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モノノ怪#12

新しい世界,新しいモノノケ

地下鉄1両目に市川節子の死に関わる者たちを集めた化猫は,それぞれから情報を引き出した上で片付けていった.最後に再び車両に戻されたのは毎朝新聞社のデスク,森谷清.市川節子の上司であり未だ真実を語っていない彼に,化猫は真実を見せつける.それは何も語らぬうちに車両から落ちた福田市長の物語でもあった.
福田市長の汚職の証拠を掴んだ市川節子は,森谷に認めさせるために汚職の証拠を掴んで新聞社に戻った.森谷は1面に載せるこの記事を市川一人で仕上げるように命じる.特ダネが社内にも漏れないようにと缶詰まで命じられた市川は認められたと感激し涙を流すが,森谷は彼女を旅館へと送り出した後,ある場所へ電話をかけていた.

あの映像で1クールなんて暴挙にしか思われなかった第2期シリーズもちゃんと完結.12話無事に走っただけでかなり偉すぎる「モノノ怪」.さすがに初代「化猫」の凄さを越えることはできませんでしたが,「鵺」のような回を重ねなければできないものもちゃんと生まれたので,シリーズとしてはなかなかの完成度となったんじゃないかと思います.毎回初代「化猫」クオリティでは,いくら東映でも制作現場が完全にぶっ壊れるだろう(苦笑).
初代の影を引きずる2代目「化猫」のクライマックスは,市川節子殺しの真相の暴露であり,登場人物たちの最も汚い部分の暴露でもあります.暴露は真犯人のみならず被害者の市川節子も例外でなく,ひたすら気の毒で美しいだけだった初代「化猫」の姫様とは大違い…けれど同じ立場なら,無力な姫様も高慢な市川節子となるのではあるまいか….人間は時を経れば世界だけでなく心や欲望すら変え,そこからは新しいモノノケが生まれてくるのです.

