焼きたて!!ジャぱん#69

「心侵して完全勝利!の巻」

ついに残り1マスとなった「焼きたて9」最終戦.舞台は和馬の郷里である新潟,テーマは「日本のパン」,そして敵は実父である霧崎オーナーを憎んでいたはずのマイスター霧崎! 祖父たちやこれまで出会った人々に見守られつつ,和馬は渾身のジャぱんを作る.素材の面ではマイスターが一見有利.実際にマイスターの作り出したおまんたゴぱんを口にした黒やんは,リアクションのために審査を放り出して旅立ってしまう.このような場合は代理審査員として霧崎オーナーともう一人の審査員が必要なのだが,パンタジア側で今すぐ適切な審査員を準備できなければ,オーナー審査によって和馬の負けが決まってしまう.もはや打つ手のないパンタジアに残されているのは祈ることだけ.そしてその祈りに答えて登場したのは,実にお久しぶりのあの男だった.

パンによるリアクションで笑いと権利の縁を1年半に渡って爆走し,とうとう終着点にたどり着く「ジャぱん」.グルメ漫画の構造を使いグルメ漫画のおかしさを指摘し笑ってきた皮肉屋の原作を熱血アニメ風に調理して,毎週のようにおいしく食べさせてくれた本作も今週で見納めです.
タイアップの都合で時間に振り回されながらも割となんとかしてきた本作らしく,最終回は実に見事な駆け足.本来3話かけたいところを1話でやっちゃう一気可成なクライマックスは,語り足りないところは残るけれどそれを補って余りあるほどに爽快! 激しいリアクションと権利への飽くなき挑戦はいつも通りに,そしていつだって場違いにまともなパンうんちくは,驚きのオチへと繋がっていきます.これまでそのままじゃ使えない原作をきっちり料理しきったアニメスタッフの皆様,本当にお疲れさまでした!

今回はオープニングなしでいきなり決戦.「焼きたて9」最終決戦の舞台は新潟県糸魚川市・能生.どちらが最後のパネルが取るかで勝負が決まるという,最終回らしい最終決戦です.パンタジアがたった1敗でパネルをあらかた取られてしまったのは皆様御存知の通り.大一番に挑む和馬がこねるのは緑色の生地.開催地は新潟出身の和馬にとって大変に有利.けれど敵は霧崎オーナーの息子,マイスター霧崎! 味方であるはずの彼はなぜかサンピエール代表として,和馬の前に立ち塞がります.
今回の会場には地元なので和馬の家族が,そして最終戦なので主要な仲間やライバルたちも姿を見せています…木下までも(笑)! 相変わらずナチュラルに無視されているのが気の毒です.中でも一番複雑な気分なのはマイスター霧崎の妹であり霧崎オーナーの娘であるソフィでしょう.あれほど憎んでいた父の元でなぜ兄が戦っているのか,理由がちっともわからない.
幼い息子と娘を外国に見捨てて出奔した父.ひもじい子どもたちの前で自分の焼いたパンをばりばり食った人非人.パンタジアに対し執拗な攻撃を仕掛けてきたラスボス.これがパンタジア側の知る霧崎オーナーの姿ですが,一時はサンピエール側に回ったシャチホコには疑問が.なぜ,マイスターもソフィーも結局パン職人を目指したのか? 憎むべき父と同じ道は絶対に歩みたくないと思うのが普通なのに.…ソフィさんはパンが美味そうだったから!と断固否定をしてますが,わざわざこの道を歩いたのは.やはり父を無意識に求めてのこと?
さて,パンを食うまでは審査員も観客の一人.ただし極上のリアクションのためにはパンの特徴を製作過程で掴んでおきたい.黒やんの見立てでは素材に関してはマイスターが圧倒的に有利.しかしこれまで,製作中には予想もつかないとんでもないパンが和馬の手から作られてきたことを忘れてはなりません.ちなみにマイスターの極上素材の中では「おまんた米」がともかく不安.…きっと原作なら迷わず洒落にならないことになります(笑).
超一流のマイスターの素材に比べると,和馬の素材はどうにも地味なものばかり.とはいえ初めて地の利を得た和馬が持ってきた素材は決して侮れない.祖父たちに手配してもらった完全無農薬米や野生ヨモギは一流のもので,さらに過去黒やんを天国に吹っ飛ばしたあのペターライトまで復活しています.そして全ての決め手となるのが味噌.これがこの先の全ての鍵となります.
霧崎オーナーに妨害禁止を言い渡された雪乃には歯噛みするしかないクリーンな最終戦.対等な条件で争ってパンタジアが負ければ和馬の心も傷つくだろうし,万が一マイスターが負けたとしてもパンタジア所属の職人ということでサンピエール本体には塁が及ばないという,かなり陰険で計算された状況ではないかな.マイスターは和馬と戦いたくて行ったのだと実際にそれをやった諏訪原が主張してますが,1職人ならともかく,経営にも深く関わる顧問クラスがそれをやっていいのかどうかは大変に疑問の残るところです(苦笑).
数々の修羅場を乗り越えてきた和馬の腕前は,特にパンに関しては本作最強と言い切っても問題なし.そもそも登場時から圧倒的な腕前を示してきた天才は,問題を解決するため,そして挑んでくる敵を叩きのめすために比類ない腕を磨きに磨いてきました.河内が最初から置き去りなのはまあ当然として(笑)周囲からは天才と思われている冠ですらも,素材などのアドバイスはできてもパン本体への助力はできなかったわけで,和馬がこれまで意外と孤独であったことがわかります.
和馬がここまで一人腕を磨き続けて来たのは「ジャぱん」のため.日本人の日本人による日本人のためのパンという途方もなく高い目標があったからこそ,本質的には孤独でもモチベーションは落ちないままにここまで来て,会場で仲間たちがようやく気がつく和馬のいる場所.最近ジャぱん○号ってつけてないというどうでもよさそうなことこそが成長の印.モナコカップまでの試作品から脱却しジャぱんを完成させつつある証!…って,実に地味で丁寧な伏線.そんな繊細さは誰も期待してませんけど(笑).
超一流材料でおまんたなマイスターのカニパンと,ジャぱんとしての完成型である和馬のヨモギ味噌パン.2種とも見事焼き上がって黒やんに試食してもらうことになるわけですが,先に食われるのはマイスターの方.なんせペターライトはリアクション的に天国に行く可能性が高いので,審査放棄の可能性を減らすためにも少し冷ますことに.…ここで最後のパンを食われることになったパンタジアの勝利が料理バトルアニメのお約束から内定したようです.おめでとうございます(笑).
名前からして大変に危険な三角形のおまんたゴぱん.黒やんが食したその味わいは,夜空には花火が上がり,三波先生のおまんた囃子が鳴り止まない幻覚を食うものと観客に感じさせる比較的スタンダードなもの.放送できないようなリアクションでなくて本当によかった.黒やんにぎりぎりの節度があって本当によかった! さらにその米の素晴らしさをその身でもって讃えるべく,自らマンタとなって7つの海に回遊に出掛ける黒やん…結局立派な審査放棄.和馬のパンを後回しにした意味がいきなりなくなってますよこのダメ変人審査員め!
審査員が7つの海に回遊に出掛けて職場放棄するという,不測の事態に困るのはもちろんパンタジア側.その素晴らしい読みによってこの事態を狙いマイスターにあのパンを作らせたのではないかと思われる霧崎オーナーは,ルールを遵守した上でパンタジアの敗北を自ら宣言できる位置につきます.こんな時には,両会社のオーナーと両社に無関係な審査員を立てなばならない.しかし都合よく鋭敏な味覚を持つ無関係の審査員がいるわけもなし,和馬のパンはどんどん冷めていくし….
最終回で彼らを襲う,回避不能の大ピンチ.もはや彼らにできることは祈ることだけ…というわけで,月乃さんがピエロンリングに祈ったならば,原理は不明なれどあの世界レベルのピエロが勇者として飛んできた! お久しぶり(笑)! モナコカップ編ラストの指輪の伏線はここで回収.伏線処理のような細かいことは期待していませんが,シリーズ中屈指の素晴らしいキャラをここに連れてきてくれてありがとう! モナコの皇太子ならば審査員に不足なしと判断されて,ついに最後のリアクションがスタートします.

後半.ついに始まる最終最後のリアクション.普通のヨモギパンにしか見えない和馬のジャぱんを食ったオーナーとピエロが見たのは…古い新潟の記憶.幼い和馬と町のパン屋・サンピエール店主の思い出.この映像は霧崎オーナーの頭の中に10年も寝かされていた記憶.フランスに子ども達を置き去りに帰国した霧崎は,一時新潟で小さな店を営んだあとで東京に進出し,たった10年で老舗のパンタジアを越える規模のパンチェーンを作り上げたことになります.
そして当時のオーナーに東京に出る勇気を与えたものこそ,パンに当時からひどく熱心だった幼い和馬の姿.霧崎オーナーこそが和馬が初めて会ったパン職人であり,あの出会いがなければこんな凄く変な話は生まれなかったはず.あのときの言葉に従ってジャぱんを追い求めた和馬と,今や大会社のオーナーとなった霧崎.和馬はあの当時から何も変わらないのに,霧崎はまるで別人.霧崎がなぜ,パンタジアごと和馬を叩き潰そうとするのか.自分が言った「ジャぱん」をなぜ自ら殺そうとするのか.それは一瞬だけ感覚を共有したピエロには計り知れないところで….
和馬のパンへのリアクションは回想劇であっさり終了! 幻覚の中には米もヨモギもペターライトも出て来ない! 引き続いて2人が食べたおまんたゴぱんには黒やんと同じ幻覚が浮かんでいるので,2人のパンに対する感受性が黒やんに比べ鈍いわけでもないようだし…って,臨時の審査員までマンタとなって7つの海を回遊に出かけてどうする(笑).こんな極端なリアクションは無視するのかと思ったけど,霧崎オーナーも意外とつき合いがいいよなぁ.そして2人と入れ替わりに黒やんが会場に回帰! さっきまでの代理審査員探しの意味が…(苦笑).
7つの海を泳ぎリアクションを完了させてきた黒やんは,相当冷えた和馬のパンを続いて食って「ジャぱーん!」と過去回想と同じく本作としては実に地味なリアクション.権利的にはかなり厳しいらしいけど,そんなヤバさでパンの味が評価される本作はやはりどうかしている(苦笑).そして,ジャぱんへのリアクションは未だ終わらない.眼鏡をかけてまじめな口調で「発表したいと思います」だなんて言いだす横暴で尊大で唯我独尊のはずの黒やんの態度こそ,和馬のパンの真の恐ろしさの発露です!
マイスター霧崎のおまんたゴぱんは審査員たちに同じ光景を見せた優れもの.素材の配合へのこだわりも優れていた上に,焼いたカニが素晴らしいと黒やんも大絶賛! 対する和馬のジャぱんも無農薬な生地,ヨモギの味わいと香り,ペターライトによる焼き加減が素晴らしいとこれまた絶賛する黒やん.しかし和馬の祖父たちの奮闘と期待も空しく,このジャぱんの最大功労者は,超一流の材料に手間と時間をたっぷりかけられてつくられた能生味噌.そして個性の強い素材をまとめ上げ,美しいハーモニーを作り増幅させた太陽の手の力が素晴らしい!
ここで回遊を終えたピエロが帰還.ここまでの黒やんの和馬のパンへの賞賛の言葉が真実ならば,あのリアクションはあまりにも地味.しかし和馬のパンの影響の真価は幻覚ではなく,食った奴自身の内部に現れます.…ピエロをシリアスにし,黒やんを丁寧にする,能生味噌による脳味噌への刺激が本来の性格を引き出すという人格リセット効果を持つこのジャぱんは.あの歴史を変えた大麻ジャぱんすら越える大傑作!
で,肝心の審査の結果は…黒やんもピエロも「引き分け」! 最終審査は残る代行審査員であり現在7つの海を回遊中の霧崎オーナーに委ねられてしまいました.このままでは霧崎の判定によってパンタジアは確実に負ける.ピエロまで呼んだ折角の奇跡も空しく霧崎オーナーは帰還して,そして…
「私がおいしいと感じたのは…パンタジア,東和馬君の,能生味噌ジャぱんだよ」

