虎の門創作むかし話王
今日は1週間前の「虎の門」いとうせいこうナイト2番目の企画「むかし話王」についてレビューしときます.1番目の試験は絵に描いたように全然だめだったんですけども(苦笑)こちらは書きがいがありそうなじんわり面白い企画だったのでご紹介.あ,ストーリーについてもご紹介していますが,これは明らかに先生が語ったほうが(追い詰められぶりが)抜群に面白いです.
「むかし話王」は伏せられたフリップから選んだタイトルと教訓から2分間のむかし話をでっちあげるという「昔ばなし」競技でトーナメントを戦い,最終的な優勝者が「むかし話王」に就任するというこの番組ではおなじみのシステム.古くから言い伝えられてきたむかし話を捏造する…というところが設定的な面白さなんですが,そこを混ぜっ返すときに「古くからあるもの」としてツッコむのか,それとも「即興作品」としてツッコむのか司会兼審査員のいとうも迷っております.他の審査員は勝俣とMEGUMIで,この審査員どもが積み重ねてくる未だ語られていないむかし話の逸話が4人の語り部達を激しく苦しめていきますので要注目.
今回むかし話王となるべく闘う4人の語り部は,木村祐一,アンタッチャブル山崎,清水ミチコ,よゐこ有野.口からでまかせを喋らせれば最強の木村兄さんに加え,これまでしりとりで天然系の技を見せてきた面子というのが面白い.戦いに挑む気合を語るはずが日常を語り始め迷惑がられる木村に,実に調子だけはいい山崎,既にキャラをつくりはじめている清水に,テレビゲームをクリアする仕事で寝ていない有野…と出だしから期待が持てますね.つうか,有野,その仕事は一体何だ(笑).そして彼らの前に立ちふさがる眠りたい勝俣,生々しいMEGUMI,オンタイム希望のいとう.しりとりに比べると審査員の役割が思った以上に重たいところが面白い.
準決勝第1試合は木村先生VS山崎先生の戦い.先攻は木村先生ですが,引いたタイトルは「ワサビと鬼」で教訓は「正直者が得をする」.ワサビが嘘つきに対するバツだろうか.悪い組み合わせじゃないですね.
「ワサビと鬼」
これは誰もフグが食べられると知らなかったころのおはなし.島根のある山村に鬼村サダキチというひとがおりました.サダキチは旅好きで全国を旅し,やさしい両親のところにおみやげを持って帰ってくるいい若者でした.一方,青森県には津軽の黒豹と呼ばれた鬼島マタキチというひとがおりました.彼は悪い男ですがサダキチと同じく旅好きでした.ある日,2人の青年は静岡で出くわしまして,2人ともおみやげを買おうとしたのですが,店に名産のワサビは1本しか残ってません.2人はワサビを取り合って,結局正直者がワサビを手に入れましたとさ.
実際の木村先生の語りでは最後がものすごい勢いで展開します(笑).とりあえずどっちが正直だかわからないのはもちろんとして,「鬼」はその扱いでいいのか(苦笑)? 先生曰くこの話の続編で我慢大会が行われるらしいので,恐らくはこのむかし話で一番面白いと思われる,その続編部分を聞いてみたいもんです.
後行の山崎が引いたタイトルは「お経を忘れたお坊さん」で教訓は「親はなくとも子は育つ」.司会が指摘する通り,子がいないはずのお坊さんとテーマの関係がかなり難しい.山崎先生はいつものとおり調子よく行けるかどうか.
「お経を忘れたお坊さん」
むかしむかし,さみしい子どもが一人で遊んでおりました.やってきたすごく楽しい子どもは,「なんでそんなにさみしいんだ」とさみしい子どもに聞きました.さみしい子どもは「両親がいないんだ」と激白し,楽しい子どももさびしい空気に巻き込まれ,同じくさびしい子どもになってしまいました.