前半.1つ車両に集められ,恐怖で真相を吐かされて,そして降ろされ殺される.薬売りのみ車両に残った前回ラストでたった一人戻ってきたのは,紫色の縁に黄色い目の記者…どうやら化猫に憑依されている様子.形を得たモノノケを叩き切るべく構える薬売りだけれど,ふっと化猫は離れて元に戻る記者.他の連中は皆降りて,今は「あなたの番だ」…一度は語ったはずの記者.しかし皆の待つ真相は,未だ彼の口の中に.
語り終わらねば電車は止まらない.けれど記者は「知らん!」「嫌だ,ごめんだ!」「なんとかしてくれ,あんたなら,できるんだろう!」…頭を抱える.自分はただ殺されたかわいそうな市川節子の恨みを晴らすべくここに来たと言う言葉を否定するように鳴る鈴の音,反応する天秤…少年の目にしか見えなかったはずの,前方座席に座る白い彼女の姿が見える.「モ…リヤ…サン…ヒドイ…ヒト…」…主婦にしか聞こえなかったはずの声が聞こえる.
往生際の悪い記者に向かい,化猫は…市川節子は車窓に過去の事実を映す,ミテ,ミテ,ミセテ…それはこの車両に集められた人々と市川節子が織り成した無残な物語の顛末.その記憶は理を,理は因果と縁を呼び起こす.猫に覆われる記者は,無念を晴らしに来たと言った口で「お前が悪いんだぁぁー!」と絶叫.「全ては,さか,しま,に」…猫に襲われる記者と,猫を抱いた白い洋装の女性を乗せてあの陸橋へ地下鉄は走る.薬売りの「理の景色,見せて,いただく」という言葉に,市川節子…化猫は笑う.
この物語は,新進気鋭で生意気な市川節子がデスクの森谷清に談判に来たときから始まった.彼女が持ち込んだネタは福田市長の汚職事件.市長が鉄道会社の重役と頻繁に会っていることを掴んで追いかけた彼女は本誌で取り上げるように訴えにきたのだけれど,会社の格もある,その程度では記事にできないとデスクの反応は鈍い.そんな森谷清に「そんなこと言って,やっかんでいるんじゃありませんか」と小生意気なことを言い出す彼女.
勝気で短気で男勝りで,才長けているものの目上に対する態度がなってない市川節子.デスクに向かい,特ダネをすっぱ抜いたからひがんでいるのだろうと自意識過剰な言葉を堂々と会社で口に出す.そんな生意気に森谷清は,女の言いそうなこと,空回りが過ぎる,外回りに出したのは失敗と彼女の努力を全否定…女を明らかに蔑視する彼の元に,男勝りの市川節子が配属されたことが最悪だったのか.
森谷清に相手にされなくても,市川節子が諦めなかったのもまた不幸なこと.彼女は料亭吉祥へと単身赴き,汚職の証拠を見事カメラに収めることに成功.「負けるもんか」の気合で捉えた決定的瞬間を現像しまたもデスクへと持ち込んで,「これでも話になりませんか」…翌日,9時20分過ぎ.その写真を目にした森谷清は「俺の思ったとおりだ」と突如態度を変える.きついことを言った,許してくれとまで…あれだけ女を馬鹿にしていた男なのに.
俺は君を見込んでいたから厳しくしていたのだと森谷清.昨日撮った写真が彼女と自分以外の目に触れていないのを確認した上,市川節子に社の外に出ろと命令します.…特ダネだから社内の誰にも聞かせたくないと,2人でやってきたカンカンカフェ.広げた写真には鉄道会社の取締役や建設会社の社長と一緒の市長の姿がばっちり.電鉄の便宜を図り条例を通し,その見返りに賄賂をもらう.賄賂が振り込まれた銀行すらも,市川節子は既に目星をつけている.
完璧で十二分な市川節子の調べぶりに,ここまで裏が取れているなら記事にしろとデスクは命令.時間はないものの明日の夜まで執筆し,明後日には紙面に掲載と言われて驚く彼女.「私が,記事,全部を…」…森谷清に当たり前と言われ,うれしくて泣き出した市川節子! 「ありがとうございます…私,森谷さんのこと,誤解してました」…はねっかえりのいけすかない女は,自分の仕事が認められたことに泣く.
女がまともな取材をできるわけないと思われていると思ってた市川節子に,そんなことはないと森谷清は答え…そのやりとりに意味ありげに笑う証拠写真の中の市長.それは彼女を泣かせた言葉の正体を知っているから….そして事件は犯行に向けて走り出す.市川節子は旅館で缶詰に.記事の差し替えも当日に森谷清がやると言い,泣いて赤い目の彼女はその言葉を信頼して従ってカンカンカフェを離れ…けれど森谷清はその夜,電話をかけることで裏切っていた.
…つり革を握る手,野本チヨのもの.その日も夜のカンカンカフェでいかがわしい営業に励んでいた彼女.女優になるためならば手段を選ばない彼女の名声欲.「こんなところで一生くすぶっているなんて,絶対嫌!」…つり革を握る手,福田寿太郎のもの.森谷清から電話を受けて市庁舎から待っていたのは,市川節子に撮影された市長その人.「昨夜は久しぶりに,肝を潰したぞ」