…霧崎オーナーの優しい顔を見た瞬間にそんなふざけたことを言い出した理由までもがわかる,あっと驚く大逆転! 和馬のパンの能生味噌は霧崎オーナーの頭脳を餌食とし,優しくてまともな人格を表に出してしまったがゆえのどんでん返し! 人を殺し過去を改変してきた和馬のジャぱんはついにラスボスを洗脳するという偉業を成し遂げたのでありました.結果,パネルは5対4となりパンタジアの勝利! パンタジアの権利は晴れて月乃のものに!
おいしいパンは人を幸せにするもの.能生味噌によって優しい本性が露呈してしまった霧崎オーナーは,フランスに置き去りにした2人の子どもに歩み寄ります.おいしそうなパンは,本当においしいかどうかわからないから自分で食べて確認しなきゃならない.しかし本当においしいとわかったパンは…食べて欲しいと思う人間全てに食べてもらいたい.和馬は自分に戦う理由をくれた月乃に,焼きたてのパンを差し出します.ここまで無謀な戦いを繰り広げたのも,月乃さんのパンタジアのパンに対する深い愛情があったからこそ.彼女はパンを愛する人として,和馬がパンを差し出す相手にふさわしい.
本性は実に優しい霧崎オーナー.その優しさは,子どもたちを捨てたのは獅子が子どもを叩き落したようなものであり,今だって日本のパン業界のためにあえて悪役をやってるんではないかと思われるほどなんですが…パンの効果が無限に続くわけもなく,能生味噌の切れたオーナーはいつものふてぶてしい顔に戻ってしまいましたとさ(苦笑).理由は金儲けとかもういろいろ台無しなんだけど,本作としてはこの展開が実にらしくておかしい.結局霧崎オーナーの真意がどこにあるのかはわからないまま.でもあれだけの優しさを見せつけられたあとで,これからが本当の闘いのはじまりだ!とか偉そうにされてもなぁ…(笑).
凄い敵こそが腕を磨く砥石.ジャぱんという頂点に挑む和馬には,支えてくれる仲間と同じくらいに隙あらば彼を谷底に叩き落そうとする厳しい風や雨や雪が必要.そして敵が強ければ強いほど,和馬の腕は天井知らずに上がっていくわけです.風雨の強さ冷たさに耐えてがむしゃらに進んだずっと先に,彼一人では到達できない,まさに想像もつかないようなとんでもない頂点が存在するに違いないのです.

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焼きたて!!ジャぱん#68

「金に染まるぞプレ最終回の巻」

「焼きたて9」の舞台で繰り広げられていた宿敵雪乃と和馬のタルトバトル.黒柳の口に焼きあがった直後の2つのタルトをほぼ同時につっこんだことにより,会場は黒柳のファンタジックな大リアクションに巻き込まれてしまった.異郷で目覚めた和馬は河内とともに,邪悪な黒ビワと雪の女王を巡る争いに関わることになる.コスプレしたおなじみの連中とともにビワの力を使って雪の女王を倒した上にビワを捨てるための旅に出た和馬.女王の居城を知る販売所のじいさんも仲間に加わり,異世界リアクションは延々と続く.

今回含めてあと2話というところまで来ちゃった大詰めの「ジャぱん」.今回の大ネタはあの大作映画三部作!…に見せかけて,実際はクラシカルなサンライズ的最終回パターンではなかろうか.原作のスピンアウトな読みきりに,とりあえず金色で大団円という自社のセルフパロディをぶっこんだ上に感動的に完結させるバランス感覚恐るべし(笑).入り口はより多くの視聴者に,そして奥ではわかってるマニアにも楽しんでもらえることを頭に置いて作られてきた本作の溢れんばかりのサービス精神は,こんなときまで全開です.

前半.吹雪の手対太陽の手の決戦.冷たい手でしかできない逆さ折りを駆使された最上級タルト生地と,暖かく強い手ならではの超高タンパク粉による超薄クロワッサン生地で作られた2つのタルトはほぼ同時に黒やんの口の中に突っ込まれて…そしてはじまる大惨事.美味いパンを同時に2つ口に入れるだけであっさり現実を侵食できる黒やんの妄想力恐るべし.天は陰り地は鳴き海は叫ぶってどんなファンタジーですか?…皮肉でなくてこれは本当にファンタジー.ラスト直前を飾るに相応しい,実にメジャーなパロディへの入り口です.
大異変に巻き込まれ気を失った和馬が再び目覚めたのは異境の花園.一応河内もいるんですけども,彼はいつものようにツッコミ役としてしか機能していないので無視しても問題ないと思います(笑).人のいる気配のない異世界でまずやらねばならないこととして,食料の確保は少なくとも痴話喧嘩よりは正しいと思うんですが,這いつくばって食べられるものを探すあたりが凄いなぁ(苦笑).そこはおまけでついてきちゃった3人の子どもたちのように木になってる奴を….
本気で拾い食い希望の和馬が見つけたのは,地に転がる訳有りの黒糖浸けビワ.2つのタルトが黒やんの口に入れられたことで生まれたこの世界で,和馬が使ったビワに大きな意味が与えられてるあたりから,和馬が作ったタルトの優位性がかいま見えてるんですが,もはや勝敗なんてどうでもいい状況です(笑).和馬が大喜びで拾ったこのビワは,黒糖ビワならぬ邪悪な黒やんビワ.お前を支配してやると和馬の指にくっついて取れなくなり,ここから英雄伝説がはじまってしまいます.来週は最終回だってのに…
指にビワがくっついた和馬の前に迫る脅威と,そんな脅威を見事に祓う凛々しくも美しいヒロイン.馬に乗り追って来る黒衣の者たちを脅威の力で退けるのは,綺麗な服で長耳となった月乃さんことエルフの姫のムーン.響きは似てますがドリフのひげではありません.現実や試合の事を覚えている和馬や河内に比べ,黒ビワを含めその他の人物は完全にリアクションに飲まれて異世界の住人として生きているご様子.作った和馬が正気なのはまあわかるとして,河内が飲まれてないのは…みそっかすらしく,黒やんがキャスティングを忘れたせいかなぁ.やっぱり(苦笑).
大賢者マエストロフ様ことマイスター霧崎のおっちゃんがいる城に連れてこられた和馬たちは,和馬の指に取り憑いたビワの正体について説明を受けます.雪の女王スノーザに利用され裏切られて復讐のために人間の欲を利用しようと動く怨念の黒糖浸けビワ!…ところ天とかハンペンとか,食い物に人格を与えることで生み出されたキャラはこれまで数々見てきてますが,このビワもその例外に漏れず声は鼻毛だけどどこか脱力系ですな(笑).
雪乃女王はもちろん黒ビワやんも邪悪であるから,この世界に平和を取り戻すためには両方を片付けなければなりません.世界を支配しようとする巨悪をぶっつけて両方を葬り去るだなんて相当の大事のはずなのに,イメージシーンでスノーザに支配される人々がいちいちキッドなおかげで緊迫感台無し.あんな珍奇な世界ならきっとボケの和馬率いるコスプレ軍団でもなんとかできるに違いないので,河内は無駄に案じたり止めたりしなくていいですよ(苦笑).和馬のお伴は岩をも砕くケンと岩を貫くクラウニーと岩をも破壊するマイストロフの仮想敵が岩な3人組.さらに月乃ことムーンから超高タンパク粉を授けられ,たった3日の大冒険がはじまったのでありました.
リアクションが生み出した幻想世界の中,正気なら気恥ずかしくて死にたい感じのコスプレで歩くパンタジア野郎一同.そこにスノーザの部下にやられていた販売所のじいちゃんことゴレムも加わって,黒やんの妄想が作り出したパロディ劇は絶好調.…敵を矢で貫いたり魔法で吹っ飛ばしたりするのは原典準拠で問題ないけど,北斗真拳は原典にはねえよ(苦笑).そして販売所のじいさんのデザインを見た時点で期待しまくっていた「いとしいしと」もちゃんと来た! 期待を違えずあの名セリフを言わせてくれるのが大変うれしい.ビワの主である心優しい旦那様が率いる過酷な旅は,ついに佳境へと達します.

後半.道を知っているゴレムの案内によって大自然を進む和馬たち.寒いスノーザの居城間近,ビワの力も強まる地点で今晩は夜を過ごします.特に寝てる時はビワの誘惑に引っ張られやすいから夢でも誘惑に乗るなと言われた和馬が「それじゃあ俺もう寝ねえ!」と言った直後に寝る天真爛漫さがたまりません(笑).何がいいってあの間と和馬の言いっぷりが絶妙.時間がないところを逆手に取った即座の睡眠が素晴らしい!
絵に描いたようにころりと落ちた夢の中,黒ビワは脆弱で欲深い人の子に語りかけます.夢をなんでも叶えてやるぞと誘惑する黒ビワ.そのほくそ笑みが黄色い宇宙人っぽかったりするけれど気にしない.人の欲に乗じてその人間を支配しようとする黒やんビワではあるけれど,なんせ和馬の欲は異常で規格外.「ジャぱん」という妄想に向かってひたすら前進してきた彼の欲は大変に深い上に,他人の助力を受け入れない.周囲からヒントを見つけることはあるけれど,特にパン作りに関しては他人の意見を聞き入れない意外と狭量な主人公.なんせ試行錯誤は和馬にとっては最高の娯楽.これを他人の手に渡すことは一片だってできないという職人らしい覚悟で生きる,実に徹底したパン馬鹿なのです.
あまりにバカな和馬の夢を叶えることのできない黒ビワは,逆に和馬から夢について尋ねられます.世界を支配する野望を抱くビワだけど,支配したあとのビジョンは特になし.…まあ,ビワに統治のビジョンなんか期待する方がどうかしてるとも言えますが.そしてビワがそっと抱えた無邪気なもう1つの夢は…その身に相応しい調理をされて,おいしく食べてもらいたい.もちろん優れた素材にそんなことを直接言われた日には凄腕職人としてはその願いをかなえてやるのが当然なので,和馬は自分のタルトジャぱんにしてやると黒糖ビワのおっちゃんに約束.ビワも和馬の手の暖かさに期待して,和馬の運命共同体となりました.
翌朝,和馬の手についたビワはなぜか大きくなり,パンが作れなくなってます.とはいえこの環境ではパン作りに興じている暇がありません.仲間達と黒ビワとついでに河内とともにスノーザを倒さなければ,リアクションパンアニメには戻れやしないのです.実にタイミングよくビワを始末する燃えるゴミの日に到着した和馬たちはそのまま城に突入.大量の雑魚は岩をも砕くド派手な戦力でばったばったと片づけちゃえばいいんだけれど,問題は最後に控えるラスボス.彼女には岩をどうにかする攻撃がまったく通用しないのです.
巨大なる雪の女王スノーザに対峙するのは,和馬とマイストロフと一応河内.けれど吹雪の手はあっという間に和馬以外を凍らせて,場に残るのは何の攻撃手段も持たない和馬のみ.絵に描いたような最終決戦で絶対絶命のど真ん中,雪乃の大技・サカサオーリの秘術が和馬に炸裂するかと思われたそのとき,和馬はムーンに授けられた超高タンパク粉を思い出してガード! ファンタジーなので原理は気にすんな.さらにスノーザのイチゴビットによるレーザー攻撃には…ビワが超変形し和馬の体を覆って守る! このあたりから,サンライズがサンライズ最終回パロディをやりはじめます(笑).
イチゴビットレーザー対黒糖ビワ防御.黒やんビワは自身の夢見る心を惹き起こしてしまった和馬に死ぬことを許しません.審査員がここまで和馬側に肩入れしてるってことは余程和馬のタルトジャぱんが気に入ったようですが,もはや審査なんかどうでもいいですね(苦笑).そして光りだす和馬の太陽の手.それを掲げる和馬はお約束として金色に輝きます! …いやぁ,実に正しいサンライズの最終回だ…(笑).太陽の手は吹雪の手の力を圧倒.この輝く力は和馬の喰う者と喰われる者の双方に与える愛がもたらす金色の奇跡.食べる者だけでなく食材に対する愛にも満ち溢れた金は全てを包み!ついにスノーザは倒れたのでありました.
そして和馬が倒す最後の者は…決戦の際には自分を守ってくれた黒糖ビワ.一度はタルトジャぱんにしてやると約束した和馬ではあるけれど,ビワが滅びなければ彼自身もパン作りのできる現実に戻ることができない.それでも和馬は別れを嫌がって…嫌だと泣く和馬の手から,ビワが自ら離れていきます.スノーザだけでなく黒糖ビワの邪悪な心すらも溶かしてしまった太陽の手の温もりと別れ,今度会うときにはタルトジャぱんにしてくれと頼んで火口に落下していく.己を捨てリアクションを終結させる,これがビワの歩むべき道.ロード・オブ・ザ・ビワ….

