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モノノ怪#9

姿なきものは想いを食らう

3人の婿候補が瑠璃姫よりも求めていた「東大寺」とは欄奈待のこと.手にしたものは天下人になるという銘香がどうしても欲しい3人は,薬売りに香元を務めさせて既に死んだ瑠璃姫の婿となるために再び香で競いはじめる.試しの香二種を回した後で五つの香を回し異同を答えさせる竹取香.その五香の中に,薬売りはうっかり聞けば死ぬ夾竹桃を混ぜてしまった.
それでも続く竹取香の一の香は,侍には何の香りもしない.燃えているのは侍のために用意された血のたっぷりと含まれた襖で,それを聞いた侍は己の凶行の記憶に飲み込まれていく.源氏香がはじまるより前,実尊寺に愚弄された侍は怒りに任せて彼を叩き切り殺していたのだ.殺された実尊寺の亡霊に取憑かれた侍は絶叫の末に消滅.部屋に残るのは怯える公家と廻船問屋と,香をたく薬売りのみ.

このシリーズらしいとても尖った物語を妙に明るい雰囲気で描く「モノノ怪」.これまでの物語ではある特定の人物の深い怨念が謎の中心にあったんですが,今回の「鵺」は複数の怨念の集合体がひとつのモノに凝縮されているため,登場人物それぞれの執念は案外と軽い.侍や廻船問屋はともかく公家なんて完璧に巻き込まれただけの気の毒な人ですからね(笑).そんな濃さのない婿候補たちを好きなように翻弄する薬売りは…どう見ても状況を一番満喫してるよなぁ.
惨劇以外では徹底して抑えられているこの物語ですが,抑制されているのは色彩だけではありません.元々かなり抑えられてはいたけれど,じじっという香をたく音がはっきりと聞こえるくらいにこの回は音もまた静かで…だからこそラストのあのシーン,どこかに行っていた色と音が戻ってきて押し寄せるクライマックスの鮮やかさが際立つ!

