うつろ舟の中は空洞で,源慧の語る美しい過去に退魔の剣は反応しない.それはすなわち,源慧の言葉が真実でない証拠.いつからか右目を手で隠していた源慧.これまでの全てを見てきた彼の目がなぜ覆われねばならないのか.そして舟の上になぜ巨大な目が開いているのか.源慧は恐れた.死を恐れ,自分のために死んだおようを恐れおようを殺した自分の心を恐れ,それは自身ではどうしようもないほどに膨れ上がってしまったのだ…この海を変えてしまうほどに.
源慧の恐れは恐れを呼んで,「いつしか己が得心できぬほどの強大な影となって,あなたと身を分かち,海をさ迷っていた」…薬売りはこの物語の根幹の構造を紐解いた.「真は,あなただ」と断じ,かちんと鳴る退魔の剣.まさか師匠が原因とは思わなかった弟子は取り乱すけれど真実は残酷.源慧の世界は反転し鮮やかなアヤカシの領域へ.真実を知って秘す源慧だけが色とりどりの世界の中,薬売りの前で苦しむ….
羅針盤は回転し乱心する源慧.そしてくるりと回転する薬売り.おようは迷うことなくこの海の柱となったから,モノノケにはなっていない.薬売りの構える剣は妙なる音を放ちはじめる.モノノケは海坊主.坊主が心の奥底にあるものを覆い隠そうとする心にアヤカシが取りついたもの.つまりモノノケは「あなたの,分,身」…源慧の影から染み出して,アヤカシが取り付き狂ったもう1人の彼.それは源慧自身を今も天上からじっと見つめ続ける!
源慧の半身から影となったモノノケが姿を現し,必要なのはあと1つ.源慧は薬売りに問われます.このモノノケを斬るのは心を斬ること.斬れば源慧がないことにしたかった本心を彼の心に戻すことになる.「それでもよいかと,問う!」…この現状がどうなるのが望ましいのか,薬売りに理を問われた源慧は思い出す.彼が完全に忘れ去りたいと思ってしまった真実,あの日,自分が本当は何を考えていたのか.
さっき語られた物語は美しかったけれど,真実はずっと汚れていた.軽薄で下卑た独白から判明する,小心者で卑怯な源慧.出世したい,死にたくない,だから軽い気持ちで妹が代わりに乗るという申し出を受けた.妹と別れることを苦しむどころか,自分が死なずに済んでよかったと喜んですらいたのだ.…けれど兄から見れば自ら死を選ぶ愚か者にしか見えなかった妹は言ったのだ.「兄様のことを,お慕い申し上げておりました」と.
死ぬのが怖い,自分のことしか考えない,卑怯でダメな兄貴のことを,妹は好きだと言った,命をかけて愛してくれた….愚かな源慧は未だ自分が妹が好きかどうかもわからない.けれどあのとき思い知ったことがある.それは「愛される,喜び」…忘れたいと思い続けた過去の思い出の中に唯一含まれていた,決して失ってはならない美しいもの.それを失って半身となったままで涙を流す源慧は,「お願いいたす,斬ってくだされ」と薬売りに頼む.
どうするべきかを定める理がここに揃い,退魔の剣は鳴り薬売りは承知して解き放つ.浅黒の肌,白い髪,金の着物…金の隈取のもう一人の彼は退魔の剣の一振りにて源慧の影を崩す.もう1つの世界に留まる彼自身より渡された鏡の力で,際限がなく形もない闇を鏡に映し,そこに退魔の剣を叩き込む! …天上の目,源慧のもう1つの目から伸びる鎖も切れ落ち,自由になったうつろ舟は崩れながら海中へと溶け,少女の影だけが浮き上がって源慧の傍に寄り添った.

龍の三角,アヤカシの海は元のただの海に戻り,源慧も本来の姿を取り戻しました.愛されることを拒むような卑小な外見は人に愛される美しい顔に.眠っている彼は「なんか,少し笑ってるみたい」.…彼が忘れようとしていた真実に混じった妹の美しく純粋な思いが,彼を救ってくれました.既に仏となった妹の名を呼びつつ目を覚ます坊主は,五十年ぶりにモノノケの呪縛から逃れたのです.
己を騙そうとする弱い心はモノノケの良い餌.自慢の妖刀を折られてしまい泣いている侍がその刀に「今まで,ありがとう」と呟いたなら,刀の残りの部分が砕けて彼の目に食い込む! 決して愛が消えないように,恨みも消えずに必ず己の中に戻されるから,侍は醜く笑って「絶対,忘れないよ」.…彼の背後には薬売りともう一人の彼自身がいるから,これは薬売りが誰知らぬうちに侍のアヤカシも斬ったという解釈でいいのかな? どんな解釈でもどうにも後味悪い感じですが(苦笑),気を取り直して新シリーズの次回に続きます.

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