無駄に長いザビワ物語が終了し勝者はパンタジア! ほぼ丸々1話を使った実に長いリアクションでしたが,和馬の側に黒やんビワがついた時点で勝敗は決まっていたようです.どれだけ雪乃の技術が素晴らしくても,和馬の喰う者と食材に対する愛,そして愛を支える太陽の手の力には勝てませんでしたとさ.久しぶりに太陽の手がえらい持ち上げられていますが,超高タンパク粉というのはミキシングに時間がかかったり大変粘ったりするらしく,普通は他の粉とブレンドしたり機械でこねたりしなければならない難しい代物のご様子.これを普通に手だけでこねてしまった和馬はやはり凄いってことなのでしょう.
実に長すぎるリアクションをこの段階で覚悟を決めてやっちゃう本作ってやっぱり凄い! 本作の主役である黒やんのリアクションもロード・オブ・ザ・クロヤナギとして見事に完結してめでたしめでたし.まだちょっと凍ってるヘタレのことはまあ横に置いておくとして,ついに次回は怒涛の最終回! ここまで危ない橋を全力疾走してきた本作もついに見納め.権利問題と戯れながらも,あっと驚く展開を最後に見せた上に見事に着地してのける,次回,最終回に続きます!

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焼きたて!!ジャぱん#67

「次回のために突っ走りすぎの巻」

サンピエールのトリプルアルプスをトリプル笹で見事倒したパンタジアだが,未だ1敗も許されない劣勢は続く.8回戦の相手はこれまで和馬たちを影から苦しめてきた仇敵の一人,梓川雪乃.今回の課題のタルトは冷たい手であるほど有利な題材で,冷酷な雪乃の手は吹雪のように冷たいのだった.タルトづくりで雪乃に勝つには良い材料を選ぶのも重要なのだが,成り行きで和馬は生の献上ビワではなくビワの黒糖漬けを使うことになってしまう.

もうすぐ全てに決着がつく「ジャぱん」.今が最後の頑張り時であるわけですが,作っている人たちがこの期に及んで未だ楽しそうなのが素晴らしい.もちろんぎりぎりの環境で作っているのは間違いないんだけど,原作という材料の切り出しに対するこだわりやアニメの形に加工していく過程での手間は未だ惜しまれていないようです.タイアップの都合で普通のアニメに比べるとスケジュールの制約は相当厳しいとは思いますが,それでも作ることを諦めない作り手の凄い根性を褒めたい.…巻いてるけど(笑).

前半.桃屋には負けたもののパンダには勝ってなんとか首の皮を繋いでいるパンタジア,とはいえ本作中で和馬が最強のパン職人であるのは依然変わりなく,普通のパン職人を連れてきてももはや勝ち目なんかあるわけない.こうして投入されたのが今回・8回戦の敵でありテーマなんだけど…なんかもう「パン」じゃなくなってるな(苦笑).
最強の和馬,知識の冠,そして応援の河内の挑む8回戦の敵はあの梓川雪乃! これまで散々いろんなことをやらかしてくれた仇敵との直接対決に河内は動揺し,うっさいから毛を剃るぞと黒やんが叱ります.…このイメージシーン,一体どこに向かってサービスしてんだろ.しかも課題は「タルト」と追加指定.ビワやイチゴで有名な千葉県の富浦で献上できるタルトをつくれだなんて,下呂では大失敗したものの,番組制作側とサンピエールの裏の繋がりは未だに切れてはいないようです.
サンピエールを有利にするためのパネルなんだから酵母をばい菌呼ばわりする不遜な雪乃が得意なのはもちろんタルト.タルトの生地は通常イーストを使わない無発酵生地で作られていて,バターと生地を挟んで折って薄くすることを繰り返すため,彼女の冷たい両手,吹雪の手が非常に有利に働きます.…逆に言えば太陽の手の持ち主である和馬にとっては大変に不利なテーマなわけですが,そこは省略しちゃうのかな?
生地を折って重ねて薄くするのは懐かしいクロワッサン生地と似ているけれど,無発酵のタルト生地の場合はクロワッサンでは珍しい三百層ですら当たり前.しかも冷たい手を持つものならではの「逆さ折り」という必殺技すら存在し…ってとこでなぜか舞台はテレビ局から富浦に一気にワープ.うわ,こんな巻き方はじめて見たぞ!
脈絡なしにいきなり富浦に飛んでしまったことに驚く河内と,それをごく当然のことのように受け入れて何の動揺もしていない和馬と冠.いくら東京と千葉が近いからって,いくら移動シーンがどうでもいいからって,いくら残り時間がもうないからってそんな巻き方アリですか? 誰もパンどころか素材すら食っていないってのに,逆さ折りだと生地の外側にバターが来るから焼き上がりがさくさくとかのウンチクがどうでもよくなるくらいに無茶なことがしれっと流されてしまっているぞ(苦笑).
しかもこの巻きはまだまだ続く.今度はいきなりビワの販売所に場面が飛ばされて,悪漢雪乃が販売所のじいさんを足蹴にしているのを目にすることに.このじいさんのデザインが実にアレなので次回が大変楽しみです.季節外れなので黒糖漬けの献上ビワしかないことに雪乃は大変憤り,傍若無人を尽くした上にイチゴを使うと場を去ります.せっかくの黒糖漬けを汚らわしいと言われたじいさんはそりゃもう悔しがるのでありました.普段だとこのあたりまで展開するのに1話の3分の2くらいを使うのでこれは相当なハイペース.

後半.丹精込めた自分の作品を汚らわしい呼ばわりされて悔しがるじいさんは若者こと和馬に黒糖漬けビワの使用を依頼.で,なぜかそれをあっさりと受け入れる和馬.タルトの具は新鮮な果物がお約束なんですが,ビワを黒糖に漬けることによって生の果物にはない味が出せると踏んだのかな? しかも和馬と来たらクロワッサンで勝負とか言い出す始末.やはり和馬の手に無発酵生地はあまりに不利ですからね.てなわけで和馬が黒糖漬けビワで究極のタルトジャぱん・スーパー黒ビワクロワッサンを作ることが決まったこの時点で,普通なら1話が終了しそうになってもおかしくはないのですが,今回は巻いているのでまたも場面が飛んでしまいます.
時間も場所も宿すらもすこんと飛んであっという間に試合当日の会場へ.どうやらこれまで容赦なく無駄な描写をすっ飛ばしていたのは時間的に追い詰められた作り手…ではなくて和馬本人.他人への思いやりだけで空間や時間を曲げる和馬の神様ぶりが凄まじい(苦笑).こちとら長らく見てますからパンを食った奴が世界を曲げるのには何の疑問も抱かないくらいには慣れてますが,食ってもいない奴が3日分を早送りしていくというこの事態はさすがにお約束の範囲を逸脱しすぎ.販売所のじいさんまで思いやりで時空をワープさせるだなんて,思いやりがあって時間がなければ何をやってもいいってわけじゃないと思うぞ絶対!
てなわけでさくさくはじまる8回戦.通常ならこのあたりが1話目のラストになるはずですが,生き急ぐ今回はもっと先まで進んでいきます.今回の観客はいつもの河内とさっきのじいさんと月乃と店長に加えてマイスター霧崎までご登場.ラスト間近ということで視察に来ちゃったことにより,彼も見事に巻き込まれていきます.…この状況でもここに来させてもらえない木下がなんだか大変に気の毒です(苦笑).
ステージでは見事に吹雪の手で逆さ折りを披露する雪乃.これが通常のタルト作りでは最高峰の技術なのは間違いなく,和馬が圧倒的に不利なのは間違いないわけですが…ここで和馬側から沸きあがる歓声! 異様にねばねばした生地が和馬の手の中に.和馬が今回使ったのは超高タンパク粉.ダブルグルテンやリミックス法で追求されてきたシリーズの決定版とも言える材料&技術です.粘り気が強くて手作りパンを作るにはさすがに向かない小麦粉を人の手で無理くりこねて生地にするという普通のパン職人の腕力ではまず無理なことに挑戦した和馬は,太陽の手とかこれまでの経験とかのおかげで見事やりとげます.
しかも大量に含まれるタンパク質のおかげで麺のようによく粘るこの生地は,タルトづくりで必要な極薄の生地を作るのにもってこい.手にした生地はあまりに薄すぎパントマイム状態.この生地ならば吹雪の手が作り出す正統派で最高級のタルトと層数勝負してもかなりいい勝負ができるはず!

がんがん巻きながら通常の1話半を一気に消化した今回も終盤.ほぼ同ペースでタルトを作ってしまった雪乃と和馬は最後の最後までスピード勝負.タルトのさくさく感を堪能させるには出来立てを食わせるのが一番ということで,ほぼ同時に完成した2つのパイは和馬と雪乃の手によって黒やんの口にほぼ同時にたたき込まれ…これが世界の危機を導きます.
これまで散々無茶なリアクションを見せ,ついには食わないうちに時間と空間が跳ぶといういいかげんすぎるレベルにまで達した「ジャぱん」.しかしこの豪快な巻きっぷりも,次回に待つ長時間リアクションのために黒やんが未来から時間を曲げたのだとしたら….2つのタルトが生み出す大規模リアクション,あるいはこの期に及んで全員で学芸会という危機的な状況を救うものは誰か! 地は荒れ海は叫び人々は恐怖する,次回のリアクションに続きます!

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焼きたて!!ジャぱん#66

「手にしてしまえば世界は狭まるの巻」

「焼きたて9」の第7回戦.蒸しパンテーマの下呂での闘いがついにはじまる.最強のスーパーベーキングパウダーで挑むパンダに対し,和馬が投入したのは自ら育て続けた生地そのものだった.古い生地を新しい生地に繰り返し加える老麺法によって生み出された,中華蒸しパンを作るには最高級の材料だ.
パンダは見事3度の爆発を起こし,突き立つトリプルアルプス蒸しパンを完成.それを喰った黒柳は魔術的なパンに対して奇術的なリアクションを返した.温度差によって完成する複数回の爆発は蒸しパン職人の夢.けれど和馬はトリプル笹で,そんな魔術を打ち砕く.

ゴールデンに投入するにはあまりにも挑戦的でそのまま作ったら叱られる原作をここまで必死にアニメ化してきた「ジャぱん」.関係各所の努力もあって今やすっかりゴールデンタイムの顔となりましたが,ここまでこの時間帯で原作をできるだけ矯めずによくやってきたもんだと思います.
サンライズの同テーマ作品としては偉大なる「味っ子」があるわけですが,アニメ化によって原作を越えた熱血リアクションアニメに昇華していったアニメ「味っ子」に対し,原作の「ジャぱん」はアニメ「味っ子」のような熱血リアクションものを一歩引いたところから見て笑う性悪な批判者.で,そんな根性曲がりの原作から生まれたアニメは…やや矯正されたけどもやっぱりひねてるんだよなぁ(苦笑).