前半.今回のモノノケは「鵺」.その姿は見る者によって異なる正体のない化物で…逆を言えば見るものによって姿の定まる化け物とも言えます.それが童女だと思えば童女なのだろうし,瑠璃姫だと思えば瑠璃姫なのでしょう.得体の知れぬ怪物を見れば鵺は何よりも恐ろしい化け物となるのだろうし,その逆も然り.鵺のみならずその形真理を悟られたモノノケが必ず滅びの道を歩むのも,幽霊の正体見たりということなのだろうな.
なぜか既に死んだ実尊寺の着物がかかった石のある庭のある笛小路の屋敷で起きた2つの惨劇.実尊寺と瑠璃姫が何者かに惨く殺され…けれど残る3人の婿候補は怯えるのもつかの間,一転して「東大寺」を探しはじめます.彼らが瑠璃姫よりも欲しがっている「東大寺」とは,蘭奢待…じゃなくて東大寺の三字が隠れる「欄奈待」.蘭奢待と同じく正倉院所蔵で,手にしたものは天下人になる言い伝えも同じ.…こっちは切り取った人数がちょっと足りないか.
蘭奢待となんだかよく似ている欄奈待は実は2つあるらしい…もう1つが蘭奢待だったりするのか(笑)? その「東大寺」を笛小路家が所蔵していると知った婿候補たちは,本日この場で婿を決め「東大寺」の所有者となりたかった…というのが前回ラストで凄く薬売りが聞きたがっていたことであります.かくして約束を果たした婿候補たちのために,薬売りは竹取香の香元を務めることになるのでありました.
いつも背負っている箱からいろいろ出して散らかしつつ(笑)聞香の準備をする薬売り.竹取香は2種類の姫と翁を試しに聞いた後,5種類を順に聞いて姫か翁かそれ以外かを答え続けていく聞香.一度でも失敗すればその段階で負けというルールなので,姫と翁とそれ以外で,最低限3種類以上の香を準備しなきゃならないんですね.…ここで響くのは鵺の声.…正体はトラツグミのはずなんだけど,この世界だと本物の声かもしれない.
絵に描かれる鵺は頭は猿手足は虎尻尾は蛇…けれどそれは見る場所によってまったく違ったものに見えるという,鵺の性質を図示したものに過ぎない.そういう意味では蛇の頭に猿の手足に虎の尾で描かれても問題にはならないはずだけど…この組み合わせだとなんだか弱そうかも(笑).前後編の後半に突入してるのに未だ薬売りは鵺の形を得ておらず,いつ鵺が現れるのかもわからない.…公家は「もう現れておったりしての」とか軽口叩くな.空気読め(苦笑).
竹取香のはじめはかぐや姫と翁の試し.馨しいのを聞けば現実ではない光景すら脳裏に見えるという香ですが,かぐや姫は人工で不可思議.頭の芯がしびれるようなかぐや姫…香じゃなくて薬じゃねえかなぁその感想.薬売りの持ち込んだものだしなぁ(苦笑).翁もかぐや姫と同じようにしか思えぬもので,なかなかやりおると廻船問屋は勝手に感心.けれどそんな感心を,1の香が出た直後に台無しにする薬売り….
「おっと,ちょっとしくじってしまいました」と唐突に言い出した薬売り.なかなかの香を揃えていた彼ですが,その手持ちから夾竹桃の枝を「つい,混ぜてしまいました」…それは一吸いすれば死ぬ高価で希少な猛毒.それをこれから三人に回す5種の中に「つい」で混ぜるなよ(苦笑).頭を叩いて「うっかり,うっかり」で通るわけないだろう(笑).
この状況に嗅がされる方からやりなおしの声が出るのは当然.けれど先頭を切る公家は余程大胆な性格だったのか,あるいは先頭という位置を守ろうとしたのか.凄いリスクを知りつつも「こなたは続けようぞ」と決断し,公家が最初に死んでくれるならと残る二人も了承.…相当滅茶苦茶な展開を三人が受け入れてしまうのは,薬売りが香元を務めることで小さな薬売りの世界がここに形成されているからと見るのが自然でしょう.
薬売りの香が作り出す小さな世界ではじまる竹取香本番.最初の公家も廻船問屋もその他と判断し,最後の侍は…匂いがしない.その無臭のものを薬売りは侍のために準備したと言い出す.今目前で燃えているのは血のたっぷりとしみこんだ襖.「実尊寺さんを殺した,あなたのために」…唐突に明らかにされた真実に侍は動揺し,押し込めていた記憶と恐怖が開いていく!
…それはその日の夕方のこと.この笛小路家に最初に到着したのは源氏香には参加しなかった実尊寺.痩せぎすで剣呑な雰囲気を漂わす彼は,香は冷えた方が染みるとも知らない田舎侍をわかりやすく愚弄する.軽い嫌事くらいは耐えられても,遠のいた出世を東大寺で取り戻そうなどとあさましいことを考えているのではないかと図星を当てられては心乱れる侍.
辱められて顔を赤くする侍・室町.引き時を知らない実尊寺は彼をさらに追い詰めていく.溺れる鼠はなんとやらと喩え,けれどこの勝負は絶対に自分が勝つに決まっているから「あほらしこっちゃ」と偉そうで,トドメに部屋を出て行く時には埃くさい東侍に香なんかわかりやしないと言い切って,臭い臭いと笑って…室町は武士の魂たる腰の刀に手を伸ばす!
橙色の柄を握って抜き放ち暴力の塊へと豹変.逃げ出す実尊寺を紅く染める室町! 偉そうだった癖にみっともなく逃げ回った獲物のために部屋中が真紅に染まった…もちろん襖も.侍は人殺しの道具を腰から下げて自制のみで封じる者.その封印を辱めによって破れば暴力は冷静に溢れ出でる…「なんて死に様しやがる」と冷静に言う侍を,童女が笑って見ていた.
…我に返った侍は背後の尋常でない気配に気づく.「室町,はん」と這いずる黄土色の泥人形…うわああああああ!と変わり果てた実尊寺に悲鳴を上げる室町! 来るな来るなと剣を振り回し後ずさりするけれど泥人間は眼前へと迫り!「室,町,はん」…剣の音!悲鳴!そして消えてしまう室町! …そしてまるで何もなかったかのように「二の香,たきあがりました」と薬売り.