後半.こなた旅館で市川節子が缶詰になる頃,…吊り革を握る手,山口ハルのもの.死んだ亭主の母,要するに他人とともに暮らす鬱々とした日常を忘れるために新しい男に走った彼女.年寄りの世話ばっかりやっちゃいられない.あの人がいるからあたしは生きていられるんだ…ならば世間体など考えずに走ればいいのに,それを表に出さないことが彼女の罪.
缶詰になっている市川節子の元には,電話の取り次ぎに旅館の仲居が来る.用件を伝えても動かない彼女に無造作にチップを渡す彼女は,自分と同じ女性を蔑視する…森谷清のように.嫌だ嫌だと馬鹿にする彼女の目,職業蔑視.その実態を知らず他人を馬鹿にして,「私はよかった.あんな負け犬とは違う,新聞記者様なんだから」…この描写がなければ化猫に感情移入できたんだけど,卑小で高慢な市川節子を見てしまうとどうにも,なぁ(笑).
電話で呼び出されて夜を歩く彼女.通り過ぎるカンカンカフェの中では客にしなだれかかるチヨの姿が,デビューの話を「どうして断っちゃったんだろうなぁ!」なんて,どこまでが本当かわからぬ話をする彼女の後ろを,市川節子は真実を抱えていく.…待ち合わせ場所は夜の陸橋.待っていたのは森谷清,彼はやたらと周囲を警戒している.「それほどのネタだってことだよ」「まさか,命が狙われるわけでなし」
…電車の中.回想を見せつけられる森谷清,俺はあいつの身を案じて忠告しにいっただけだと猫玉の中で叫ぶ! けれどそれが真実ならば,わざわざ一人だけここに呼び戻されたりはしないのだ.薬売りの手の中の剣の口は理に合点して今にも閉じそうな勢い.それを薬売りは「そう急くな」となだめる.…やっぱりこのシリーズでも,薬売りや退魔の剣の正体はわからなかったなぁ(苦笑).
そして市川節子から原稿を受け取ろうとする森谷清.何かに感づいたのか原稿を手渡すときに彼女は少し戸惑い…けれど渡すと,森谷清はそれに彼女の目の前で火をつけた! 中も読まずに渾身の原稿を燃やすデスクはこの行為を命令だと言う.「誰の!」…山村牛乳販売店では,今声をかけられ起こされようとする少年.二人以外の世界には平和な朝が訪れようとしている.
原稿を燃やすなんて越権行為!上に訴える!ときゃんきゃん吠える市川節子.けれど森谷清は上も通しているしそもそも最初からこうするつもり…裏で手を結ぶ権力者たちは,彼女がすっぱ抜いたつもりの汚職の構造と同じ.「社長に言ってやる! あんたなんかクビよ!」なんて叫びが世間に届くわけがなく,森谷清は酷薄に笑う….殴りかかる彼女は一押しで倒れるほど脆弱.どれほど高慢だろうと才能があろうと女は女で,男の力に勝てるわけがない.
倒された市川節子,はだける服,覗く下着と胸…男からすればたかが女.「妬みでお前を潰そうとしてる? 大笑いだ,そんなちんけなことで動くわけがない.所詮は女だな,肝心なところに頭が回らない…」 市川節子以上に尊大な彼は内通者.毎朝新聞でこれまでも,市長に繋がるスキャンダルを潰してきたのだ! 女は視野が狭い.空気が読めない…己の不正を視野の広さや空気読む力に入れ替える彼には「記事にする気は,なかったと」…ずっと見ていた薬売りが呟く.
けれど今度は市川節子が笑い出す.「別のところに持ち込んでやる! 証拠だって,まだあるんだから!」…何かを予感していたのか,同じ記事を旅館に残していた彼女は走って逃げ出すけれど,それをわざわざ森谷清の前で宣言する彼女は確かに空気を読めてない! すぐに森谷清は彼女を捕まえ,二人の揉みあい争う声は周囲に響き渡り…至福の床の中へも伝わる.男と一緒に眠り「あのババア,早く死ねばいい」と呪う彼女の耳にも.
陸橋へと迫る早朝の電車.そこに迫る電車の運転手は眠い…つり革を握る手,木下文平のもの.やがて夜明けを迎える陸橋で,気を失った彼女を欄干で抱える森谷清…彼の左右に伸びる彼女の白い足.「やっぱり馬鹿な女だ,折角忠告してやってるのに」「自分から死んだと」…背後から茶々を入れる薬売りの声に振り返っても,後ろには靴しか転がっていない.けれど前に向き直ると市川節子が意識を取り戻して悪鬼の形相で迫り!
…慌てた森谷清は市川節子を陸橋から突き落とす.その悲鳴は布団の中にまで響いていた.落ちた女を見下ろす森谷清は呟く.「意気軒昂な女記者が,夢破れ自殺ってか」…真実を伝えるべき記者はもう事実を曲げて,その姿を新聞配達の少年が見ている.落とされた彼女には意識はあるも体が動かない.電車は迫り…運転士は本当は居眠りしていた.落ちて動けない,しかし意識のまだある市川節子に迫る,死.
いくら心の中で叫んでも,外に届くわけがない.気づいたとしてももう遅いのだ.自分は死ぬ.森谷清に殺されて死ぬ.けれどそれに誰も気づかない…「ユルサナイ…ユルサナイ…」彼女の涙に気づけるのは傍にいる猫くらい.彼女から流れ出る悪夢混じりの血を舐める猫.電車は止まらない! 「嫌ダァァァァァァ!」…午前五時.森谷清は新聞の埋め草にもならない事件を生み,その罪は周囲のエゴで覆い隠され,化猫となった彼女は言った.「ユルサ・ナイ」
形真理の三つを得てついに閉じた退魔の剣.動き出す薬売り.モノノケの形を成すのはアヤカシの器に人の因果と縁…それぞれには罪なく,むしろ哀れで.けれど一度それがアヤカシの世界を抜けて人の世に現れたならば「斬らねば,ならぬ」…闇を走る地下鉄.周囲には黄色い無数の猫の目が整然と並ぶ.剣は吼え,迫る市川節子の手は赤い闇の集合となって襲い,薬売りは頭に傷を負う…垂れる血.けれどそれは人間の血なのか?
退魔の剣の依巫である薬売りは荒ぶる魂に言う.「ここは既に,化猫…よって,清め,払うぞ.鎮まれ,モノノケ,…解き,放つ」…頭上と足の下より迫る巨大な闇の足を,薬売りの金の符が食い止める.解き放たれた退魔の剣によって金色の変生を為し,そのまま剣を掴んで輝く刀身を引き出した…のは夢? 電車の中で目覚める森谷清.マネキンではなく普通の人々が乗るあの地下鉄,あの朝,もうすぐ10時.あれは夢? 助かったのか?
危機から不意に放り出されて,「白昼夢って奴か,らしくもねえ」と悪を気取る彼.悪いな市川,恨むなよ…なんて,少なくともここまで来てモノノケから逃げ切れるわけがない.9時59分58秒,10時までたった2秒の壁は破れず逆回転する秒針,人々は全てマネキン.無音無人の車内に倒れているのは…福田寿太郎.息を呑む森谷清.滅される間際まで二人の男を手放さなかったのは白い洋装の…「ユルサ・ナイ」.…そして,薬売りはモノノケを斬った.