前半.蒸すことによって何度も爆発し綿菓子のような仕上がりとなるらしいパンダの蒸しパン.常識ではありえない複数回の生地の爆発の原理も気になるところですが,これに対する和馬の奇手が実に印象的.和馬が持ち込んだ秘策は生地そのもの.パンダがSBPを配合して持ち込んだのと同じように,和馬は生地そのものを持ち込んだ!
もちろんこれはただの生地じゃない.老麺法で和馬が人知れず長期に渡って育て続けた凄い生地.…モナコカップに出たり日本を漫遊したりしている和馬が一体いつこの生地を育てていたのかは大変気になるところですが,状況からすれば和馬が留守の間は木下がずっと店で面倒を見ていたのではないかと.木下のコピー能力なら生地の維持くらいは十分可能でしょう.後輩の生地をひたすら育て続けなければならない不条理とか屈辱はまた別の話として(笑).そしていつの間にか抗争に介入したり銃痕つけてみたりと立派な天職に巡り合っている店長が語る老麺法の秘密.生地の4分の1を常に残して新しい生地に加え続けることにより,秘伝のタレのように生地が良くなり,ベーキングパウダーに負けないキメ細やかな生地が完成するのです.
和馬の凄い生地は負けられないこの勝負に投入されるにふさわしいもの.けれどパンダの3度の爆発も未だに恐ろしい.敵対組織との抗争だって平気な顔でくぐり抜けそうな店長すらも動揺させる,パンダこと模糊山の叶えたパン職人の夢.店長や模糊山がまだ新人であった頃に模糊山が語っていた,1度しかはじけない風船を何度もはじけさせるという途方もない発想.あの頃はただのホラ話だったけれど,今パンダの手の中でそれが現実に! 蒸すことで見事3回の爆発を起こした模糊山の蒸しパンの姿ははじけて突き立つ夢のトリプルアルプス! 普段目にする蒸しパンに比べると,鋭く切り立つパンの様子は豪放というよりは繊細に見えますね.
先に完成したパンダのパンを食らうのはもちろん審査員の黒やん.見ただけで凄いのが来ると予測しながらも義務以上の欲求でもってパンを食む! 沈黙はプレリュード.その側で静かに確実に進む導火線の炎は黒やんの体に見る間に近づき,「パンダのパンはなんちゅうパンだー!」と叫んで爆発とともに射出!さらに空中で爆発! 爆発!
リアクションとしてはネタも理解しやすいし無駄に派手だし特に文句はないのですが,キングオブアホのやらかすこととしては実際に爆破されたのがダミー人形黒やんXであったことが物足りない(苦笑).もちろん本人を射出すれば間違いなく生首…ではなく炭のかけらとなったに違いないけれど,でも,リアクションってそういうもんだろ(笑)?
ダミーを爆発させたりミニマム黒やんを降らせたり山の天辺に突如出現してみたり,テンコーさんやカッパさんのようなイリュージョンを演じることでアルプス蒸しパンの魔術的な技法を讃えてみせる黒やん.山からたったか戻ってくるところがやっぱりキングオブアホだ….
ありえないはずの3度の爆発を現実にしたタネは中の具となる栗きんとんにつけた温度差.栗きんとんを部分的に冷やすことによってそれを包む生地に温度差をつくり,オーブンの中で生地の遅れて暖まった部分が後から爆発したわけです.こうして生み出された蒸しパンは大変に繊細で柔らかな山を作り,黒やんは山の頂上に突如出現したのでありました.
…けれど,この魔術を目にしても和馬はまったくくじけない.蒸しパンそのものの技法だけなら恐らくは模糊山の圧勝.しかしこれは地域振興の目的を持ち,心安らぐパンを要求されている勝負.ゆえに和馬が選んだのは…笹! 蒸篭の中から香るのは,黒やんを死に追いやるトリプル笹の香り!

後半.いつものようにハイペースでテンション高く描写された対戦もついにクライマックスへ.和馬が差し出したトリプル笹の中華まんは,匂いからして見事に笹.しかしパンダの蒸しパンを目にしたときとは異なり,黒やんが笹3枚は勘弁しろなんて考えてるってことは喰う側には味の予測も準備もできてないご様子.河内じゃあるまいし和馬のパンに限って笹3枚のわけがない!
黒やんは予測不能の中華蒸しパンをぱくりと食い.またもや動きが止まった…と思ったら至近距離で見るにはあまりにもインパクトのある顔に変化! 老麺だから能面の白い顔.周囲をビビらせつつも悠々と敦盛をやる変態審査員.人生の無常を舞う彼は完璧なトランス状態で,内容もどうせ人生太く短く50年ってな歌だからこの人たぶん死ぬ気です.黒やんのリアクションによる命の危機はここ最近のお約束なので,もう「なんやてー!」とかわざわざ言わなくていいよ河内(苦笑).
ここまでが老麺法に対するリアクションなら,ここから先はトリプル笹に対するリアクション.見栄を切る黒やんの舞台からはみるみるうちに竹が伸び.それを見事一刀に切り捨てたなら,穂先たちは黒やんの左右に伸ばした腕と肩と頭にぷすぷすと突き刺さる(笑).「笹が刺さった」というぶっちゃけ書くのもアホらしいリアクションですが,その刺さった姿は水芸の様にさも似たり.で,実際水芸です…真っ赤な.
和馬のトリプル笹の1つ目は笹茶.しかも地元の温泉で煮出した地元の笹だろうからその味わいはきっと土地の結晶.さらに蒸すときにも笹を加えてこれで2つ目.そして3つ目は…血液が笹の効果でさらさらに! 素材ではなく喰った奴の健康を3つ目にしてるのはかなり苦しいですが(苦笑)さらさらになるのはちとまずい.さっき刺さった笹のおかげで,溢れる黒やんの血がもう止まらない! …モナコカップ編でおなじみの通りリアクションとはいえ人間は大量に血を流すと死にますんで「そういうことじゃな」で済ませられる範囲じゃないぞ和馬(苦笑).
てなわけで今回の勝者はパンタジア! 技術的レベルではトリプルアルプスが圧倒的に上であったわけですが,その技術も使いどころを誤ればむしろ逆効果というのが敗北の理由.柔らかすぎたアルプスは,朴訥で主張の強い和風の食材に合わせるにはあまりに繊細すぎたのです.それに比べれば笹は和菓子にもよく添えられる相性の良い素材.和馬は技術面の不利を素材で完全にひっくり返してみせました.ちなみに後で血を流す黒やんが死にかけてますが全員スルー.黒やんの生死など河内の職人としての腕前くらいにどうでもいいみたいですね.

己の叶えた夢に酔って溺れ肝心なことを忘れたがゆえに敗北した模糊山.手の届く範囲を世界の全てだと思い込むような人の愚かさゆえに,トリプルアルプスから離れることができなかったがゆえの納得の敗北.そしてそんな人の愚かさを知った模糊山は,なぜか本物のパンダになりました(笑).パンも食ってないのに香りだけでここまでやるなんて偉いなぁ.で,自分との戦いに負けたパンダは水乃とともにこの場を去り,後には勝者と観客と出血多量で死にそうな審査員だけが残されます.もうすぐ終了するということで作品に課せられる制約は相当緩くなっているはずですが,結構痛そうな描写の原作を水芸にアレンジして無事放映した回避技術はなかなかだよなぁとか思いつつ,次回に続きます.

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焼きたて!!ジャぱん#65

「原点だって進化するの巻」

桃屋の人に完敗し大勝負を落としたパンタジアの所持パネルはたった1枚に.さらにここまで連敗しつつも追い上げてきたサンピエールが第7戦に送り込んできたのはパンダ姿の無口な巨漢.その正体は以前サンピエールで店長を勤めていた模糊山.和馬に敗北したことでまともなパン道に戻った模糊山は,自身で作り出したスーパーベーキングパウダーの威力を試すためだけにあえて和馬の前に立つ.サンピエールの策略によって課題は蒸しパンとなるが,和馬はベーキングパウダーを使わない蒸しパンを作ることを決めた.

ついに見えてきたアニメならではの全ての決着.快調に1年半の道の最後を走る「ジャぱん」.ある意味作品的には極まったモナコカップ編を越えてもなお走らねばならなかった彼らですが.原作未完結のこのシリーズでも上手なアレンジできちんとクライマックスらしい盛り上がりを演出してくれるんだから立派なものではないかと.焼きたて9編は敵のリベンジ(&返り討ち)も1つのテーマで,今回と次回はそのテーマの頂点.思えばサンピエールとの抗争の歴史は彼との戦いから始まったのです.

前半.まさに最強の飛び道具を投入してきたサンピエールに敗北した上に絶体絶命となった和馬たち.いくらなんでも太っ腹で洒落のわかる素晴らしい桃屋には勝てないさ(苦笑).しかし窮地に陥ったのは敗北そのものよりも裏側で行われたパネル操作の影響が大きい.サンピエールの霧崎と焼きたて9プロデューサーは当然のように繋がっており,課題と条件を自由自在に操作していたわけです.…本来はスポンサーのパンタジアの方が小細工をしやすいんだけど,裏工作を怠ったのが裏目に出たご様子.金に限りがあるのは理解できますが,ことスタッフの囲い込みだけは絶対に金を惜しんじゃだめですよ.
たった1敗でパネル1枚にされてしまったパンタジアには,この先1敗も許されない.そんな深刻な場面でサンピエールが凄い人材ネットワークによって探し出したのが今回の刺客…パンダの着ぐるみの変態(笑).あの霧崎が認めた菓子パンのスペシャリストが和馬を叩きのめすために投入され,しかもテーマはそんなパンダに有利な蒸しパン.温泉で有名な下呂で人を癒すパンを作るのが今回の課題です.
で,割とあっさり判明する筋骨粒々としたパンダの中の人.菓子パンのプロで異様に無口なら…と和馬の名推理炸裂.知っている人で体がでかくて菓子パンが得意な模糊山のおっちゃん! このシリーズは原作を大幅に端折っているので,彼は少ない機会に再登場できてラッキーでしたね.
そして模糊山と言えば水乃.ロリな魅力を売りにできる素晴らしい人材であったわけですが,月乃対雪乃の抗争の激化の狭間で置いてきぼりを食らったところが気の毒.水乃自身は未だに雪乃の仲間ではないものの,今回は模糊山の願いを叶えるためにあえて彼の対戦を許しセコンドについたご様子.模糊山は自分が作り出したSBP(スーパーベーキングパウダー)の威力を試すために恥をさらす覚悟でここに出てきたのです.…やってることは求道者諏訪原と似たような感じですが,彼の場合は特定の材料に思い入れを持って挑んでくるところが違います.
ベーキングパウダーは重曹・クエン酸・酒石酸を混合したもの.数種の化学物質の究極配合を試してみたいと職人のわがままをぶつけてくる模糊山の気持ちを.和馬はあっさり歓迎します.これまでの戦いから向上心を持つ職人がどうしても自分と戦いたくなることはよく知っている.だから戦いを嫌がったり疑問を口にしたりすることもない.勝負に理解のある,いい主人公になりましたよね.ちなみに一流職人がパンダを着ているのは処理してない中身が大変なことになっているから.見るからに実は毛深そうだったから,あのぴっちりした着ぐるみの中には圧縮された毛が渦巻いているのかもしれません…(苦笑).
蒸しパンという一番得意な題材で挑む模糊山を下すのはたとえ和馬でも難しい.特に前回ノリ勝負で露呈した通り,和馬のパン以外の材料への工夫は超一流と比べればどうしても劣る.てなわけで既に劣勢のパンタジアに耳寄りなお知らせ.今回は蒸しパンに集中してもらうため,中の具材は番組で準備された共通のものを使うべし!ということで配給されたのが特産の恵那栗を使った100%栗の栗きんとん.素材選び段階でリアクション役を担っている河内の脳裏に浮かぶその味は,季節外れの南海のイメージ.特に麗しい月乃さんの水着姿が無駄に輝きありありと(笑)! 産地は山中なのにハマグリを思い浮かべてやまない恵那栗.見事な地域の特産品です.…これはうまそう.一回食ってみたいなぁ.
恵那栗という具材が同じでパン勝負だけやるんなら和馬は勝てる.なぜなら彼は天才だから…なんて読みは普通に考えればあまりに浅い.蒸しパンを作る場合は通常はベーキングパウダーと蒸し方しか工夫する余地がなく,模糊山の持ち込むSBPはきっと世界最強.だからいくら天才でもスタート地点が違いすぎて追いつけないはず…なんだけど,実際は甘い読みこそが大正解.パンの工夫にかけては和馬の右に出る奴はいない.ベーキングパウダーで勝てないならベーキングパウダーを使わなきゃいいというのが寝てたり燃え尽きたりする(笑)和馬の結論.普通ならパンは蒸せないけれど,全てのパンが蒸すことに向いていないわけじゃない.和馬が作ろうとするのは中華蒸しパン.イーストを使ったパンでありながらも,蒸しても縮まない優れもの!

後半.一応今回は霧崎の指示でプロデューサーの山川が和馬たちに妨害をせっせと仕掛けてきてるんですが,まったくうまく行ってないので無視してもいいかなと思います(笑).電車の走行を妨害するなんて,犯人がバレたら大変なことになりそうだよなぁ….さて,和馬が作りたい中華蒸しパンは,ベーキングパウダーなしでイーストのみを使うパン.しかもこのパンには事前に黒やんの許可が取れないと実施できない特殊な方法が投入されます.
ただし,この肝心の製法については冠には教えるけど河内には教えてくれないいけずな和馬.大事なお客さんだからネタバレしないように…って,もう和馬の頭の中ではチームメイトじゃないんだ(苦笑).これまでの戦いによって己の力量とライバル達の競争心と力量をつくづくよく知った我らが主役は,河内の存在に対し大変に明快で残酷な結論を導いたようです.本人に何の悪意もなさそうなところが逆にキツいよ.
今回のパンタジアの宿は温泉にこだわった破棄荘.下呂だから破棄荘.…ダジャレはともかく温泉はなかなか立派なもの.どうしてこんなときに月乃も水乃もいないのか! ついでに言えば傍の竹薮には和馬たちを陥れるためにわざわざ熊なんか持ってきた不純なバカプロデューサーまでスタンバイ.いらないところばかりこだわってどうするんだ作り手よ(苦笑).新株予約権のために熊を連れてきたプロデューサーは和馬たちにけしかけようとするも見事失敗.むしろ笹が温泉に大量に落ちることで中華蒸しパンの弱点であるイースト臭をなんとかする工夫を和馬が思いついちゃって完璧逆効果.哀れなのはプロデューサー.失敗した者に対する霧崎の厳しさはモナコカップ編でも披露されたとおりなので,熊からは逃げられても霧崎からは逃げられないよなぁ.きっと….