後半.一人消えても続く竹取香・二の香.先に公家は聞くけれどこれは姫でも翁でも夾竹桃でもなく,続く廻船問屋が聞けば…それは香というより異臭.まるで人の髪を燃やしたような…「さすがは半井さん,あなたにだけは,わかっていただけるものと」と薬売り.終始面白そうな薬売りの次の標的は彼.その臭いから脳裏に思い出されるのは…紫.二の香が指すものに驚く彼の顔は色づく.「まさかー!」
つい先程のこと.はばかりへと行きたがった廻船問屋ではあったけど,実は行きたかったのは瑠璃姫の部屋.己の鼻に自信のある彼ですが,源氏香では公家とかぶるとわざと答えを変えています.自分から正解を外してはみすみす公家を婿に推挙するようなものでしたが,彼が狙っていたのはここから先.瑠璃姫にこっそり頼み込み,正解を変更してもらおうとしていたのです.
玉となる答えを自分の常夏に変えてほしいと懇願する廻船問屋.他3人は東大寺目当て,本気で慕っているのは自分のみだと.瑠璃姫のために店も何もかも売り払い,既に一文無しで後がないのだと….けれど瑠璃姫に哀れな男の懇願を聞き入れる耳無し.必死な彼を他所に何をしていたのかと思ったら,屏風絵に半裸で擦り寄って笑む….
屏風絵は放映できない内容の暗喩.蛙が交って彼女のねっとりとした不貞を示し,そして彼女は笑っている.彼女のために身代を崩した自分の気持ちも知らないで! 爆発した半井は部屋の簪の束を掴み瑠璃姫の喉首めった刺し!あんたが悪いと繰り返す! …さっきの瑠璃姫殺しの下手人は半井と確定.けれど今血だまりに倒れているのは…自分! 元の世界では後頭から四方にぴゅうと血を噴いて倒れる廻船問屋! そして!
「三の香,たきあがりました」と薬売り.無残な廻船問屋の姿が唐突に消えて公家はさすがにもう限界!こんな組香はもう沢山! …でも東大寺はやっぱり欲しいのだ.残るは3種.姫と翁と夾竹桃.自分が夾竹桃から逃げなかったためにはじまった組香はもはや勝利目前…というか競争相手がいないんだからこの時点で勝利でもいいんだけれど(笑)薬売りの支配する小さな世界ではそれも許されないようです.
当てれば東大寺が己の手に入る.欲に負けた公家がすうっと聞いた途端に「…ああ!」とか言い出す絶妙すぎる薬売り.今聞いたそれが三分の一の確率であった夾竹桃.公家はこの香りは違うと思っても「申し訳ありません」と薬売りが突き付ける紙には夾竹桃の3字! …この世界では薬売りこそがルールで,絶対で.こうなっては口を押さえて身もだえるしかない気の毒な公家.何ひとつ罪を犯してないのに可哀想過ぎる(苦笑)!
このままでは死んでしまう!という大ピンチ,ここで薬売りは「水を沢山飲めば,よかったような,違ったような…」とかあいまいなことを言い出し,慌てて庭の池へと走り出した公家,足を滑らせころりと転んで首の骨を折って死ぬ.ここに残るは弔鐘の如く響く鐘と,何もかも全部知っていて仕向けた薬売りのみ.ふふふと笑って彼は言う.一介の薬売りが貴重な夾竹桃など持っているわけがない,と.
その言葉が真実ならば救いようがないほど公家が気の毒なわけですが(苦笑)「よいのですよ.あれがそうであろうとなかろうと,彼が…いや,彼らが,自分の人生は終わってしまったのだと自覚できれば,それでよいのです」と誰もいない部屋で誰かに語る薬売り.当初は情報収集に彼らを利用したものの,あまりに不憫でついお節介を焼いたと,あんだけのことを慈悲だと言うのだ.「そう.この屋敷には,最初から誰もいなかった」
