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モノノ怪#7

解ければそこには何もない

お蝶を牢から救い出して求婚し夫婦となりながらも薬売りに狐面に封じられてしまったモノノケ.しかしその真の形は未だわからぬままだ.薬売りは形を現さぬモノノケの真と理を先に明らかにするため,お蝶に彼女の過去を見せつける.第一番は牢獄同然であった彼女の嫁いだ家の台所.他の家族に虐げられ激しい情念を募らせるお蝶の過去を薬売りは笑う.そしてこの笑い事のために一体何人殺したのだと尋ねるのだった.
牢のような台所には小さな格子つきの窓があり,そこから覗く空にお蝶はいつも癒され憧れていた.見ているだけで幸せだったお蝶に,薬売りはなぜ逃げなかったのか,そして誰を殺したのかを繰り返し尋ねる.酷い仕打ちを受け,出ようと思えばすぐに出られたはずの台所からお蝶が逃げられなかったのはなぜか.そこには彼女が嫁ぐ前,幼い頃から彼女の母がお蝶に押し付け続けた仮面が関わっていた.

残忍で衝撃的な画で幻惑しつつも小さな世界の話を切々と描く「モノノ怪」.のっぺらぼう編の後編は前編で提示された謎に対する種明かし.彼女が殺したのは誰か,そしてモノノケの真の顔は…映像こそ派手なもののあくまで彼女の中の物語なので,ラストはやっかいな呪縛から解き放たれて拍子抜けするほどこじんまりと終わっていきます.…やっぱし幼少期からの親のエゴ押し付けな英才教育はダメだよな! 将来のためって言われたって,動物とまだあんまり変わらない子どもに「将来」なんて概念,まだろくにないわけだし.
とても個人的な,きっとお蝶の内面だけで完結してしまう小さな物語ではありますが,最後まで謎も残ります.出たくても出られない,そんな彼女の情念を受けてモノノケとなったアヤカシは一体どこから来たのか…前回の結婚式に彼の仲間のアヤカシたちが面の姿で出てきましたが,嫁いで来て閉じ込められたお蝶をずっと見守ってきた「もの」の候補はそれほど多くありません.

前半.今回はこの物語が個人の中で完結するものであることを確定するような薬売りとお蝶のモノローグからスタート.心の中の世界は個人のもので,出して比べたらそれぞれ違うはず.自分の思う自分と,自分ではない人の思う自分もきっと食い違う,根本の認識ではなにもかも違う他人同士が暮らすこの世界で,本当の自分はどこにいるのか.そして自分の中にしかいない「あなたは,だあれ」
前回お蝶の母の記憶と薬売りの連続攻撃を食らって負けた狐面のモノノケ.体を失い狐面だけという情けない状態になり下がってもその面の下は見せず,貴様の思い通りになってたまるかと笑う.形を見せぬしぶといモノノケを手のひらから連続して放つ符でぐるぐると巻いて黙らせる薬売り.「やれやれ,仕方がない」と呆れた口ぶりとは対象的な強硬ぶりは相変わらず.そして「芝居の続きを,はじめましょう」とお蝶に符で巻かれた面を渡します.
薬売りの見せる四幕の芝居.モノノケの形は人の因果と縁を示すもの.人間の情念や怨念にアヤカシが取り付くことでその形を得るわけですが,その形がなければ斬りようもない.面倒臭そうな口調で状況を語りつつ,己の周囲の空間に円筒に符を張り巡らせる薬売り.真と理と形がないと切れないのにまだ形を現さないなんて,「実に,めんどくさい,モノノケだ」
ゆえに空中で円く繋げた符の列を帯状にまとめて放って四角く区切り,薬売りとお蝶と面だけの空間をモノノケの世界から切り離す.真とは事の有様,理とは心の有様.しぶといモノノケが形を現さないなら,残る2つを教え見せつけなければなりません.「…真と,理を,ね」…モノノケの存在で赤く染まる符の部屋そのものがスクリーン.そこに映し出される「お蝶の一生,第1番」.
符の銀幕に浮かぶのはお蝶の嫁ぎ先佐々木家の嫁いびり.相変わらず顔のない佐々木家の面々が彼女をいびる言葉にひいいうううと頭を抱えるお蝶,もがく面.そして悲劇を被害者に見せつけながら,モノノケが取り付くには絶好の情念具合と実に楽しそうな薬売り.苦しんでる割に「笑い事ではありません」とお蝶が果敢にもツッコミを入れていますが(笑)人の悪い薬売りは「笑い事ですよ」とさらり.
「この笑い事のために,あなたは,一体何人,殺したんです?」…薬売りがループの中で繰り返す問い.繰り返された無数の悲劇の中で積み上げられた骸は数知れず.それはお蝶がモノノケの力に甘えた結果.さらに「覚えているか」と薬売りが見て示すのが格子の入った小さな窓と,その中の空.あの台所でお蝶が毎日見ていた空からは鶯の声,黄色い雲が浮かんでいる.
牢の如き台所で彼女を慰め続けた小さな空.他の家族にいじめられたお蝶が憧れたもの.いつだって死んだ目で俯いていた彼女がそっと見上げていた逃げ場.解放される外から聞こえる鴬の声に,ほうっと息をつき微笑むことさえできた….けれどお蝶にできたのは見上げるところまで.「何故,ここから逃げ出さなかった?」…薬売りの優しい問いが深く突き刺さる.
封じられた狐面はやめろやめろと騒ぐけれど,薬売りの問いは止まらない.「あなたが本当に殺したのは,誰だ?」「お蝶さん,誰を,殺した」…執拗に繰り返される言葉にやめろおお!と符を突き抜ける叫びを上げる狐の面.「これ以上,お蝶さんの心に踏み入るなぁああ!」…けれどここは符の作り出す結界の中.薬売りの揺さぶりは止まず,2つのイメージは重なり合ってモノノケの真と理をあぶり出す.
お蝶がいるのは前編冒頭の牢の中,薬売りは牢の外.そこは閉ざされていると思えば牢になり,出たくないと思えば城になる「あの場所と,同じだ」.まったく同じ構図で場所は台所へと変わる.この小さな部屋を彼女は牢と思い込んだ…薬売りの言葉はゆっくりと溶けてお蝶の腑へと染み通っていく.囚われていると思い込んだ過去の自分は「なんで逃げなかったんだろう」
退魔の剣はまだ鳴らず,真も理もまだ先…過去にある.別の時間別の場所,お蝶は母にこう言われた.お蝶は自分の若い頃に生き写しだと.その美しさがあれば必ず武家の奥方になれると.その頃から既に母の顔の上には仮面があって,お蝶には母の顔が見えなくなっていた.そして彼女自身も仮面をつけさせられていた…仮面は彼女の生まれにすら食い込んでいて,「こいつぁ,しぶとい」