そして翌日は決戦日.和馬認定の「お客さん」こと河内は応援団長としてふさわしい阪神応援コスチュームで観客席で目立ちまくり,ステージの上で真面目にやっている冠を呆れさせます.お客さん扱いに怒って職人として発奮するべき場面で本気でお客さんをやっちゃうバカに対して「…だめですね,あの人は」と呆れると「俺は最初から諦めとったよ」ととんでもないことを笑顔で言う和馬.これまでの数々の経験で彼の頭の中には河内=客という無情な等式が見事成立してしまったご様子で,期待もしないから落胆もしない.自業自得とは言え,和馬は正直で河内は哀れ….
冷静で残酷な和馬に挑むのは燃えるリベンジのパンダ.一流職人として全力を出し切りたい彼を引率してきた水乃だって,パンダのパンを楽しみにしています.ただし自分の姉である月乃に恨みなんかないし,雪乃の味方をするつもりじゃないともじもじと伝えようとする彼女は実に愛らしく,姉の月乃さんもそんな妹の心づかいがとってもうれしい.愛人の子として姉妹扱いしてもらえなかった彼女にも,立派な可愛い妹さんができたようで何よりです.あとは雪乃さえなんとかなれば….
しかし姉妹の絆と勝負は別の話.ベテラン職人ならではの究極の蒸しパンを投入してくるパンダの凄さを暗示するのは複数回のアルプスの爆発.通常は1回きりの蒸しパンの爆発が3度も来るってんだから恐ろしい.生地をこねてる段階での爆発はただの行き過ぎた妄想かイメージ映像だと思うんですが(笑)模糊山はどんな蒸しパンを作り上げるのか? そしてそれを倒すべく開発された和馬の中華蒸しパンの仕上がりは如何に? こんな危険物を両方喰わされる黒やんの身などを微妙に案じつつ,次回,1時間スペシャルの後半に続きます.

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焼きたて!!ジャぱん#64

「時代を越えてこそ王道の巻」

「焼きたて9」の6回戦.一勝すれば戦局がひっくり返るこの大舞台にサンピエールが投入したのはあの三木のり平,すなわち桃屋の看板だった.彼の専門であるノリを使ったパン勝負に向けて和馬と冠は力を尽くし,河内はその内容をまったく知らなかった.
ノリでは勝ち目が薄いパンタジアはパンの工夫で圧倒するしか道はない.バターのクリーミングや1次発酵後に再度こねるリミックス法を駆使した和馬のパンは黒柳に激しいリアクションを取らせる.島のつく有名人をかき集めた上,足りない一人は自分の婿入りで補って「十六島」.そして審査員は新婚旅行に旅立った.

もはや後のことなど考えずひたすら笑いに挑む「ジャぱん」.前回見せた凄まじい出落ちなど,その破滅的な笑いの追求ぶりはもはややけっぱちにしか見えないわけですが(笑),今回もまた精一杯危険な道を走ります.本作はこれまでゴールデンタイムの作品として可能な限り広い範囲に受け入れられる笑いを狙ってきたわけですが,本来笑いとは範囲が狭ければ狭いほど笑えるもの.今回の13人目と14人目は尖端を狙ってはならない本作があえて狙った尖端,要するにマニアのリトマス試験紙.…しかし真の勝者は時代すらも越える大きなもの.誰にでも理解できる丸くて鈍い笑いこそが,社会までも大きく動かしていくのです.

前半.山崎パンが桃屋とのバトルを受け入れることで視聴者の度肝を抜いた前回に決着がつくのが今回.ノリのスペシャリストである桃屋の人にノリを使ったパンで勝つには,パンタジアは余程パンに工夫を凝らさねばなりません.過去経験した逆境の中でもここまで無茶な状況は存在しなかったはずですが,それでも挫けず工夫を積み重ねる和馬は偉くそれを支える冠も偉く,そんな2人の奮闘をただ信じて見守っているだけの河内は偉くない(笑).本当に「なんやて」を言うためだけの係になってしまったなぁ….
ボウルでバターを泡立ててパンの仕上がりをふっくらさせるクリーミングは和馬とのり平の両方が採用.パンについては素人のはずの桃屋の人がここまで頑張るとは.さすが超一流は何事においても出来が違う.しかし和馬も本作の主役として,のり平にない新たな工夫を見せつけます.
和馬がその腕で見せたのは,1次発酵を終えた生地を再度こねなおすというリミックス法.一度できあがったグルテンを壊して再度作らせるというこの技は以前のダブルグルテンと同じコンセプトではありますが,グルテンを抽出する過程なしに二度ごねだけで同じ以上のものを作れるようになったと考えれば,和馬の技術面での上達ぶりを示している描写ではないかと.課題のノリに関しては精一杯の工夫として生春巻きにコーラ煮ノリを巻き込んでパンに包んで焼成し完成!…なんだけど,ここまで主に後出しで勝ってきたパンタジアには珍しい先出しがやっぱり不安を誘います.
和馬のパンを食った黒やんのリアクションは軽い大爆走&行方不明からスタート.心の赴くままに美味さを表現するがゆえの奇行は今に始まったことではないので,命を粗末にするような真似さえしなければ特に焦ることもない関係者の慣れっぷりがなんか悲しい(笑).もちろんこの行方不明もリアクションであり,店長に肩車された河内が観客の中に見つけたのは….
タレントにスポーツ選手に棋士に歌手,そして…大変に微妙な業界から(笑)「島」のつく14人が大集合.今回作画はそんなに良くはないんですが,そんな絵柄で頑張って似顔絵を描いたことから醸し出される微妙な感じがたまらねえ(笑).14人目はなんでこの人なんだろう.サンデーで洒落が通じそうだったから?
そして最後に登場する新郎新婦は島夫妻.島さんの家に入り婿してまで十六人の島を揃えて「十六島」をやってのける思いきりの良い黒やん改め島やん! たかがパンの美味さを表現するためだけに結婚しやがったこのバカは,パンへの愛だけを抱えて偽りの新婚旅行に出掛けるのであります.…で,肝心の審査はどうすんの?

後半.パンの美味さを表現するためにわざわざ入籍までしちゃった黒やん改め島やん.名字は島だけどあんまり見目麗しくない女性と結婚し,新婚旅行に出掛けるもののやっているのはパンの審査以外の何物でもない.普通なら新婦のことだけを考えなければならない旅行中でも新郎の頭には和馬のパンの美味さしかない.他人のパンの凄さを説明するためだけに結婚した新郎の愛はもちろんパンに向けられている.なんて豪快な妻に対する裏切り! そこには微塵の愛もない!
飛行機の中や南の島のみならずホテルでの初夜に至るまで,島やんの頭の中にはパンだけしかない.ノリから染み出す水分を吸収して食い止めるライスペーパーの工夫を讃えるためのハネムーン.米であるライスペーパーはノリとパン生地の仲を見事に取り持って,逆にパンによって引き裂かれた島夫妻は新婚旅行の直後に離婚する.パンバカの島やんは黒やんへと戻り,たった1度のリアクションで独身青年はバツ1にクラスチェンジしたのでありました.…この人でなしめ(苦笑)!
いろんな島さんを揃えただけでなく自らも島となった黒やん体当たりのリアクションはかなりの好感触の証.普通のバトルなら勝っていてもおかしくないレベルなんだけど,今回はさすがに相手が悪い.続いて差し出されたのり平のパンを食った黒やんは…その妄想世界を無意識のままに現実に広げ,いかにもゴールデンらしい高尚なリアクションを繰り出します.
河内の顔どころか会場全体にどこぞのペイントソフトのようなエフェクトをかけてしまう黒やんのリアクション! フィルタがかかったこのあたり,雑誌では印刷が汚くて見難かった覚えがありますが(笑)アニメでカラーで動くとやはり映えますね.このもやもやとした画風はモネ.モネや→モモや→桃屋とダジャレ的には普通ですがスポンサーでもないメーカー名を礼賛しちゃう本作はやっぱりどうかしているわけで,今回はサンピエールの勝利!
そしてさらに展開される,写楽を筆頭とした名画テーマの連続パロディ.パンタジア側の「島」揃えと違って爆発力はありませんが,この先何年経っても劣化しないであろうこの笑いこそ一般向けアニメの選ぶべき道であります.桃屋がパンタジアに勝っていたのはまずはノリの煮込み時間.生ノリならば炊き上がるのも早いから長時間の煮込みは逆効果.のり平が選んだ30分の浅炊きこそが唯一の正解なのだと,黒やんはみどりの髪も美しいモナリザこと河内に説教します.
そして,のり平がさらに優れていたのがノリを包むのにとうもろこしと小麦の菓子・パータフィロを使っていたこと.生春巻きに比べれば格段に噛み切りやすい生地を使ったことにより,サンピエールのパンは全体として素晴らしい歯切れの良さを得たのでありました…ってなくだりをひまわりやらムンクの叫びやら中国山水画やらウォーホルやらのパロディによって表現する黒やんと巻き込まれている河内.パンタジアも素晴らしかったけれど肝心の部分の詰めがサンピエールより甘かった.一時的にはウケたけれど,芸術となるまで磨き上げられたものではなかった.これが最大の敗因です.

かくして絶対落とせない大一番をついに落としてしまったパンタジア! 作り手が危ない橋を渡って呼んできた凄い刺客は,見事に役目を果たして最強の主役を倒してくれました.実際本作では和馬の強さは反則レベルで,これを負かすのは並大抵の敵ではそもそも無理.しかし,そのキャリアが段違いである桃屋の人ならば仕方ないと,視聴者だって納得せざるを得ないのです.
しかも敵役に回ってもらった豪華なゲストに対する心配りも忘れてません.さっきまでの敵の健闘を讃えた上に自作秘蔵のノリレシピ集まで渡してくれる桃屋の人はいい人だ.日本人の手で既存の料理を改革していこうとする意志は全ての国内メーカーが持つべき高い志.パンとノリという題材の違いはあれども,山崎パンも桃屋も真剣に日本の食を追及し日々前進していくのであります.…世にCM手法は数あれど,ここまで広告効果の高い使い方はそうはないだろう.河内の顔については無視しつつ,窮地の次回に続きます.

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焼きたて!!ジャぱんですよ#63

「史上稀に見るすごい出オチの巻」

「焼きたて9」の5回戦で実の兄と対決した冠はジャム勝負に引き分けてしまった.後継者問題は一番いい形で決着したため文句なしだが,次の対戦は一気に2枚のパネルが与えられる重要なものとなってしまう.この戦いにサンピエールは権利をクリアした上でなんと桃屋の人を投入.しかも第6戦の舞台は海苔で有名な十六島,さらにチャンスパネルなので勝者にはパネルを1枚プラス.サンピエールが圧倒的に優勢なこの状況で,桃屋の人は和馬たちにその実力の片鱗を見せる.ごはんですよトーストによって和馬が発した超絶リアクションは,ついにフィクションの殻を破り現実までもを侵すのだった.

原作を読んだ段階で「さすがにこれは無理だろ」と思っていたネタにも果敢に挑む無謀な「ジャぱん」.過去のリアクションの中では大麻ジャぱんが最もきわどいネタじゃないかと思いますが,今回のリアクションはそれすら越える凄まじい迷惑のかけっぷり.歴史改編によって作品世界中の時間の流れをひっくり返した大麻ジャぱんに対し,パンにごはんですよを乗せた奴は作品世界の外側にあるタイトルに影響を及ぼしちゃったからさあ大変.
これをわざわざやろうとした奴も相当どうかしてますが,許可した奴もやっぱりどうかしています.ある意味アニメの歴史に残る偉業の達成は,褒めてやったほうがいいんでしょうか.それとも怒ってやったほうが本人たちのためになるんでしょうか…(苦笑).