それから10年.さびしい子どもはすくすく育って親はなくとも子は育ち,世間の人も大騒ぎ,欠点がないのでお坊さんになれと大騒ぎ.そんな勢いをかりてその子はお坊さんになったのですが,葬式に行ったらお経を忘れてしまいました.ただ! ガタイはよかったとさ!
中盤以降が勢いだけというか,タイトルと教訓をこなしているだけというか(苦笑).語り口が抜群で勢いがものすごくいいんですけども,気になるのは「激白」「ガタイ」.これらは先生が語ったままなんですが,子どもにはやはり難しすぎると思います(笑).結果,木村先生が2点を取って優勢勝ち.しかし勝ち残ると次にもう1本語らなければならないので,むしろ負けているのではなかろうか.
準決勝第2試合は清水先生VS有野先生の戦い.先攻はアルカイックな笑みの清水先生で,引いたタイトルは「鼻くそ太郎」で教訓は「雨降って地固まる」.教訓はともかく,あまりにすごいタイトルに愕然とする清水先生.このあたりからコツを掴んできた審査員どもも余計な設定を付け加えてくるもんだから,先生,動けなくなっております(笑).
「鼻くそ太郎」
「なんでやー,なんでオレだけがー」 皆からの嫌われ者,鼻くそ太郎は今日も一人で眠っておりました.「どうしてオラには友達ができねえだ」と太郎が祈ると神様登場.「雨降って,地固まるというではないか.お前の欠点を知れ」と言う神様は太郎の前の鼻の中が原因だと言いました.素直に会得した太郎は鼻が通るようになって,いらないくらい沢山の友達ができました.雨降って地固まるの一席でございました.
出だしの絶叫によるツカミを審査員も絶賛! むしろ本心? 方言はいいものの地方の統一が成されていなかったり,「会得」のような難しい言葉が出てきたりとディティールの面では問題が多かったかもしれません.しかし最も大きな問題はテーマの組み込み方.出てくる早さよりも思い切りテーマを連呼してしまうのはむかし話としては大変な問題だと思うんですが,清水先生はしらばっくれております.
後攻は睡眠不足の有野先生.引いたタイトルは「2メートルじいさん」で教訓は「急がば回れ」.なんとなく足の長そうなじいさんを使って教訓を表現するということで,タイトルと教訓の相性は悪くないんですが,ここで有野を攻撃したのが審査員.特にMEGUMIはかぶせ過ぎで,マイケルジャクソンの映画って何だよ(苦笑).そして先ほどの清水先生のむかし話から,教訓は直後には出てこないで,1分45秒以降で出てくるという縛りを加えてくる審査員.これに有野は激しく苦しめられることになります.
「2メートルじいさん」
むかしむかし,フロリダの山奥にベルナルドおじいさんが住んでおりました.おじいさんはいつもせかせかと時間に追われる牛乳配達をしていました.ある日近所に大きな団地が出来たので,おじいさんは売り込みに行き,客を獲得しました.もっと儲けるために搾りまくり売りまくるおじいさん.そんなおじいさんに花子ばあさんは,「お金が好きなのはわかるけれど,それでは牛乳を配達しきれない」と言いました.おじいさんはおばあさんにも牛乳配達を手伝わせたのですが,すぐ行けるところにも半日がかりで到着する始末で,ついには腐っているから結構だと断られ…
…完結しませんでした(笑).さすがはしりとり竜王だけあってその物語世界は群を抜き,フロリダで団地で花子ばあさんという実に独特の異世界だったわけですが,タイトルと教訓,さらに審査員からの縛りによって完結できなかったのがもったいない.一晩欲しがるのは長すぎる気がしますが,タイトルと教訓発表後に,1分程度の物語組み立て時間を与えてもいいんじゃないだろうか.しりとりだって,駒を落とすまでは少し時間がありますからね.結果,完結できた清水先生が3点を取って勝利.有野は清水先生ではなく,審査員とシステムに敗北です.