こうして終わった今回の化猫事件,最後はエンディングに乗せて後日譚.地下鉄開業式の後,市川節子殺しはやっと事件になりました.刑事は運転士を取り調べ,毎朝新聞以外の他紙では女性記者の不審死と社員・市長の行方不明が報じられ,主犯が行方不明のままで収賄事件は世間を騒がせる大事に.うら若き新聞記者が命を落とした陸橋には,その死を悼む者たちが捧げる花がいくつか.あの主婦も,男とは縁を切ったのか郵便箱に鍵を戻して現場に向かいます.
事件現場に集まる,女給,新聞記者,主婦.なんとか化猫には殺されずに済んだものの,自分たちの罪を見せ付けられた三人は迷惑をかけた彼女の死を悼んで現場に集まり…見下ろすと,あの時自分たちを見ているばかりだった薬売りが猫を撫でている.今までで一番優しい顔の薬売りの前に現れる沢山の猫たち.カラーをつけた猫に率いられて猫たちは消えた…彼らが化猫を作り出したアヤカシ.電車に轢かれて死んでいった猫たちか.
そして薬売りによる終わりの口上.人は世に生まれアヤカシは世にあり,生まれるものとあるものが真と理を伴えば形を得てモノノケとなる.…恐らくは時代を経てもモノノケを絶やすことなどできず,現在でも,新しい時代のアヤカシと人が新しいモノノケを作り出すのでしょう.けれどモノノケの反存在のように,斬り払う剣があり,剣を使う手がある.「モノノケが人の世に,ある限り」 かん,と剣は閉じ線路の上には誰もいない.
モノノケのいない世界には,退魔の剣も存在せず,退魔の剣がなければ薬売りもいない.ならば人さえいればどの時代であろうとも薬売りはいるのだろうし,そして相変わらずあの調子で周囲を翻弄しているんでしょう.…縄文時代とかSFな未来でもあの格好であの調子だったらどうしよう(笑).化猫はまた別の時代,同じキャストでやってもらいたいので,次期シリーズを強く希望したいと思います.面白かったです!

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