前半.和馬不在の第5回戦は接戦の末になんとか引き分け.明らかに格上であった堤相手に引き分けに持ち込めたのは相当な健闘であったわけですが,いつだって冷静に場を見ている冠は結果に憂鬱.ちなみに後継者問題については1名を除けば満場一致で前回の結論に満足です(笑).和馬がさらっとひどいこと言ってんなぁ….店長の意志はまあどうでもいいとして,このままじゃサンピエールを倒したとしてもパンタジアが組事務所みたいになりかねないんだけどそれはいいの?
冠を憂鬱にさせるのは引き分け時のルールと勝負の流れの変化.引き分けた場合次回は一度に2つパネルが取れる上,連勝を崩されたことによって場の流れは明らかにサンピエールに傾いている.回を重ねるごとに敵の刺客は強さを増しているから,重要な次の戦いには絶対とっておきの超強敵が来るはず!というのが冠の読み.しかし現実は冠の予想を軽く上回ってくるんだからラスボス霧崎恐るべし.病から復活した上にどこまでも楽天的な和馬は心強いけれど,そんな和馬すら狼狽させる恐ろしい未来が会場に待っていたのです.
てなわけで第6回戦の収録開始,パンタジアの3人とお茶の間を驚愕させる強敵のその姿は!CMで見たことのあるあの人だ(笑)! 相手は誰だろうと関係ないとか言ってられない対戦相手は桃屋の人.影すらついてないあのキャラクターそのままで,山崎パンの牙城に乱入! 桃屋の,そして山崎パンの懐の深さはかのサンリオ以上ではないかと思います(苦笑).
桃屋の人こと三木のり平は日本の英雄.特に説明しなくても視聴者はその凄さを嫌ってほどに知っている.作中人物に権利関係を心配されるほどの大物の登場はまさにサプライズ.たぶんそこらの作品内CMよりもずっと効果的じゃないかと思います.放送打ち切り覚悟の大技を繰り出せるのもこの時期だからってことなんだろうけど,何はともあれともかく無茶苦茶です.
この人が出てきたら予想される次の課題はアレしかなく,案の定次の舞台は島根県の十六島.日本有数のノリ産地が舞台な上にさらに乗ってくるのが焼きたてチャンス.星つきパネルを引いた場合,勝者にはもれなくもう1枚パネルをプレゼントという限りなく後づけのインチキルールがパンタジアを襲う! パネルの選び方でこれまでの苦労が水の泡となる大ピンチ.最悪だ….
ぽっと出の和馬たちなんかとはキャリアの違う大ベテランとよりによってノリで闘わねばならない上に,試合に負ければ最悪パネルを5枚も取られる大ピンチ.しかも新参の食品関連キャラクターに容赦ない追い討ちをかけてくるところもさすが大御所.ジャぱんに興味を持ったというのり平は自己紹介がわりにごはんですよトーストを差し出します.…和馬たちの後にあるアニオタ刑事のパネルがどうしても気になる…(笑).
のり平のトーストを食べたのは和馬.しかし彼はトーストに対してなんのリアクションも取っていない…わけじゃない.わざわざ多大なる迷惑をかけつつも外部から招集した凄いゲストの実力は半端ではなく,今までの敵で最強と判断するに相応しいリアクションが巻き起こっていたのでありました.巻き戻せばタイトルが「ジャぱんですよ!」に変わってる….アイキャッチやテレビ欄や原作18巻や当時の連載誌でもやっぱり「ですよ」がついていたのです.わざわざ全部タイトル替えるだなんて,なんてスケールでかい上に無駄に迷惑なリアクション! 原作のときもびっくりしたけど,まさかアニメでこれをやるとは…各方面に考えられないほどの迷惑をかける,これが今の「ジャぱん」という作品の実力というか覚悟というかバカぶりです!

後半.前半終盤の展開でパンタジアの面々は視聴者ともども度肝を抜かれたわけですが,それでもバトルから逃げるわけにもいきません.十六島にはもうやっぱしノリしかなく,敵はタイトル替えるほどのノリのスペシャリスト.しかしそれでも和馬は大バカなのでそれほどくじけず,前向きに勝利の道を探します.この勝負はパン勝負だからノリで負けてもパンで勝てばいい,という和馬の考え方は間違ってはいないんですが,黒やんが今回のパン作りに特に要求しているのはインパクト.見た目だけであまりにもインパクト溢れるあの人に勝つのはかなり難しいはず.
しかし,そこまでは考えてない和馬たちはまずは勝負のためにノリを手に入れるべく港へ.このあたりで採れる筆海苔は100グラム数千円から2万円の超高級食材.羽織にできるほど丈夫で硬いこのノリをごはんですよ並に柔らかくしなければ,そもそもパンと組み合わせることができない…と思ったら,和馬がぺぷみコーラを出してきました.なるほどこっちの権利はだめでしたか(笑).病に倒れた前回分の活躍を取り戻すべく,今回の和馬は実によく活躍しています.
コーラの炭酸の力で柔らかくする,肉の煮込み料理でよく使われるコーラ煮のテクニックをノリ相手に再現する和馬.現地のおっさんに頼んで鍋やコンロをちょちょいと調達してみせるあたりがおかしいけどリアル.大体ああいうものは港には装備されているものです.黒いノリを黒いコーラで煮るという奇行レベルの路上クッキング.地元の子にまで笑われながら和馬謹製のノリが完成し,嫌がる河内に食わせたならば…権利はダメだった割に無駄にノッてるなぁ(笑).
あたかも計ったようにさっきの女の子がいきなり海で溺れているのはリアクションの前兆.本作はおいしさを表現するためには幼女を海に落とすことすら厭いません! 素人では溺れるから助けにいけないところに颯爽と飛び込んでいく,河内のリアクションであるぺぷみマン! …リアクションそのものも相当どうかしてますが,ぺぷみマンのテーマ曲が無駄によく出来ていて素晴らしい.きっとここにしか使えないだろうに(苦笑).サメだって倒して女の子を助けちゃう河内ぺぷみマン.オリジナルと同じく「しゅわー」しか言えないスーパーヒーローのこの河内,和馬にとってはなんだかうざい.和馬にとって河内はヘタレで当然であり,無駄にヒーローらしいのは許せないってことなのかな(笑).
本日の宿は冠の家庭の危機も終わったのでいつものボロ宿に戻って苦露荘.掛け軸までも真っ黒だと河内はひたすら文句をたらたら.冠にとってはこの河内はいつものようにうざい.冠にとって河内は別に喋らなくてもいいものであり,無駄にぺらぺら喋るならしゅわーの方が随分マシってことなんだろうなぁ(苦笑).
コーラ煮すればパンに合うやわらかいノリができることはわかったから,今度はパンをなんとかするしかない.あのスペシャリスト相手では間違いなくノリ単体で勝てないからこそ,今のリードを守るには得意なパンの工夫で押し切るしか選べる手段がないのです.パンの天才である和馬は割に調子がいいようで,次の工夫,ご飯並みにふっくらした生地の作り方についても既に着想があるようですが,そんなぽんぽん思いついたネタであの影のない人にどこまで食らいついていけるかは微妙.トータルの成績では追われるものですが,この戦いに限ってはパンタジアはかなり格下の挑戦者であることをもう少し自覚するべきではないかと思います.

翌日のステージは人で満杯! 十六島周辺の人々をここまで煽り立てるごはんですよの無料配布恐るべし(笑).さらに熱狂はのり平さんのロッカーぶりで最高潮へ.桃屋さんになんて無茶なことをさせてるんだと狼狽しそうにもなりますが,元々CMで様々なコスプレを見せてくれていた彼にとっては普段と何も変わらないのかもしれません.
常に自然体でここまで歴史の荒波を乗り越えてきた超ベテランキャラは,歴史の浅いパン宣伝キャラたちに果たしてどんなことを教えてくれるのか.生春巻き程度でパンタジアは桃屋に勝てるのか.そして製作者のやりっぱなしは果たして許してもらえるのか? さらにきわどいリアクションが待つ,次回に続きます.

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焼きたて!!ジャぱん#62

「もはや後先考えてないよねこのリアクションの巻」

「焼き立て9」の舞台を借りて,将来をかけて兄弟対決することになった冠.あまりにも兄が有利な状況に絶望しそうな冠たちのところに,倒れたはずの和馬が病院を抜け出して戻ってきた.諦めない和馬の行動は素晴らしい着想をもたらし,冠は翌日のジャムに堂々と挑む.
溶岩石の鍋にジャムフランベ.弟に対する深い憎しみを抱いた堤が繰り出す本場の技は冴え渡り,完成した燃えるジャムは審査員の黒柳にとんでもない行動を強いる.煮えたぎるジャム鍋に顔を突っ込んで顔面にひどい火傷を負う黒柳.その姿は幼児のスーパーヒーローを作った人にひどくよく似て危険だった.

たった9マスの道程も半分を越え,いろんな意味で険しい道がクライマックスまで続くに違いない「ジャぱん」.和馬たちも大変そうだけど製作現場だって相当厳しいことになっているに違いない.しかしそんな逆境の中でも他人のキャラをインスパイアするだけでなく主要キャラの一人に新設定を原作どおりに追加する作り手の間違った根性万歳.ゴールデンタイムにやるからこそ価値を増す激しい悪ふざけの世界がここにあります.

これまで連勝を続けてきた和馬たちだけどさすがに今回は分が悪い.冠の兄である堤の腕も怖いんだけど,それ以上に和馬が倒れてしまったのが洒落にならない.どれほど不利な状況であったとしても「○○ジャぱんじゃー!」と叫んだ瞬間に戦況を根こそぎひっくり返す秘密兵器なしにパンタジアは戦わねばなりません.たった2人のパンタジア,しかも河内は数に入れられないという状況で,冠は一人でよくここまで頑張ったと思います.
しかし全ての面で兄に上を行かれてもはや諦めるしかないかと思われたそのとき!病院を脱走しふらふらの和馬が宿にやってきちゃいました.自分の体がどうなろうとも仲間のことを忘れられない和馬は筋金入りの大バカで,そんな一途な主役だからこそバカだけども好ましい.で,和馬を看病する過程で冠は逆転の1手に気づきます.最高の職人は作らずして最高の味を導くことができるようです.
翌日,決戦当日のバトル前.可愛い2人の息子をややこしい状況に巻き込んでしまった冠と堤の父,橋口組長は複雑な思いとともに戦いを見守りにやってきました.こんなときばかり父らしくふるまう組長に堤は反感を抱いているようだけど,ヤクザの組長の場合はいくら行きたくても授業参観に出ないほうが子どものためだろうに.きっと息子たちのためにいろいろずっと我慢してきたはずの父は,未だにこの戦いそのものの是非に悩んでいます.
組長が今すぐにでも欲しい橋口会の後継者.数万の子分を束ねねばならない立場には超一流の人材を迎えねばならないわけですが,別の業種で超一流の成果を出しつつある息子たちの道を曲げるのは申し訳なく,しかし組には息子たちの代わりになる人材はいないし…と悶々.組織の長はバカで務まるはずもなく,苦しくても出来のいい息子たちに望みをかけねばならないのです.…実際,頭の回る冠が組長になったら橋口組はかなりいいとこまで行きそうな気もします.
真面目に悩んでくれている父の心中など知らず,弟に対する憎しみばかりを煮えたぎらせているのが兄の堤.自分の場所を奪った上に自分を越える才能を示した冠への嫉妬は深く,この場で絶望した弟をさらに容赦なく叩きのめすことでのみ鬱憤も晴らされるもの…と思ったら,昨日散々打ちのめしたはずの冠が意外と元気に登場.今日は不在の和馬のかわりに遅刻芸も披露.彼が手にしているのはリンゴの木.対戦相手に想像のつかない素材の登場は逆襲への序曲となります.
対戦開始.兄は早速溶岩石の鍋を出して煮えたぎらせているわけですが,この状況の意味は料理の知識のない一般人にはまったくわからない.で,ひょんなことから松代店長と接触した組長は,息子たちが何をしているのか解説を頼み込むのでありました.…軽くヤクザどもをやっつける魔人ぶりを示す松代店長にそんなことを頼み込む組長はさすがに度胸がいいなぁ.一度は説明を断る店長を翻意させる月乃さんのとりなしがうれしい.肉親と戦ってきた彼女だからこそ,肉親の情には特別思うところがあるんでしょうね.もちろん店長にもちゃんと情はあり,前途有望な可愛い後輩を守るため万が一の場合には組を相手に喧嘩するつもり満々です.
こうして店長の注釈つきで展開する兄と弟の一騎打ち.河内はもちろんいつものように戦力外(笑).兄はジャム鍋としては最高の溶岩石鍋で暖かいジャムを作る.ただし暖かいジャムがうまくても市販の冷蔵ジャムを暖めても甘過ぎてうまくないのでご注意ください.さらに堤はカルバドスでフランベしジャムに素晴らしい香りをトッピング.鍋から炎の立つ実に見栄えのいい技術を披露した上,兄は必殺の燃えるジャムを黒やんに提出したのでありました.
さて,本作は主に試食者の珍妙なリアクションを楽しむための作品であり,作られるものが美味くなればなるほど食う側のリアクションに際限がなくなるという重い宿命を背負っております.宮廷料理人謹製の凄いジャムを目にして鼻にした黒やんは辛抱たまらず燃える黒鍋に頭をそのままツッコんだ(笑)! こんな新種の拷問は絶対真似しちゃいけません.しかもこのリアクション,黒やんの命も危ないけれどリアクションの暗示するものも相当に危ない.心眼で見ると黒鍋を顔につけた黒やんは幼児のスーパーヒーローに見えてきます.サンライズがお送りする制作会社巡りの旅は今回はトムス・エンタテイメントをお送りします.しかも黒やんが表現したいのは正義の味方を作った者.やなせさんではなく「…ジャムのおじさんや!」