決勝は木村先生VS清水先生の戦い.席に着く前から小競り合いが発生しているあたりはご愛嬌.いとうが己のスタンスを定めきれない中,先攻の木村先生が引いたタイトルは「殿様になったカラス」で教訓は「百聞は一見にしかず」.殿様と無知で連携できる,これはいい組み合わせ.殿様がカラスになって新しい視点を得るってのが自分でも思いつく程度の最低ラインとなりますが,さすがは木村先生,面白い方向に物語を展開していきます.
「殿様になったカラス」
マグロのトロを捨てていた時代のお話.キョウコちゃんとヨウコちゃんという女の子がおりまして,隣の国から殿様がやってくると聞きました.キョウコちゃんは王様を見たことがなく,ヨウコちゃんに説明してもらってもわからないので,王様を見に行くことにしました.漫才師がいれば仏壇呼ばわりされるような豪華な馬車で通る殿様ですが,人ごみでキョウコちゃんには見えません.あの馬車に乗っているのが殿様だよとヨウコちゃんが言ったので,キョウコちゃんが見ると馬車の上に一羽のカラスがとまっています.キョウコちゃんはカラスを殿様と勘違いし,それはカラスだとお父さんに言われるキョウコちゃん.そこでキョウコちゃんが言ったのは,「だって私,見てないんだもの」.
よく考えると終盤はテーマに無理やり合わせた感があり,さらにむかし話というよりは落語に近いのはさて置いて(苦笑),中盤のおもしろ話としての展開を審査員は絶賛.漫才師と仏壇のあたりは馬車の殿様と合わせて異世界らしいいい味わいで,蛇足じゃないと思うんだけどな.
後攻は清水.最後のむかし話のタイトルは「おっちょこ姫」で教訓は「ケンカ両成敗」.姫と喧嘩の相性が悪く,近しいようでかなり難しいテーマです.先の名作「鼻くそ太郎」の姉妹編(笑)として期待される本作ですが,審査員以上にギャラリーからの余計な設定が迷惑.勝手に「ケンカがすごい」と被せられてしまった清水は,物語を成立させることができるのか.
「おっちょこ姫」
「助けてー!」 また聞こえたのは穴に落ちたお姫様,おっちょこ姫の声.これは地球の裏側の国のお話です.おっちょこ姫は素晴らしいお姫様.しかしあまりに完璧すぎると周囲がコンプレックスを感じるのではないかと危惧し,わざとおっちょこ姫を演じています.周囲の人々はおっちょこ姫のことが心配でした.ある日,舞踏会に素敵な王子様がやってきました.完璧な王子様に惚れられてしまい,このままでは完璧すぎて周囲にコンプレックスを感じさせると気を使ったおっちょこ姫は王子をひっぱたき,ふりました.そこで喧嘩両成敗となり,おっちょこ姫は妻が亡くなったじいやと結婚し,中くらいの幸せになりました.
シャウトによるツカミは健在ですが(笑)無理やり完結させるために最後が急展開.またテーマに苦しみ,木村先生はテーマをまっすぐ言いすぎと手厳しい.また単語が輪をかけて難しくなってきていて,「コンプレックス」とか「危惧」と難しすぎなのが審査員にも大ウケです(苦笑).やはり構成を考えさせる時間が少しでいいから欲しいなぁ….
結果.木村先生が初代むかし話王に! さすが即興でデタラメを語らせればこの人の右に出る人はいないですね.素晴らしいお話でした!
タイトルと教訓の組みあわせで即興話を作らせる,という基本的なコンセプトはかなり愉快なんですけども,長い話をやらせるなら,それに見合った考える時間を与えることが必要でしょう.例えばお題が決まったあと,先生にはヘッドホンをつけさせて1分考えさせ,一方審査員は勝手に1分間期待される物語を語りまくり,そのあと実際の競技を始める…という形のほうがより愉快な話が聞けそうな気がするんですが.なにはともあれ,仕組みをもう少し整備すればよい電波が漂いそうな企画なので,続編も期待してみたいと思います.
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