後半.時と心の奥底でお蝶は思い出す.「私は,母上様が好きでした」…狐面が相変わらず喋らなくていいとうるさいため(笑)芝居の邪魔と符の力で黙らせる薬売り.お蝶の一生第2番は、彼女が佐々木家に嫁ぐ前の出来事.母は石取りの家に嫁がせるために彼女に茶や琴や花を仕込み,娘は母の欲する良い子を演じ続けた.娘は母が大好きだったから…「耐えたのか」「え」「自分の心を,なくしてまで」
あの頃.母はうまくできない自分をひどく叱責し,自分はごめんなさいを繰り返した…そんな自分からすうっと抜け出したもう一人の自分は,琴の練習を放り出して抜け出し鞠で遊んでいた.夢想.自分が本当はやりたかったこと.嘘,嘘,嘘,嘘とお蝶は繰り返し,けれど光景は目の前から消えない.本当は自由に遊びたかった,思い通りにしたかった…母に内心逆らう自分を見せ付けられて,「もうやめて」とお蝶はかぼそい悲鳴を上げる.
「お蝶の一生,第3番」.やりたくないことやらされて,その末に佐々木家に嫁ぐことになったお蝶.娘を侍の嫁にするという夢を叶えた母は,どこに出しても恥ずかしくないよう躾けてきましたと平伏.後妻を迎える佐々木家は祝言の席から居丈高で,あれほど厳しく躾けられた茶も琴も花もろくに評価はせず,それでもお蝶のこれまでの半生をつくってきた母はみっともなく平伏するばかり….
連れ合いを早くに失い家禄を召し上げられた母に残された唯一の生きがいが,お蝶を武家に嫁がせること.それが梅沢家のためと信じて母は突き進み…お蝶は願いを叶えるための道具になったのかと薬売りに問われ,違いますと即座に否定.けれど「では,あれはなんだ」と薬売りが見せるのは彼女を招く手.襖の画の木の陰から招く手はモノノケ.佐々木家に身も心も捧げたはずの自分からもう一人の自分が抜け出し,勝手に恋に落ちていく.
母の願いのために自分の心を無くし,母の願いのために自らを道具と化したお蝶.よい娘の仮面をつけて自分の意志を表に出さずに押し込めてきた彼女は恋をした.「だが,その恋をした相手は,誰だ」…この世界の根幹を示す「お蝶の一生,第4番」は,1番と同じあの台所.佐々木家の面々は彼女が苦労して身に付けされた教育ごと彼女をバカにして,誰も彼女のことを認めないときに現れたあのモノノケは誰だ.
憧れた窓ではない方向,壁の梅の木の後ろから現れた狐面の男は彼女の手に包丁を渡した.「お蝶さん,誰を,殺した」かんかんと拍子木,狐面が舞う.やめて,やめてと人殺しの女は繰り返す.「やめてええええええぇ」…牢の中ですら結われていた髪も解けるほどにやめてを繰り返して苦しむ.モノノケの形は近く符は赤く染まる.「…お蝶さん,その面は,モノノケでは,ありません」
薬売りは言う.モノノケが面の男を操って,あなたを欺き佐々木家に縛りつけた.「それが,真」…その言葉が真実であることを示すように退魔の剣はきんと鳴るのに,「嘘」と恐ろしい声でお蝶は否定する.違う違うと髪を振り乱す女にさらに言う薬売り.母親の歪な愛情を受け止めようとして,心が歪んでモノノケが取り付いた.「それが,理」…またもきんと鳴る退魔の剣.…彼女は母が好きだった,だから頑張った.精一杯頑張った.頑張ったけれど…,