後半.いろんな意味で危ないジャムのおじさんを火傷で腫れ上がった顔で表現する命懸けのリアクション師黒やん.溶岩石の鍋と紅玉のカルバドスを使ったフランベはジャムのおじさんにも大満足であり,このレベルの危険なリアクションが炸裂すると戦況を引っ繰り返すのはかなり難しいはず.しかしバカだから諦めの悪い河内はまだまだ冠の勝ちを信じている.バカだからリンゴの木を何に使うのかは知らないし,バカだから同じチームの作戦内容を私生活とごっちゃにしてはいるけれど(笑)それでも冠には相手の予想を越える1手があるはず!
冠の特製キッチンでもうもうと煙が上がって動揺する父親だけれどこれは調理の一環.ドラム缶でジャムを燻製にする温薫だ! 燻すのに使うのは当然遅刻しかけて手に入れたリンゴの木.燻製は使う木で香りが変わり甘いものを燻すときにはリンゴが最適.和馬を暖炉の火で暖めたことからこれを思いついた広い知識と,翌日には失敗できない会場でそれをやってのける経験と腕にさすがの兄もびっくり.しかしそれでも自分の優位は揺るがないはず…と信じてはいるけれど,冠のジャムを食った黒やんのリアクションについては激しく動揺せざるを得ません.
冠のジャムを食った黒やんは沈黙し,心の赴くままに動き出します.ふらふらと歩みゆく彼の先には燻すのに使ったドラム缶.堤は必死で審査員のリアクションを止めにかかります! これは審査妨害ではなく諏訪原忍者が和馬のパンを奪って逃亡したのと同じ意味.今の黒やんにリアクションを取らせてしまうと本人が死んでしまうがゆえの緊急避難措置! ドラム缶に入ってリンゴの木で燻されてしまったら,ジャムのおじさんの燻製が完成してしまう.自殺行為を止めるべく総出でジャムのおじさんの進撃を止めようとするものの,トランスゆえに彼の力は半端ではなくこのままではチンピラ総出でも止まらない.突進するリアクション馬鹿を止めるのが松代店長の心理分析!
人はある行動が何らかの事情で出来ないときには,別の行動で自分の欲望を満たそうとします.今自分を燻してジャムのおじさんの燻製を作ろうとしている黒やんを止めるには…月乃さんを占い師にして運勢を占うしかない! やったら死んじゃう燻製ではなく運勢を占われ,うんていにぶら下がることで己をごまかし慰める黒やん.…いくらトランスしていたとしても,心のどこかではきっと死にたくはなかったんだろうなぁ…(苦笑).そして,この現実離れした状況で適切なダジャレを出して一人のスーパー審査員を救った男の胆力と判断力に,つい魅了されてしまう者が出てしまったのでありました.

黒やんをジャムのおじさんに変えた堤のジャムと危うくジャムのおじさんの燻製を作りかけた冠のジャム.その味わいは甲乙つけがたく,結局勝者なしの引き分けに! 黒やんの精密な判断の結果引き分けってことは,まったく違った技法を使っても優劣がつけられなかったんでしょうね.それじゃ今回のバトルの焦点である跡継ぎ問題はどうするのかと思ったら,男が男に惚れてしまったために明後日の方向に流れ弾が飛んで行った(笑).料理に対する真の熱意を持つ息子たちよりも組長に相応しい男がここにいた!
見た目も性格も申し分ない上に腕も立つ上に判断力も知性もある.その上,下の者を率いるカリスマ性まで持ち合わせた男の中の男として推薦されちゃったのが松代店長! …元々あの風体でパン屋の店長と言い張ることの方に無理があると思っていた全員がこれを歓迎してしまい,店長はアンタッチャブルな世界に強制的に引き込まれていくのでありました.…本人以外はめでたしめでたし.しかし引き分けのパネル1枚分が次回持ち越しとなったことで「焼きたて9」には激動が訪れます.本当にとんでもないのが来ちゃう次回に続きます!

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焼きたて!!ジャぱん#61

「異常事態が呼び込むピンチ!の巻」

「焼きたて9」で冠と橋口組後継者の地位の押しつけあいをやるために,冠の異母兄である堤がやってきた.パン職人としての自分の今後がかかった勝負に冠の心中は複雑だが,和馬たちは彼のためにも頑張るつもりだ.けれど次の勝負の舞台は堤が圧倒的に有利な信濃町で,作るのもパンに塗るジャムのみ.ジャムの本場であるオーストリアの料理を極めた堤に勝つことは並大抵のことではない上に,河内と違って頼りになる和馬までもが熱を出して倒れてしまう.

敵側が圧倒的に有利な状況でも和馬の凄い着想で切り抜けてきた「ジャぱん」.今回は焼きたて9シリーズからレギュラーに昇格した冠君の家庭の事情がメイン.にこやかな言葉のナイフで主に河内を容赦なく切り刻むことでおなじみの冠.モナコカップでも彼の判断がなければ既にパンタジアは完全にサンピエールに吸収されていたはずで,分野を問わない博識ぶりと冷静で大胆な判断力には定評があります.彼の質の良い知識が天然の和馬を脇からしっかり支えてくれたことに間違いはありませんが,今回はいつもとは構図が逆に.手ごわい敵に挑む冠を和馬はしっかりサポートするべきなんだけど,その和馬を思わぬ事態が襲ってしまってさあ大変! …その傍らで動きは一番楽しく描かれているんだけど,本当に河内って勝負の役に立たないな(苦笑).

前半.パンタジアに次の戦いの始まりを告げたのはいかにもその筋のお兄さんたちの来襲.堅気の仕事場に白昼堂々押しかけるだなんて余程のことがなければ起きない異常事態です.で,この事態を腕力でなんとかしちゃおうとするのが松代店長.パン作りのために鍛えられた体もパン作りで鍛えられた胆力も無駄にリアルファイトに向いていて,得物を持ったチンピラ程度では話にならないのでありました.鍛え上げたパン職人がごろごろしていそうなお店には,殴り込みなんかかけないほうが身のためです.
そんな殴り込みが来ていることを脇役和馬に教えられた主役の冠は眺めていたニュースもそのままに外へ.そして,自分たちのボスがヤクザより怖いという事実を改めて実感することになります.1発で仕留められない時はお前が死ぬとか平気で言っちゃう店長の化け物ぶりが実に恐ろしい(苦笑).
暴力を前にその凶暴な本性を惜しげもなく剥き出しにする店長に対し,冠が見せたのは今まで隠してきた彼の背景.若き秀才としておなじみの彼が黙っていた現実は,押しかけた極道さんたちに「ぼっちゃん」呼ばわりされる立場であったということ.もちろん夏目漱石じゃありません.彼は橋口組の組長の息子.昔はともかく今の極道に頭脳は重要で,どんな鉄火場でも冷たく大胆な手を打てる冠の才能は,パン業界以外,例えば橋口組の跡取りとしても必ずや輝くに違いない.
わざわざ極道がパンタジアに押しかけたのも冠が後継者候補になってしまったから.もう一人の候補は冠の異母兄である堤.彼は最近日本に戻ってきたオーストリアの宮廷料理人.一流の職人として料理の道を歩む堤もパンの道に生きる冠も組長なんかになりたくはなく,後継者の押し付け合いレースを「焼きたて9」の場で争うことになったのでありました.
血の半分繋がった兄と将来をかけて闘うことになってしまった冠.…日本最大級の組織の長が完璧に罰ゲームにされちゃってるのがなんだかな(笑).目端の利く冠は自分が逃げればパンタジアに迷惑がかかると考えて,負けたら素直にその罰ゲームに従う覚悟.もちろん勝てば何の問題もないけれど,いくらカラ笑いしても気分が晴れることはありません.一見軽そうに見えますが彼のパンに対する姿勢は実に真面目であり,しかも相手が有能なシェフともなれば万が一のことを考えないわけにはいきません.
そんなわけでついつい気弱になってしまう冠に,脇役の和馬は「河内はともかく俺がついてる!」とさらりとひどいことを言って力づけた上に場を和ませます(苦笑).河内が全然役に立たないのは当たり前として,あの和馬が冠をヤクザになんかさせないと頑張ってくれれば勝機だって見えてくるはず! …しかし,どんな凄い宮廷料理人でも日本の素材には慣れていないに違いないなどと河内が珍しくいいことなんか言ったおかげで,事態はあっという間に暗転してしまいます.人間,慣れないことはするもんじゃありません(苦笑).
「焼きたて9」の次の舞台は外国人の軽井沢,日本のヨーロッパ信濃町! しかも作るのはパンなしでジャムのみ.パンタジアの主力である和馬はパン作りの天才ですが,新人戦で焼きそばパンを作ったときに露呈したとおりパン以外の調理に関してはからっきしもいいところ.その上兄が宮廷料理人となったオーストリアの誇る食品こそがジャム.体験ツアーまであって幼稚園児でも作れるくらいってんだから本場中の本場であり,まさに絵に描いたような苦境に冠はずっぽり沈みます.ただし,本当の苦境の前兆は隣でくしゃみしていたわけですが….
そんな憂鬱な中で,はじめましてとご挨拶する兄の堤.弟を天才と誉めた上にわざわざ持参したパン・ベルリーナを差し出します.それを河内が喰ったなら…そのまま白鳥の湖に! ベルリーナでバレリーナなのであんまりヒネリはないわけですが,異様にいい動きでリアクションしてくれていて実に面白い.河内をくるくる回すほどに本場のジャムとは美味いものであり,オーストリア文化を学ばぬ者が作るジャムはただの果物の煮汁だと静かに激しく挑発する堤.なんせこの兄貴,幼い頃から出来の良すぎる弟の影に隠れてしまって,極度の劣等感と憎しみをその身に抱えた怨念深い相手でありました.
負けたときのペナルティの重さと敵の強さばかりを味わったあと,舞台の信濃町に移動した冠たち.外国人の軽井沢と称されるほどの美しい避暑地に入ったら,珍しく河内が下調べなんかしてきたもんだから大変なことに.ジャムに使うなら大黄と呼ばれ古来から漢方薬として使われてきたルバーブがいいんじゃないかという河内の下調べは大正解なんだけど,さっき寒気を感じていた要の和馬が倒れてしまいました! ああ,だから慣れないことなんかするもんじゃない(苦笑)!