薬売りの竹取香でいるはずのない人々は排除され,屋敷の中心に残るのは薬売りのみ.当初は瑠璃姫を疑い,しかし退魔の剣に違うと言われた彼がついに見いだした形…床の間にある紫の布の向こうに「あなた」はいる.ここには「あなた」と「あなたに取り殺された人たち」以外はいない.竹取香の末に消えた可哀想な4人は,誰も嫁を取ることなく既に庭の墓の下にいる.
「誰も居ない部屋でひとりで香をたく私を,ずうっとそこで,笑っていたのでしょう? ねえ,モノノケの,鵺」…それは青い着物の仮面の女? それとも老尼僧?少女?瑠璃姫? 見るものによって姿を変える化け物が鵺.千変万化の正体,妄執の源は…「今は東大寺とお呼びする方がよいのですかな」…古い香木.誰もが求める逸品に怨念が染み付いて生まれたモノノケ.
かくしてモノノケの形は明らかになり,志半ばにして薬売りに倒された(笑)四人の婿候補が真と理についても教えてくれた.噂を聞いてやってきた人々を取り殺し,このように夜な夜な組香させていたという真実…真.そしてただの腐った木を希少な宝物と見なしてくれる目がなければ「東大寺」でいられなかったという理由…理.
「東大寺」という名から生まれた鵺.沈香そのものに罪のあるわけがなく,そこに尋常ならざる妄執を人間が注ぎ込んだのが悪い.「だからといって,これは少し,やりすぎ,ですね」…庭は既に被害者の墓石で埋まっており,殺された者たちは成仏できすに墓の下で泣く.その慟哭の声は正体なき鵺の鳴き声のように響き,本当の鵺は「ほんなら,どうする」と問いかける.
薬売りも仲間になったらええと襲いかかる鵺…音楽と色と動きを引き連れてやってきた山場! 形真理を得た退魔の剣は浮き上がり,笛小路の屋敷はあらゆる面から赤い無数の亡霊が浮かび上がる.壁からは目を潰された公家と侍の巨大な顔が浮かび出て,足元には犬の胴体をつけた無数の廻船問屋が走り回る.背後からは黄土色の屍が組みつき…とんでもない画のど真ん中,薬売りは動じずすっくと立ち,形真理によって剣を解き,放つ!
愉快愉快と笑う鵺を襲う金色…鏡合わせのアヤカシの世界で舞うもう一人の薬売り.女性的な薬売りに比べて男性的な金色の彼は,何迷うことなく力を解き放つ.顔だけの鵺を金の符で覆い,その上から退魔の剣で撫で斬り! 舞い散る神気は冬とも思えぬ花を咲かせるも,聞かぬ聞かぬと笑う仮面.けれど退魔の剣は紅い.「香木は,火でたかないと,真の香りを出すことが出来ぬ」…鵺を燃やし剣を振り下ろして現実.ぽん,と薬売りの振り下ろした退魔の剣で割れる東大寺.

目も眩む鮮やかな退魔の果て,笛小路家で東大寺の前で座り真っ二つにしたのはいつもの薬売り…これまでの派手な映像がまるで夢のように静かで,このテンションの落差が無性に面白いなぁ….折れて燃え出した東大寺から広がる香りは部屋を染め瞬く間に屋敷を包み込み,この世に浄土を作り出します.それは何もかも色づかせ蘇らせる極楽の香り.無数の亡者が欲しくてたまらず縛られた禁断の香り….
東大寺の消滅する香煙の中,その存在から解き放たれた亡者たちが香の至上を満喫する中を,真面目な顔で歩み出て行く薬売り.門の外には前回もいた子犬が登場.香の価値は人が決めたもの,子犬からすれば変な匂いのする煙に過ぎず…小さなくしゃみ一つで消える極楽.「香,満ちたようでございます」と薬売りがこちらに辞儀すると,笛小路家は廃屋となり薬売りの姿も消える.…ユーモア溢れる展開,溜めに溜めた末に爆発する色と動きと音が凄まじい怪作! 次回,最終シリーズに続きます.

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