お蝶の母は押し付けるばかり.娘の言葉に耳を傾けてはくれなかった.自分の目的のためならば娘の心は無視.あんなに嫌で,いつだっていつだって心の中では悲鳴を上げていたのに,幼い頃からの押し付けと抑圧でそれがお蝶には言えなかった.…心の中では泣き声で繰り返していたのだ.「母さま,聞いて,聞いてよう…」「どうして話を,聞いてくれないの」
お蝶は母に自分の言葉を聞いてほしかった.良い娘の仮面の下の素顔を見てほしかった.本当に,本当に…「私,私…」…いつしかすすり泣く声は「私…ばっかみたい」と反転する! いい大人が今更母に話を聞いて欲しくて泣くなんてどうかしている.薬売りに現実を見せつけられたおかげで現状を客観視できるようになり,彼女の生まれに食い込んでいた仮面の呪縛が,ついにぐらつきはじめたのです.
符は消えて彼女が本当に殺した者が誰であるかが明らかになる.薬売りの鏡に浮かぶ殺された者たちは.「みんな…わたし…?」 呆然とするお蝶の手の中の面からは薬売りの符が滑り落ちる.…彼女に殺し続けてきたのは彼女自身に他ならない.「他人の欲望のために,己の面を忘れた,モノノケ,形を,現せ」…薬売りの鏡に映った己の手元.符が落ちた面は…「私!」きんと鳴る退魔の剣.「モノノケは,私!」悲鳴を上げる!
形と真と理,全てが揃って終わりの時.座るお蝶は自分の背後に立つ金色の存在に聞く.「のっぺらぼうは,なぜ,なぜ私を助けてくれたのでしょう」…長く伸びた退魔の剣を持つ彼は「救われたなどと,思っているのか」と剣のように厳しい.そのかわりに「強いて言うならば」と答えるのは彼女の前に座った薬売り.「恋でも,したんじゃないですかね.あなたに」と.
お蝶の傍にいてお蝶の情念でモノノケとなり,そしてお蝶に恋をしたのか.彼女を救うために何度も彼女を殺す手伝いをした愚かなのっぺらぼう.その恋が「叶うわけなどないのに,悲しき,モノノケだ」…薬売りの優しい声.苦しむお蝶を救いたい,ここから出ていかないでもらいたい.人外なりに頑張って薬売りとも渡り合い,幸せな結婚の夢さえも垣間見せてくれた優しい彼に,そしてその夢を破った彼に「ありがとう,もう大丈夫」と告げて,そして.

お蝶の一生第5番は4番と同じ光景.苛められたお蝶は窓の外をじっと見て,そして自由に鳴く鶯のように逃げ出した.動かぬはずの壁の絵の鶯も消え,台所に残るのは彼女をここで見つめ続けた梅木の絵.…お蝶の情念に触れてモノノケとなったのっぺらぼうの正体は,この台所の絵の梅木だったのではあるまいか.部屋に残るは梅の木の絵と,同じくお蝶を見つめ続けた台所道具と,煙管をふかす薬売りのみ.
ふうっと紫煙を,既に開かれた牢に漂わせる薬売り.未だ気づかぬ家人たちが乱暴にお蝶を呼ぶけれど…「しかし,誰も,いない」…勝手口は開き,薬売りすらここにはいない.トラウマを超えて分裂していた自分自身を取り戻した彼女は既に牢としての力を失った過去の城からひとり抜け出していきます.…あの状況でツッコみ出来るほど根の強いお蝶さんなら,きっと一人でも大丈夫に違いない(笑).次回に続きます.

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