後半.和馬は急性の扁桃炎ということで3,4日の休養が必要になってしまいました.これでは「焼きたて9」の収録には和馬は間に合わないってことだから,さすがの冠も今回ばかりはやばいかもと覚悟を決めはじめてしまいます.しかし勝負をしないわけにもいかないので翌日にはちゃんとルバーブ畑で材料調達.材料の試食&リアクション係と化した河内にルバーブを食わせたら,あまりの甘酸っぱさに大黄こと大王となりました.しかも河内なので王様というよりは明らかにバカ殿にであり,こんなアホにつき合わねばならない冠は実に大変です(苦笑).
大黄の冠をかぶったバカ王様に問われた冠が申し上げる勝つための秘策は,食材を真空の中で沸騰させる氷温濃縮機の使用.生の風味に近い状態で調理ができるという優れた機械の名がすぐ出てくるところはさすがは冠なわけですが,しかしそれでも今回の相手にはまだかなわない.またも弟の前に姿を現した堤.河内は変な生き物なのでまあいいとして,兄が見せる手の内には溶岩石があり,それを見ただけで何をしようとしているのかを察知する冠.彼が作るのはジャムフォンデュ.暖かいジャムに違いない!
元々出来立ての温かいジャムは大変にうまいものである上に,焦げ付きのない溶岩石でそれを作られたら氷温ジャムは決して勝てない.だから冠は必死で酒屋を巡り,なんとしても兄の上を行くジャムをつくるためにあがきます.河内が酒屋の棚をひっくり返すことで発見された長野の至宝,岐阜のイメージが流れ込む貴腐ワインがあれば温度差すらもひっくり返せると思えたのもつかの間!またもやってきた堤が手にした酒は長野産のカルバドス.兄は燃えるジャム,ジャムフランベをやるつもりだ….
ちなみに2人の兄弟が是が非でも継ぎたくない橋口組では,この料理勝負が兄が弟を潰すためにわざわざ仕掛けたものであることが明らかにされています.冠の出来が良すぎて常に劣等感ばかり抱かされてきた兄は,自分が絶対勝てる場所で全力で弟を叩きのめしたいくらいに憎しみを煮えたぎらせてしまったようです.…気持ちはわかるが大人気ないなぁ(苦笑).実際に2人の父であり作者に大変良く似た組長も,別の業界で一流となった息子をこの世界に引き込むことに疑問を抱いているようです.

ことごとく自分の上をいく兄の凄さに冠は珍しくべっこりへこむ.和馬不在の逆境で精一杯頑張った自分の計画が全て直後に潰されちゃ,いくらタフな精神でも折れるというもの.ここまで見事なタイミングで弟を襲った堤は,恐らく冠たちの後をぴったりつけてきたんじゃないかと勘ぐりたいぐらいです(苦笑).兄の執拗な精神攻撃にすっかり落ち込んで今日の宿,苦紗荘に入った冠たち.軽いけど真面目な秀才の冠と熱血だけど大変なバカである河内にできることはなく,このまま負けるしかないかと思われたそのとき! それじゃだめじゃと病人和馬がやって来た! 天才でありかつバカでもある和馬は諦めることを知りません.このふらふらなリーダーは,どのようにして敗北寸前のチームを立て直すのか? 次回に続きます.

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焼きたて!!ジャぱん#60

「真っ直ぐ優しい愛すべきバカの巻」

焼きたて9・第4戦の舞台は大曲.曲がったものを取り入れたいこのバトルで和馬と諏訪原はともに同じ材料,同じ手法を選んでいた.生のネギを生地に練り込みブランシールで補強,そしてさらに諏訪原が見せた超絶技巧トゥルニュ.難易度の高さから廃れた幻の技を盗んだ諏訪原がつくりだしたねじ曲がりルぱんは,黒やんの体を捻り上げていく.

目的を果たすためならどんな手段も厭わない「ジャぱん」.1時間スペシャルの後半です.勝利とかうまいパンを食うことの方が自分の命より大切という過激な思想は,己のパンを極めるために家族を捨てたラスボス霧崎の思想にもつながりかねないのでほどほどに.それに審査員兼司会者なんだから,次回があることを考えろよ黒やん…(笑).味覚が消えた回にも思いましたが,この番組,審査員と司会者を同じ人格破綻者にやらせているのは絶対に間違いです.それに比べると諏訪原は本当にいい奴だ.

前半.大曲での対決は「曲がったもの」という素材の縛りが案外きつく,結局サンピエールもパンタジアも同じ方向へ.最高のパンを作ろうとすれば曲がりネギを生で生地に練り込む以外の手法が取れないし,うまく練り込んでパンにするためにはブランシールでの補強も不可欠.ただし,コスプレ忍者諏訪原の元には最強の菓子職人のモニカがいて,ハラキリさせないためにも素晴らしいブランシールを作ってくるはず.さらに諏訪原にはジャぱんを越える技術も持っている…とうことで,現状ではサンピエールが明らかに有利.しかし,勝敗はパンができあがるまではわからないものです.
パンタジアの和馬のもとにひらめきの神が降りたのは翌日の出発時.生地にブランシールを入れるまでは思いついていたものの,そこから先にもう1歩進めたい和馬の目の前で,戸を閉めた段階でがらがらと崩れる昨日の宿! 一体どんな絶妙のバランスで今まで持っていたのかはよくわかりませんが見事一瞬で全壊.折り重なってぺちゃんこに!…人が中にいたらたぶん死んでると思うので「ああびっくりした」とか冷静に言ってる事態じゃないぞ冠(苦笑).しかしこれこそが和馬にとっては神の大ヒント.「これじゃー!」と最後の駄目押しに目覚めます!
さあ4回戦本番! コスプレ忍者こと諏訪原&モニカとのパン勝負開始! 観客にとっては今のところ謎の忍者な敵などについて,今回も応援に来た月乃さんと松代店長に説明する河内.登場時の「命」もネタとしてはかなり風化してんなぁ(苦笑).試合開始1分でいきなり戦力外通告されている河内こと司令塔.大切なのは闘う前に力を与えることだとすれば,今回の河内の役割は命の危険も顧みずあの宿に(偶然)引導を渡したことくらいか? きっかけは与えたものの具体的にはもちろん何も与えていない自称司令塔は店長からの追及を軽やかに無視.店長の話に乗ったら負けというよりは,そもそも和馬が何をしようとしてるのかすらわかってないあたりで常に大負けの河内.ここまで役立たない奴は仲間として扱ってはだめだ….
てなわけで和馬は河内にはまったく考えが及ばぬほどの天才であることはおなじみですが,諏訪原だって才気溢れる職人であり,しかも今回は凄い覚悟で出ているはずだから警戒せよというのが店長の教え.まあ,河内に言ったって何がどうなるってもんでもないんだけどね.しかし諏訪原の凄さは対戦が始まればすぐにわかる.食材と調理法が天才和馬とほぼ一緒! ただしモニカのブランシールは明らかに和馬たちより上のもので,その上諏訪原は歴史の中から盗んできた凄い秘密兵器を繰り出します!
釜伸びしやすいものの技術的な難易度が高く,失敗すると大変まずくなるために廃れてしまった古のパン作り技術・トゥルニュ.生地を一定方向に捻る幻の技によって,ネギを混ぜることで膨らみにくくなった生地を膨らませ美味くする! …和馬という真の天才の横で脇役を演じざるを得なかった諏訪原.例えば冠のように和馬とはまったく別の強みを発揮すれば,あるいは河内のように噛ませ犬だろうとなんだろうと平気で演じる鈍さがあればこれほど苦しむことはなかったけれど,どちらの道も選べなかった漢が今,持てる限りの技術を注ぎ込みます!
しかしたとえどれほどの技術と心を注ぎ込もうとも,天才とそうでない者を隔てる溝はあまりにも深い.ここまでやれば今度こそ和馬に勝てるかと思ったら…天才は特殊技術を誇ることもなく生地を折りたたむ.曲がった宿がぺしゃんこに折れたあの現象にヒントを得て,生地を折ることによって釜伸びを促進するフォンデュという技術を自ら発見して投入してきたわけです.一応諏訪原はトゥルニュのほうがフォンデュよりも優れていると判断してはいるけれど,天才のやることは完全に予想することができない.それでも,自分のネジ曲がりルぱんの出来をおろそかにすることはなく,焼成され提出されたパンは黒柳の口へと運ばれます.

後半.諏訪原渾身のひねられたパンを口にした黒やんは,…ぐるぐる曲がるぐるぐる曲がる(笑)! 足から首まで,人間の体では絶対無理な回転ぶりを見せるスーパー審査員.1回転2回転とどんどんねじれて,その様はまさにホラーに出てくる化け物.爽やかな笑顔でパンを誉めるのが余計に怖い(苦笑).パンの味わいによってコスプレ忍者の正体もまた明らかになるわけですがそんなことはまあどうでもよく,ともかくこのネジ曲がりルぱんに諏訪原が込めた気合と覚悟は,体を無茶な方向に曲げねばならないほどの素晴らしい味わいとして伝わったのでありました.
普段から和馬のパンのような危険極まりない代物を口にすることによって鍛えられていたがゆえに,ネタ的にはひねりがないものの見た目のインパクトが激しいりアクションを見せた黒やん.この捻られた体はそう簡単には元に戻らないわけですが,そこに差し出されたのが和馬が作った大曲ジャぱん! 生地を何度も折りたたむことで作られたその形は,諏訪原の技術を誇るパンに比べれば何のひねりもないようで…しかし,今の審査員にとってはまさに致命的!
審査員はパンを食った美味さを心の赴くままに表現するもの.ただし黒やんくらいのキャリアがあれば食うことで自分の体がどうなるのかの予想くらいはつくはずなのに,それでも和馬が差し出すパンを喰おうとする黒やん.諏訪原はその横からパンを奪い取り,自分の負けだと一方的に宣言した上で逃走! この行動には同じチームのモニカさんまでびっくり.諏訪原を敗北させたのは和馬が折り曲げたパンをさらに折り曲げてダブルフォンデュを作ったことが決め手.2重に折ることによって生地同士が触れる面積はトゥルニュの比ではなく,特製ブランシールのアドバンテージすらも一折で消えてしまったわけです.
和馬のパンを持ち逃げした諏訪原は一般人を曲げて足止めして離脱.素人さんですらあれほど曲がるなら,ひねられた今の黒やんが喰えば全身の骨が折れます.和馬が作ったパンなら失敗はありえないからと自分たちの敗北を即座に悟り,他人の命を守るために自ら負けを認めた諏訪原という漢は実に優しい.審査員は死にたくてたまらないようですが(苦笑)食わせたら死んじゃうパンを無邪気に差し出す主役と諏訪原では,心遣いが大違いです.
ただし黒やんの命を救った諏訪原は自分の命に対しては淡白.負けたら死ぬ気満々であったためモニカさんは深刻な事態を和馬たちに相談し,切腹と聞いてあわてた一同は諏訪原を追うことに.若干1名,諏訪原本人ではなく持ち逃げされたパンを追おうとしている大人気ない奴もおりますが,彼の鼻が今は頼りなので仕方がありません.黒やん,それほど死にたいのか…(苦笑).
発見された諏訪原は,川の中州で切腹準備完了.和馬という天才の前で柔軟にふるまうことができなかった不器用な男は敗北に折れて死に向かうところ,強引に引き止めるのが松代店長のとんでもない嘘.自分が死にたいから死ぬのだという実に不器用で自分勝手で子どもな諏訪原に,そんな無責任な態度だから和馬に負けるのだとお説教.無責任な男はパンに対する責任感の強い男にかなうわけはない.身ごもった女を捨てて死のうとする無責任な男が勝てるわけがない…と,とんでもない方向に話を転がしてきやがったのでモニカさんびっくり! いつの間にかお腹の中に,諏訪原の子どもがいることになっちゃってますよ(笑)!
いきなりのアドリブをこなすことになったモニカさん.これまでの状況からして明らかに不自然なことはモニカ本人が一番良く知っているけれど,それでも諏訪原を死なせないためには,嘘を曲げずに突き通すしかありません.必死のアドリブで子どもがいるってことにしたらびっくりした諏訪原はモニカさんを抱えて逃走.…諏訪原が真っ直ぐバカで,本当によかった(笑).

実際この真っ直ぐバカには親になるような甲斐性どころか知識すらなく,しかしその子ども並みの純真な感性で実に真面目に考えて,モニカさんと自分の子のために命を絶つことを断念してくれるんだから諏訪原はやっぱり優しい.強面の裏側にあるこの子どもっぽい優しさこそが,モニカさんを魅了してやまない彼の魅力なんでしょうね.…ただ,あの見た目と年齢であの知識のなさはやっぱり致命的なので,モニカさんは恥ずかしいかもしれないけれど諏訪原をどこかのタイミングで教育してあげていただきたいと思います.恐らくその教育の過程で,諏訪原は余計死ねなくなること請け合いです(笑).さて次回は冠君の家庭の事情.ゴールデンタイムではちょっぴり披露しにくい彼の事情は,どこまで原作通りに転がるんだろうか.次回に続きます.

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